第十五話 ⑤
「どうして?」
「どうしてもだ」
「もう、変なお兄様」
ハンスお兄様もダンスが上手だわ。
リードしてくれるから、上手に踊れている気がする。
「エミリア、お前がモラエナ国でも自由に暮らせるように力をつける。だから待っていてくれ」
ハンスお兄様、心配してくれているのね。
「ありがとう。でも、気持ちだけで十分よ。迷惑をかけないように頑張るから」
「そんなことを言わないでくれ」
ハンスお兄様が、傷ついたような表情を見せるのでドキッとしてしまう。
どうして、そんな顔をするの?
「ごめんなさい。私、傷つけるようなことを言ってしまったかしら」
「謝ることはない。お前に頼りにしてもらえない自分が情けないだけだ」
「そんなことないわ。私はただ、迷惑をかけるのが嫌なの」
「迷惑をかけてもらいたいんだ」
ハンスお兄様、優しい人──。
でも、だからこそ、迷惑をかけたくないと思ってしまう。
「ありがとう。ハンスお兄様」
そろそろ次の曲に移る。
「エミリア、もう一曲踊らないか?」
「ご、ごめんなさい。久々のパーティーだったからか疲れてしまって……少し休むわ」
はあ……二曲踊っただけで、ヘトヘトだわ。
畑仕事はバリバリやれるのに、ダンスとなるとどうしてこんなに疲れるのかしら。
使う筋肉が違うのかしらね。
汗もかいたし、化粧が崩れていないかも心配だわ。
「私、化粧室に行ってくるわね」
幸いにも化粧は崩れていなかった。
すぐにホールに戻ったものの、まだ身体が熱い。
「お飲み物はいかがですか?」
侍女の持っていた飲み物は、ワインとオレンジジュースだった。
お酒を飲んだら余計に暑くなりそうだし、オレンジジュースにしましょう。
オレンジジュース大好きなのよね。
ジュースを貰った後、私はレオンとハンスお兄様のところには戻らず、バルコニーに出た。
「はあ……風が気持ちいいわ」
ジュースを飲みながら涼んでいると、後ろの窓が開く音が聞こえた。
誰か来たのかしら。
振り返ると、ワインを持ったカタリーナが立っていた。
「エミリアお姉様、涼んでいるの? 私もご一緒していい?」
天使のようだと思っていたカタリーナの笑顔、今はとても恐ろしい。
断るのも変よね。
「え、ええ、どうぞ」
「ありがとう。じゃあ、乾杯しましょ」
「ええ」
グラスを合わせて、一口飲む。
さっきまで美味しく飲めていたのに、今は味がしないわ……。
「エミリアお姉様、ごめんなさい……」
「えっ?」
まさか、刺したことを自白するつもり
「お姉様が意識不明になっている間に、ジャック王子と結婚してしまって……」
あ、そっちのことね!
「でも、仕方がなかったの。お父様も王家も、お姉様の代わりに結婚しなさいって言うから、どうしても断りきれなくて……」
カタリーナは涙を浮かべ、声が震えていた。すごい演技力だわ……。
あのとき王城で本当のカタリーナを見ていなかったら、本当に心を痛めているように思うだろう。
「エミリアお姉様を裏切るつもりなんてなかったの……!」
よく言うわ。あなたがそう仕向けたくせに……。
でも、こんなところで真っ向からカタリーナと対決する気なんてない。
「いいのよ。気にしないで」
「本当に……?」
「ええ、本当よ」
次の瞬間、いきなり眩暈と強烈な眠気が襲ってくる。
何……?
身体に力が入らなくて、膝から崩れ落ちてしまう。
「許してくださるのは、モラエナよりも格上のデュランタの王子の心を射止めたから?」
カタリーナ、何を言っているの……?
「本当に目障りなお姉様ね」
汚物を見るような目で私を見下ろしているカタリーナの姿を最後に、私は意識を手放してしまった。
気に入ってくださったら、評価ブックマークいただけると嬉しいです~!
更新の励みになります!




