エピローグ ①
和平交渉の儀を終えてから、一週間が経った。
「エミリアお嬢様、まだお休みになっていた方がよろしいのではないでしょうか。また、無理をして倒れられては……」
「もう元気だから大丈夫よ。いつまでも寝ていたら、逆に具合が悪くなっちゃうわ」
カタリーナと対決した私は、睡眠薬とワインの飲み合わせが悪かったみたいで気を失った後、疲れが溜まっていたのか熱を出してしまった。
お医者様に診ていただいて、司祭様に祝福をかけてもらったおかげで、一日で元気になったのだけど、みんなに安静にしていないと駄目だと言われて、一週間もベッドに横になっていたのだ。
ジャック王子の婚約者時代は、熱を出したときも休むことを許されなかったから、たくさん寝たい!
なんて思ってたけど、今回初めてわかったわ。
睡眠は適度にとるのが一番!
みんなに迷惑をかけたので、お詫びを兼ねて夕食会を開くことにした。
メニューはお鍋だ。この世界に土鍋はないけれど、普通の鍋で作っても十分美味しいわ。
「エミリアお嬢様、まだ踏んだ方がよろしいでしょうか?」
「見せて。うん! バッチリだわ。マリー、とっても上手よ」
「はい! 頑張ります」
締めのうどんは、マリーに協力して作ってもらった。
小麦粉とお水と塩を混ぜ合わせて、清潔な袋に入れてひたすら踏む!
踏むことで弾力が生まれるのだけど、踏みすぎると硬くなりすぎるから注意が必要だ。
鍋の締めって雑炊かうどんで迷うのよね~……!
許されることなら、両方味わいたいところだわ!
「じゃあ、生地を少し休ませて、その後に延ばして切りましょう」
「はい!」
生地を休ませている間に、私はお鍋の用意をする。
デュランタは海に面しているから新鮮な魚介類が手に入る。
でも、酪農に適した気候と広大な土地もあるため、上質なお肉も手に入れることができるのだ。
魚介類か、お肉か……迷いに迷って、スタミナが付きそうなお肉に決めた。
今日はとてもいい豚肉が手に入ったらしいので、豚肉を使って味噌鍋を作ろう。
材料は、豚肉、白菜、ねぎ、えのき、しいたけ! お鍋を作るときって、欲張って色んな具材を入れたくなっちゃうのよね。
材料を一口大に切って……と、チラリと鶏がらスープを作っている鍋に目をやる。
うん、いい感じ!
「エミリア様、こちらにいらっしゃいましたか」 すると使用人の一人が、キッチンに入ってきた。
「どうしたの?」
「お手紙が届いておりますので、お持ちしました」
「ありがとう」
濡れた手を拭いて、手紙を受け取る。
誰からかしら……。
差出人を見て、「うわっ」と声を上げてしまう。
「エミリアお嬢様、どなたからのお手紙ですか?」
「カタリーナよ……」
カタリーナは和平交渉の儀の翌日に、モラエナへ戻った。
まだここに残りたいとごねていたけれど、王子妃としての公務があるからと泣く泣く帰ったそうだ。
ちなみにハンスお兄様は、私のことを心配して、まだデュランタに滞在してくれている。
いつかモラエナに帰ってしまうのよね。せっかくわかり合えたのだから、ずっと一緒にいら れたらいいのに……。
ペーパーナイフがないから、上の方を破かせてもらった。
あっ……! 毒を塗った針とか、仕込まれてないわよね!?
一瞬ドキッとしたけど、大丈夫だった。
開封すると、カタリーナの使っている香水の匂いがする。
普段はいい香りだと思うけど、料理をしているときはそう感じないのよね。
なんて書いてあるのかしら……。
『愛しのエミリアお姉様へ
お身体の具合はいかがですか?エミリアお姉様の愛の鞭が忘れられません。
お姉様があんなにも素敵な人だって、どうして今まで気付くことができなかったのかしら。愚かな私をどうか許して……。
早くまたお姉様にお会いしたいわ。いつお会いできますか?
デュランタ国にいるとなかなかお会いできないから、モラエナに帰ってきてほしいの。
実家に帰るのは嫌だろうから、私の侍女になってもらって、モラエナ城に住むのはいかがかしら。
うん、とっても素敵! エミリアお姉様もそう思うでしょう? それでは、お返事待っています。
あなたのたった一人の妹、カタリーナより』
「とんでもない不幸の手紙だったわ……」
「だ、大丈夫ですか?」
「ええ、さっさと処分しましょう。そうだわ。ちょうど料理に使っている火が……」
そんな火で調理したら、料理が呪われそうね……!
「……後で処分するわ」
気を取り直して、手を洗って料理の続きに戻る。
「そろそろうどんがいい頃ね」
まな板の上に打ち粉をして、休ませていた生地を平らに延ばす。うん、これぐらいね。
三ミリ幅で切っていく。
「わー! これがうどんなんですね。パスタみたいです」
「美味しいから期待していてね」
「はい!」
前世でおばあちゃんとよく一緒に作ったのよね。
前世だとうどんは買った方が安いし、早かったけど、手作りだと特別感があって嬉しかったし、すごく美味しかった。
「締めのうどんの準備はバッチリね! 伸びちゃわないように、直前に茹でて……と、後は主役を完成させましょう」
鍋の中に鶏がらスープ、味噌、醤油、砂糖、すりおろしたにんにくと生姜を入れて火にかける。
前世では顆粒状の鶏がらスープを使ってたからわからなかったけど、一から作るのって結構大変だったわ。
「お味噌って、本当にいい香りですね」
「気に入ってもらえてよかった。本当はお酒を少し入れられたらよかったのだけど、禁酒令が出ているから仕方がないわね。これでも十分美味しいと思うわ」
もうすぐ約束の時間だ。
そろそろ具材を入れても大丈夫そうね。具材を入れて煮込むと、さらにいい香りが広がる。
「そろそろいいわね。さあ、みんなのところに運びましょうか」
「はい!」
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