番外編 ②
書籍が2/17に発売されました!
応援してくださったみなさまありがとうございます!
今回はエミリアの話ではない、番外編を書いてみました。
ヒロインの話ではないのですが、楽しんでいただけますと幸いです~!
真っ暗な世界がしばらく続いた。
どれくらい続いたんだろう。
「エリザ、よくやった」
「ええ、あなたに似たとても美しい男の子ですわ」
うるさいな。なんだ?
目を開けると、金髪の美女が俺を抱き、同じく金髪のイケメンが俺を見下ろしていた。
うわ、なんだ!?
「あぁぅぅ……」
驚いて声を上げたのに、変な声しか出ない。
つか、赤ん坊みたいな声が出たぞ。
とっくに声変わりなんて終わってるって言うのにさ。
「ああ……瞳の色もあなたと同じ……」
「本当だ。でも、口元はキミそっくりだ」
…………俺、もしかして、死んだ後に生まれ変わった?
これって、転生ってヤツ?
この目の前にいる美男美女は俺の父ちゃんと母ちゃん?
キモオタ歴が長い俺は、瞬時に自分の状況を悟った。
マジか……!
部屋とか服装とか見た感じ中世ヨーロッパみたいな感じ?
ゲームの世界みたいで楽しそうじゃん。
前世にはなんの未練もないし、北条もいないし、新しい世界ですべてをやり直すっていうのもいいかもしれないな。うん。
「あなた、この子の名前はどうします?」
「ああ、ずっと考えていて、今朝ちょうどいい名前を思いついたんだ」
マジか。名前は重要だぞ。
前世で「流星」なんて名前を付けられて、相当苦労したからな!
さあ、いい感じの名前を頼むぞ。
両親の顔立ちからいって、俺も相当なイケメンになる可能性がありそうだ。
イケメンに相応しい名前を頼む。
「このシャブリエ公爵家の跡取りだ。代々家は宰相を務めているから、この子もそうなるだろう。王を支える男として相応しい名前にしないと! と思って……」
マジか。公爵家ってかなりの勝ち組なんじゃねーの? しかも、宰相? 社会的地位高いじゃん!
「勇敢な英雄という意味で……」
勇敢な英雄! かっけぇ!! 期待大!
「ドスケベチンポ」
……………………は?
こいつ、何こんな大事な時に下ネタ言ってんだよ。
空気読めよ。
奥さんもドン引きだぞ。
「まあ!」
え、何? 感激した感じのこの声!
空気を読まない下ネタが大好きってこと?
奥さん、変わってますね!
「この子の名前は、ドスケベチンポだ」
嘘だろ………………。
「ドスケベチンポ・シャブリエですわね」
こんな美女からドスケベチンポって……てか、決定⁉
この名前で決定⁉ 嘘だろ!?
しかもその苗字、さっきまでは何とも思ってなかったけど、セットにしたら最悪の名前じゃねーか!
「あぅっ! あうぅ……っ」
そんな名前は嫌だっ! もっといい名前を付けろ!
必死に訴えても、全く喋れなかった。
「うふふ、この子も喜んでいますわ」
「本当だな。ああ、なんて愛らしいんだ」
喜んでねーーーー……!
最悪な下ネタネームを付けられてから、二十二年が経つ――。
「ああ、キミの瞳はなんて美しいんだろう。その美しい瞳に僕の姿を映して貰えるのが嬉しいよ」
「シャブリエ公爵……」
「そんな他人行儀な呼び方は嫌だな。ドスケベチンポか、チンポって呼んで欲しいな」
「ドスケベチンポ様……」
令嬢の瞳越しに見る俺もカッコいい……。
俺は想像以上にイケメンで、育っていくにつれてさらにイケメンになった。
サラサラの金髪、エメラルド色の目、ホントイケメンだから、毎日鏡を見ていて本当に飽きないんだよな。
ナルシストっぽいって? ナルシストじゃなくて、事実イケメンだからな!
よく“人間、顔じゃない”なんて言われてるけど、嘘じゃねーか。
元キモオタデブで、現在はイケメン(しかも家柄がいい)俺が証明してやるよ。
中身は変わってないっていうのに、令嬢たちは俺に夢中になった。
前世ではダンスのペアになっただけで泣かれていた俺だったが、今では俺に声をかけて貰えないかソワソワして待ってる。
前世ではハンカチを拾ったことで罵られていたが、今ではお礼にお茶でもご馳走させてくださいと言われる。
とんでもない名前を付けられちまったけど、この世界ではスゲーいい名前みたいだしな。
なんか新たな性癖に目覚めちまって、令嬢たちに自分の名前を言わせるとゾクゾクする。
愛らしい子も、清楚な子も、可憐な子も、みーんなチンポチンポチンポ! ドスケベチンポって言う。
なんかその姿を見ると、スゲー興奮するんだよなぁ。
今も半分ぐらい勃ってる。あ、どことはあえて言わないけど。まあ、ドスケベチンポの勇敢な英雄が?
まあ、頑なに言わない子もいるんだけどさ。
エミリア嬢、ラクール公爵家の令嬢で、ジャック王子の元婚約者――。
何度も名前で呼んで欲しいって頼んでるのに、彼女は頑なに呼んでくれない。
彼女は三年前に暴漢に襲われて意識不明の状態だったが、つい最近目覚めて城に顔を出していた。
どうしてだろう。あの子には他の子と違う何かを感じるんだよな。
とびきり綺麗だから?
……いや、確かに容姿は極上なんだけど、そういうアレじゃなくて。
見た目は全然違うけど、なーんか、前世で好きだった北条と同じ雰囲気を感じるんだよな。
そのせいか彼女が暴漢に襲われた話を聞いた時、スゲーショックを受けた。
そんでもって目を覚ましたって聞いた時は嬉しかったんだよなぁ。
ジャック王子とは婚約破棄したし、次は俺の婚約者になってくれないかな。
おっと、話が逸れた。
ということで、顔・顔・顔! 顔が全て! この世は顔が全てだ。
おまけに家柄が星5! もう、転生ガチャ大当たり過ぎるだろ。
まあ、馬鹿の王子の相手は疲れるけど、不満はそれぐらいだ。ドスケベチンポの人生、最高!
令嬢と遊んで帰ってきた夜、屋敷に戻ると小腹が空いた。
運動したからな~! まあ、運動って言っても夜のだけどな!
使用人を起こして……いや、自分で作るか。
北条のことを久しぶりに思い出したからか、自分で作ってみたくなった。料理をするなんて前世ぶりだな。
キッチンに入って食糧庫を確認すると、アレが作れそうだった。
「よし、ピザトースト……作るか」
北条が影響されて作ったって言ってたピザトーストだ。
北条と話した夜、俺も作って食べた。
まずは夜に作って余ってたらしい食パンを厚めに切った。
この上にケチャップを……ってこの世界にあるわけないか。自分で作らないとな。
ケチャップってどうやって作るんだ? まあ、適当にやってみるか。
フライパンにオリーブオイルを垂らして、みじん切りにしたニンニク入れて香りだし。うわ、うまそーな匂い。
それにみじん切りにした玉ねぎを入れて炒めて、角切りにしたトマトを投入っと。うん、うん、それっぽいじゃん。
火が通ったら味付けだよな。砂糖と塩でいいか。適当にパラパラ……と。お、うん、うん、美味いじゃん。
よし、できたぞ。トマトソースを食パンに塗って、チーズをたらふく乗せて……っと。
その上には刻んだベーコンと輪切りのピーマンを飾って。
オーブンで焼く!
この世界のオーブンでは、何分焼けばいいんだ? まあ、見張ってればいいか。
ピザトーストをオーブンに入れ、俺はその前に椅子を持ってきてどっかり座った。
焼けていくピザトーストを見ながら考えるのは、北条のことだ。
懐かしいな。北条……今の俺の姿を見たら、どう反応したかな。
……いや、北条は見た目で判断する奴じゃないから、前世の俺と接してた時と同じような反応をするんだろうな。
「だから好きだったんだよな……」
ボソッと呟く。
ちなみに今の俺、声までカッコいい。セクシーボイスってやつだ。
北条との思い出に浸ってると、あっという間に焼けた。
ピザトーストって、どうしてこんなにも食欲がそそられるビジュアルなんだろうなー……! 反則だって!
こんなビジュアル見せつけられたら、部屋に持って帰って……なんて悠長なことは言っていられない。この場で食うしかない。
「熱ちち……」
激熱なピザトーストを両手でそっと持ち上げる。
油断するなよ。ちょっとでも傾けたら、チーズが皿に落ちて悲惨なことになるぞ。
そっと口に持っていって、息を吹きかけながら食らいついた。
サクッといういい音がした瞬間、口の中にチーズのまろやかさとトマトの酸味が口の中でマリアージュを起こす。
「うっっっっっっっっっま……!」
燻製されたベーコンと合わさるとさらにいい。
輪切りピーマンもほんのりとした苦味が合わさっていい。あー全部いい! 美味すぎ!
夢中になって食べ、あっという間に平らげた。夢中になりすぎたな。ちょっと口ん中火傷してる。
「はあ……美味かった。俺、天才じゃん……」
たまには料理するってのもいいな……てか、俺が転生したってことは、北条もどこかに転生してるって可能性もないか?
「…………あるんじゃね?」
そうだよな。なんで今まで思いつかなかったんだ。
この広い世界の中、北条も転生してるかもしれない。そう考えたら希望の光が目の前に差し込んだ。
もし今度会うことができたら、告白しよう。そんでもって、このピザトーストを食べさせてやるんだ。
「……おっと、忘れてた。母ちゃんはこういうことに厳しかったからな」
俺はパンッと両手を合わせる。
「ご馳走様でした……っと」
さて、二週目の人生、頑張りますか!
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