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第十三話 ③


 城の侍女たちにも手伝って貰って庭にテーブルをセッティングして、レオンを呼んでお茶会を始めた。


 レオンが最初に選んで口にしたのは、木の実のクッキーだった。


「ん、すごく美味い。甘じょっぱいクッキーは初めて食べた」


「少しだけ塩を入れてあるの。前世で塩キャラメルってあったじゃない?」


「ああ、あったな」


「あれを初めて食べた時にね、思いついて作ってみたのよ。そうしたら、すごく美味しくて!」


「確かに甘い物としょっぱいものの相性はいいよな。スイカにも塩をかけて食べるし、メロンにも生ハムを乗せて食べる人がいるし」


「生ハムメロン! 憧れてたけれど、一度も食べたことがないわ」


「今度やってみるか」


「わー! ぜひぜひ試してみたいわ」


 盛り上がっていたら、小さい女の子がこちらに向かって走ってきた。


「姫様! アンネリーゼ姫様! 走ってはいけません! また具合が悪くなってしまいますよ!」


 後ろから追いかけてきた女の人の言うことを聞かず、女の子は走り続ける。


 姫様? あ、第一王女のアンネリーゼ姫かしら? 国王夫妻の子供で、レオンとお母様違いの妹だわ。私が勉強した時は二歳だったから、今は五歳のはず。じゃあ、追いかけているのは侍女ね。


「リーゼ、何をしてるんだ?」


 リーゼ……アンネリーゼの愛称ね。やっぱりこの子は、アンネリーゼ姫だったのね。


 レオンは立ち上がって、アンネリーゼ姫を抱き上げた。


 うわぁ……可愛い!


 髪の毛の色はブルネットで、瞳の色は青……王妃様と同じだ。小さい王妃様みたいだわ。


「レオンおにいさま!」


 声まで可愛いわ! 天は二物を与えないって言うけど、嘘だったのね!


「リーゼ、熱は下がったのか?」


「うんっ! でも、カミラがちょっとしかお外に出ちゃだめって言うのよ。カミラはいじわるだわ」


 カミラというのは、アンネリーゼ姫の侍女のようだ。姫はレオンにしがみつくと、涙目でカミラを睨む。


「ア、アンネリーゼ姫~……」


 カミラさんがショックを受けて、涙目になる。


「カミラは意地悪をしているんじゃなくて、リーゼを心配しているんだよ。お前は身体が弱くて、無理をするとすぐに具合が悪くなってしまうからね。病み上がりならなおのことだ」


 アンネリーゼ姫は頬を膨らませて、黙ってしまう。


 そうよね。この年頃なら、部屋で黙っていなさいって言うのは辛いはずだわ。


 すると彼女は私の方に顔を向ける。大きな瞳と目が合った。



「……天使さま?」



「えっ?」



 あ、金髪だからかしら。天使の絵は、金髪がほとんどだものね。



「天使のように美しいが、その人は人間で、いずれ俺の奥さんになってくれる人だ」



「ちょ、ちょっと、レオン!」



「レオンおにいさまの、おくさん……? わたしのおねえさま?」



 アンネリーゼ姫の目が、キラキラ輝く。



「あの、私は……」



「そうだ。お義姉様になる人だ」



「レオン!」



「わぁぁぁ……! おねえさまっ!」



 アンネリーゼ姫の目が、さらに輝いた。



 信じちゃったわよ……!


「初めまして、アンネリーゼ姫、私はモラエナ国のラクール公爵家の長女、エミリアと申します」


 ドレスの裾をつまんで左足を下げ、右膝を軽く曲げて挨拶をする。


「リーゼ、ご挨拶を」


「はいっ!」


 レオンから降りたアンネリーゼ姫は、私と同じく挨拶をしてくれる。


「デュランタ国第一王女、アンネリーゼ・リースフェルトです。リーゼってよんでください。エミリアおねえさま」


 かっ……可愛い……! エミリアおねえさまですって! いやぁ! 天使……っ!


 …………じゃなくて! 完全に誤解されちゃってるわ!


「リーゼ姫? 私はレオン……王子の奥さんではなくてですね」


「これから婚約をするから、婚約者だな。奥さんになってくれるのは、もう少し後だ」


「こんやく?」


 リーゼ姫が首を傾げる。


「結婚の約束をすることだ。本当ならすぐ結婚したいんだけど、俺たちの場合立場上そうもいかない」


「もう、レオン……!」


 婚約をしないということになったら、リーゼ姫を戸惑わせてしまうかもしれない。


 ちゃんと否定しておかないと……!


「クッキー……」


 リーゼ姫の大きな瞳が、テーブルの上のクッキーを見ている。


「もしよろしければ、召し上がりますか?」


「うんっ! チョコのがいい!」


 可愛い……!


「じゃあ、毒検知の魔道具を用意してから……」


 と思ったのに、リーゼ姫はもう手に取ってクッキーを食べていた。


「おいひぃ……」


 可愛い……っ!


「お口に合ってよかったです。もしよければ、たくさん召し上がってくださいね」


「い、いいの?」


「ええ、もちろんです」


 小さい口でクッキーを食べる姿は小動物のようで、とっても可愛い。


 前世で一緒に暮らしてたハムスターのハムも、こうやってちっちゃい口で食べてたっけ。ふふ、可愛い。


「このクッキーは、エミリアが作ったんだよ」


「えっ! エミリアおねえさまが?」


「すごいだろ?」


「うんっ! すごい。エミリアおねえさま、すごい! ケーキも作れる?」


 リーゼ姫が期待で瞳を輝かせる。


 ああっ! 可愛い! なでなでしたいけど、一国の姫を撫でるわけにはいかないのが悲しい。


「はい、作れますよ」


「うわぁっ! すごいっ!」


「今度お作りしましょうか?」


「本当!?」


「はい」


 可愛い――……っ!


「チョコレートのケーキ、作ってくれる?」


 チョコがお好きなのね。


「ええ、もちろんです」


「ありがとうっ! エミリアおねえさま、大好きっ!」


 リーゼ姫に抱きつかれ、あまりにキュンとして第二の人生も心停止によって終わりを迎えるところだった。


 危ない、危ない……!



「エミリアおねえさま、はやくレオンおにいさまとけっこんしてねっ!」



 あまりの愛らしさに、危なく頷くところだった。



「アンネリーゼ姫、そろそろお部屋に戻りませんと」


「いやっ! まだ、レオンおにいさまとエミリアおねえさまとクッキーたべるっ! くっしゅん!」


 あ、くしゃみまで可愛い! ……じゃなくて、今日は暖かい方だと思うのだけど、寒いのかしら?


「ほら! 風邪をぶりかえしてしまいますよ。またお熱が出たら大変です」


「いやぁ……っ!」


 リーゼ姫が泣き出してしまい、カミラさんがオロオロし出す。


「ひ、姫様、泣かないでください~……!」


「リーゼ、カミラの言うことを聞かないとダメだ」


「やなんだもん。もっとクッキーたべるっ!」


 なんだか少し、顔が赤い気がする。病み上がりは本当に体調を崩しやすいもの。早くお部屋に戻っていただいて、休ませてあげないと。


 私はこちらにクッキーを運ぶのに使ったバスケットに、たくさんクッキーを入れてリーゼ姫に渡す。


「リーゼ姫、こちらをどうぞ。リーゼ姫がもっと元気になったら、一緒にお茶をしていただけますか? 私、チョコレートケーキを焼きます」


「…………ほんとう?」


「ええ、本当です。約束しましょう」


「うん……」


 リーゼ姫はバスケットを受け取り、何度も振り返って手を振りながら城の中へ戻って行った。


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