第十五話 ①
レオンの返事で一か月後に和平交渉の儀が、デュランタ国で行われることになった。
交渉の儀の後は、両国の臣下たちを集めて盛大なパーティーが開かれることになり、私も出席することになった。
ラクール公爵家も出席するはずなので、多分お父様もいらっしゃるでしょうね。
体裁を最も大切にしているお父様だから、さすがに人前で私を怒るようなことはしないはず。
でも、なるべく顔を合わせたくないわ。避けて通ることにしましょう。
さすがにジャック王子は国に残ると思っていたのに、なんとまた来るらしい。あいつ、クズな上に図々しいわね!?
しかも、妃であるカタリーナまで来るらしい。
何か起こらない……わよね?
以前事を仕出かしたジャック王子には十分監視が付けられるはずだし、またレオンが危険な目に遭うことはないと思う。
でも、どうしてだろう。胸騒ぎが止まらない。
「エミリアお嬢様、和平交渉のパーティーでは、どのドレスをお召しになりますか?」
「そうねぇ……」
こちらでも何らかのパーティーに出席する可能性を考えて、色々持ってきた。
私が意識不明になる前に買った三年前のものだけど、マリーが全部直してくれたから問題なく着ることができる。
かなりの枚数だったし、大変だったでしょうね……マリーの優しさに頭が上がらないわ。
「パーティーだなんて久しぶりですね! 腕が鳴ります! さあ、どちらに致しますか? 新しく仕立て直します!?」
「駄目よ。家出もしたわけだし、これからは節約しないとね」
おばあさまは私に、自分が亡くなった後に私が不自由しないように……と、多額のお金を用意してくれていた。
モラエナを出発する前にアシルが手渡してくれて驚いた。私がいつかラクール公爵家から逃げることを予測していたのかしら。
一人で生活できるようになるまで、このお金は大切に使わなくちゃ……!
「でも、これからは王子妃になるではないですか」
そうだわ。これを機に誤解を解いておきましょう。
「あのね、マリー……」
口を開いたその時、扉をノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ?」
「失礼します」
扉を開けたのは、デニスさんだった。そして、たくさんの箱を持ったレオンが入ってくる。
「え、レオン? どうしたの?」
「和平交渉のパーティーで、エミリアに着て欲しいと思って揃えてきた。受け取って貰えるか?」
「えっ! いいの? ありがとう。開けてもいい?」
「ああ、見てみてくれ」
一番大きな箱のラッピングのリボンを解いて、中を開ける。
「わあ……っ!」
中に入っていたのは、ピンク色のドレスだった。薄いピンク色の生地に色とりどりの布でできた花やリボンがたくさん縫い付けられている。
「まあ! まるで春の妖精のようなドレスですね。エミリアお嬢様にピッタリですわ」
「素敵だわ。レオン、ありがとう。私の好きな色がピンクだって、マリーから聞いたの?」
「いえ、私はお伝えしていませんよ」
「そうだったのか? 俺はエミリアに一番似合いそうな色はピンクだなと思って選んだだけだ。でも、好きな色ならよかった。他も開けてみてくれ。靴とアクセサリーもある」
「ええ、楽しみっ!」
小さい箱を開けると、髪飾りとアクセサリーだった。ダイヤと真珠で作られた花の髪飾りとイヤリング、そして大きなピンクダイヤのネックレスが入っている。
「綺麗……でも、こんな贅沢な品、頂いていいの?」
「ああ、エミリアのために用意したものだから、エミリアに貰ってもらえなかったらずっと俺の部屋の片隅に置いておくことになる」
「レオン様、本当に一生懸命ご用意されたんですよ。箱だって僕が持ちますよって言ったのに、ご自分が持つんだって聞かないんですから。渡す前から、すっごくソワソワしちゃって。まるで子供みたいでしょう?」
レオン、そんなに一生懸命選んでくれたのね。
胸の中が温かくて、くすぐったい。
「デニス、格好悪いことを告げ口するな。もっと俺の株が上がりそうなことを言えといつも言ってるだろ」
「レオン様、知らないんですか? 女性は外見と内面の差が激しいほど、キュンとするそうですよ」
「嘘を吐くな」
「酷い! 僕、嘘なんて吐いてませんよ。ふっ……ふふ」
「ニヤニヤしながら言う奴の言うことなんて信じられるか」
「レオン、ありがとう。一生懸命選んでくれて嬉しいわ。大切にするわね」
「ああ、俺も気に入って貰えて嬉しい。そっちの中ぐらいの箱も開けてみてくれ」
「ええ」
中ぐらいの箱を開けると、シルバー色の靴が入っていた。たくさんの宝石がふんだんに散りばめられていて、キラキラ輝いている。
「何て素敵なのかしら……」
「パーティー当日、それを身に着けたエミリアをエスコートできるのを楽しみにしてる」
「エスコートしてくれるの?」
「ああ、俺のこと、パートナーにしてくれるだろ? してくれないって言っても、強引になるつもりだけど」
「ふふ、言わないわ。ありがとう。レオン、よろしくね」
ジャック王子以外の人が、パートナーになってくれるのは初めてだわ。
何か起こるような予感がして不安だったけど、レオンがくれたこのドレスを着て、レオンと一緒に居れば大丈夫な気がしてきた。
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