第十六話 ④
『お前はいつもカタリーナに嫉妬ばかりして! あの子がどんな思いをして生きてきたと思っている!』
『実の娘だからと目を瞑ってきたけれど、もう限界よ。あのまま、目覚めなければよかったのに!』
家を出るときに、お父様とお母様が言っていたことを思い出す。
それまでもたまに、身に覚えがないことを言われたことがあったけど、そう、カタリーナがお父様とお母様に嘘を言っていたからだったのね。
「長年の謎が解けたわ」
「カタリーナ、お前は……っ」
ハンスお兄様が声を荒らげても、カタリーナは全く興味を示さなくて、私だけを見ている。
「エミリアお姉様、どう? ショックを受けた?」私が傷つくのを見たいのね。
「驚いたけど、ショックというか、腹が立つわ」
「そうよね。私が何も言わなければ、お姉様はお父様とお母様に愛してもらえていたかもしれないものね」
カタリーナは楽しそうに話す。
「あなたにも腹が立つけど、お父様とお母様にも腹が立つわ。あなたの話を一方的に信じて、私に事実確認をしないのだもの」
「うふふ、そうよね、そうよね」
まるで、おもちゃを目の前にした子供のように、目を輝かせていた。
「だからと言って、傷つきはしていないけれどね」
嘘だ。とても傷ついた。
だけど、これ以上カタリーナを喜ばせたくはなかった。
「ふふ、お姉様ったら、無理しちゃって」
「そう思いたいのなら、そう思っていればいいわ」
感情を表情に出さないようにして話す。
これは、次期王妃として育てられていたときに習った技だった。
カタリーナは面白くなさそうな顔をして、ため息を吐く。
なんとか誤魔化せたみたい。
まさかあのときに習ったことが、こんなところで役に立つなんてね。
「……レオン、助けてくれてありがとう。そして妹が本当にごめんなさい。デュランタ国には重ね重ね失礼なことをして、本当に申し訳なく思っているわ。モラエナはとっくに滅ぼされてもおかしくないと思ってる……でも、もし、まだ温情をかけてもらえるのなら、このことは内密にしてもらえないかしら」
「エミリアがそうしたいのなら、俺は構わない。けれど、彼女を罪に問わなくていいのか?」
「ええ、いいの」
するとカタリーナが立ち上がり、声を上げて笑い始める。
「あははっ! ふふ、もう、お姉様ったら、お人好しね。二度も殺されそうになっているのに、妹を庇ってくれるの? やだ……うふふっ……もう、傑作!」
私はベッドから降りて、カタリーナの元へツカツカと歩く。そして白い頬を平手で思いっきり叩いた。
パン! といい音がした。
カタリーナは頬を押さえ、何が起きたかわからないといった様子で目を丸くしている。
「あなたは、どこまで愚かなの? 妹だから庇っているわけじゃないわ。私が内密にしてほしいのは、モラエナ国のためよ。次期国王から勝ち目のない戦争を仕掛けた上、今度は次期王妃が刺激を求めたいからなんて下らない理由で戦争の火種を生み出そうとするなんて……このことが明るみになれば、今まで我慢をしてきたモラエナ国民にさらに苦しみを与えることになるのよ。次期王妃として、人間として、恥ずかしいと思わないの? 私はあなたみたいな人が妹だなんて恥ずかしいわ」
「エミリアお姉様……あっ……」
私はカタリーナの胸倉を掴んで、自分の方に引き寄せた。
「覚えておきなさい。あなたが今後モラエナを脅威に晒すような真似をするのならば、姉として見過ごせない。不穏な動きを少しでも見せてみなさい。私はあなたを殺すわ」
犯罪者になるなんて嫌よ。
人を殺すなんて嫌……でも、次期王妃として育てられたからかしら。
モラエナ国民を危険に晒す行為をしているのが妹なんて許せなかった。
カタリーナを溺愛しているお父様とお母様にはできない。
未来あるハンスお兄様を犯罪者にするわけにもいかない。だから、私がやるしかない。
脅したところで、カタリーナの心に響くなんて思わないけれど……。
「エミリアお姉様……私……私……」
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