エピローグ ③
「うん、美味しい。鍋ってこんなに美味しかったのか」
「え、レオン、食べたことないの?」
「ああ、食べる機会がなかったからな」
レオンは前世、お母さんとの関係性があまりよくなかったみたいだものね。お鍋をすることもなかったのかしら……。
「じゃあ、これからたくさん私と一緒に食べましょう! 私、たくさん作るわ!」
レオンは驚いたように目を丸くすると、すぐに嬉しそうに笑ってくれる。
「ああ、エミリアと一緒に食べたい」
「ええ、食べましょう!」
「私も初めて食べたが、とても美味しい。とても奥深い味のするスープと具材がよく合っているな」
「気に入ってもらえてよかったわ。このスープはね、お味噌という調味料と鶏がらスープで作っているの」
「オミソ……初めて聞く調味料だ。エミリア、お前は本当に色んなことを知っているな」
「ふふ、色んなことじゃないわ。知っているのは、食べ物のことばかりよ」
「謙遜するな」
ハンスお兄様が、頭を撫でてくれる。
こうして私の頭を撫でてくれる人は、おばあさまだけだった。
でも、今は、お兄様が撫でてくれるのね。
大人になってから撫でられると、なんだか照れくさいわ。
「エミリアお嬢様、すごく美味しいです! 身体の内側からポカポカする気がします」
「にんにくと生姜が入っているからよ。この二つは身体を温めるから、寒い季節に食べるといいのよ」
「本当に美味しいです。ふむ、寒い地域で野営するときによさそうですね。美味しい食事は兵たちの士気も上がりますし」
野営……戦争かしら? それとも演習?
「よかったら、後でレシピを書いて、お渡ししましょうか?」
「ありがとうございます。助かります。それにしてもレオン様がたくさん召し上がってくださって嬉しいです。毒を盛られる以前から、食の細い方でしたから」
「レオン、そうだったの?」
「ああ、あまり食に興味がなくてな」
「華奢な女性の食事量より少ないんですよ。それでよくここまで大きくなったものです」
「えっ! そうなの!?」
レオンの身長はデニスさんよりも高くて、体格もいい。本当にそんな食事量で、よくここまで大きくなったものだわ。
「エミリア様が作ってくださるようになってから、ようやく成人男性の食事量に達しました。エミリア様、ずっとデュランタにいてください」
「エミリアと俺は結婚するんだから、いてくれるに決まってるだろ」
「ちょ、ちょっと、二人とも……」
「待て、エミリアはモラエナに連れて帰る」
「えっ!?」
「そろそろいい歳なんですから妹離れをしたらいかがですか? お・義・兄・さ・ん?」
「お義兄さんと呼ぶなと何度言わせる。……エミリア、私は父上からなんとしても近日中に爵位を譲り受けてみせる。ラクール公爵になれば、お前に今までのような辛い生活を送らせることもないし、自由に過ごしてもらうことができるはずだ。だから、モラエナに戻ってきてくれ」
「なんとしてもってどうやって!?」
「なんとしてもだ」
ハンスお兄様の目が怖い! 一体、何をしでかすつもり!?
「自分の今後のことは、時間をかけてじっくり考えたいの。だから、すぐには答えが出せないわ。ごめんなさい」
鍋を見ると、もう具材がなくなっていた。
「もう、具材がないわね。私、うどんを入れてくるわ」
「あ、エミリアお嬢様、お手伝いします!」
「ううん、一人で大丈夫よ。すぐだから、待っていてね」
うどんを茹でて、煮込んで持ってきた。レオンは懐かしいといった顔で、鍋の中身を眺めている。
「お待たせしました! このうどんは、マリーが作ってくれたんですよ」
「はい、少しだけお手伝いさせていただきました」
「これがウドンですか。パスタみたいですね」
「似てますが、味や食感は違うので食べてみてください。あ、ちなみにうどんは音を立てて食べるのが流儀なので」
音を立てることに、レオン以外はみんな驚きの声を上げた。
「いただく」
「ええ、召し上がれ」
レオンと私が音を立てて食べ始めると、みんな遠慮がちにすすり始めた。
「ん……っ……! うどんって、こんな味だったんですね。すごく美味しいです!」
「マリーが一生懸命作ってくれたから、美味しくできたのよ」
「さっきの鍋のスープが麺に染みて、すごく美味しい。こんな麺は初めて食べた。体調が悪いときにも食べられそうだ」
「じゃあ、今度ハンスお兄様が体調を崩したときには、煮込みうどんを作ってあげるわね」
「作ってくれるのか?」
「ええ、もちろんよ。でも、心配だから、身体には気をつけてね」
「エミリアが傍に来てくれるのなら、いくら体調を崩してもいい」
「もう、そんなこと言わないで。いつまでも元気でいてくれないと嫌よ」
「ああ……」
デニスさんが、何やらレオンに耳打ちしているのが見えた。
「レオン様、あんなに好き好きオーラを出しているのに、エミリア様にはちっとも効いていませんよ。鈍いってレベルじゃありません」
「だから苦労しているんだろうが」
全然聞こえない。
もしかして、うどんが口に合わなかったのかしら。
「デニスさん、お口に合いませんでしたか? 無理しないでくださいね」
「いえ! とんでもないです。ものすごく美味しいです。こちらも後でレシピをいただけますか?」
「ええ、もちろん」
「エミリア、本当に美味しい。今まで食べたうどんの中で一番美味しい」
「よかったわ!」
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