道端の攻防
またいつも通り家に帰ろうと会社から電車に乗って駅から自宅までの道のりをお気に入りの音楽を聴きながら歩いている。明日は休みだと、帰り際に一杯呑んで帰宅しているため少し気分も高揚していた。何をしようかなとぼんやり考えていると、イヤホンで塞がれた耳の隙間から女性の声が聞こえた。悲鳴に似た、助けてと誰かに懇願するような声だ。その声にハッとして前を見てみると、女性がガラの悪い男達に囲まれて腕を掴まれている。
「おい!!何してんだ!」
その事実だけでふいに声が出た。小走りで駆け寄り、男達から女性を引き離して自分の背に隠す。
「何すんだよ、今楽しんでんだろ?邪魔すんなよおっさん。」
男達はヘラヘラと笑いながら拳を振りかざし、俺の顔面めがけて殴り掛かる。その拳を軽く受け流して相手の腕を抱えてなぎ倒してやる。こう見えて学生時代はこの国では珍しい武道をやっていた。素人に負ける気はまるでしない。それにおっさんと言ったか?俺はまだ27だぞ。挑発に少し腹がたったが、軽くあしらってすぐ女性に下がれと伝える。
「て、てめぇ!」
残念ながら相手が頭の中に何も入っていないタイプだったために、今の攻防でもどちらが上か分からず、ただ我武者羅に暴力を繰り出してくる。多少鈍っているにしても、この程度なら何人で掛かってこようと……。と、思っていたが流石に少し多勢に無勢だった。数度打撃を喰らうも、技を掛けて相手をしていくとなんとか男達は諦めて散り散りに逃げていった。少し頭が揺れるが、軽い脳震盪だろう。
「あの……、助けていただいてありがとうございます。そ、それなのに何も出来ずに……。」
女性は心配そうに言う。
「大丈夫ですよ、このくらい。そりより怪我はないですか?」
「私はおかげさまで。本当に、なんとお礼を言ったら良いか……。あ、血が……!」
その女性に言われて額から血が垂れていることに気が付いた。
「すみません、大丈夫です。僕家すぐそこなので。」
そう言ってそのまま歩きだそうとすると腕を掴まれて引き止められた。
「ダメです!傷口から菌が入って化膿したらどうするんですか?……あ、私看護師なんです。その……お礼にはなりませんが、手当位させてください。」
「いや、そんな大した傷じゃないですから。お気遣いありがとうございます、それじゃあお気をつけて。」
腕を離しその場を立ち去ろうとした時、グラッと体制を崩しその場に膝をついてしまった。まだ目の前は揺れたままだ。思ったよりも脳に響いているらしい。
「ほら!全然大丈夫じゃないじゃないですか!!家どこですか!?」
さすがは看護師という手捌きでさっと身を抱えられて家まで案内させられた。しばらくして脳震盪も収まり、普通に歩けるようになったが今更帰れとも言えず結局彼女に甘えて家で手当をしてもらうことにした。