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第一話 ④

 朝食を終えた後すぐに支度を整え、私たちは街にやってきた。

 

「お姉様と遊びに行けるなんて夢みたい!」


「カタリーナのおかげよ。ありがとう」


 カタリーナの訴えのおかげで両親は快く送り出してくれた。


 でも、お父様が私にだけ聞こえるように、帰ったらすぐに自分で学習できるところは学習すること。


 今日休んだ分、明日からはさらに頑張ること……と言われ、白目をむきそうになった。


 あ、明日からが怖い……!



「お姉様、おすすめのお店があるの! すごく可愛いケーキがあるのよ」


 でも、せっかくの休みよ。うんと楽しみましょう。


「ええ、楽しみだわ」


 いつもなら太ると口にしないケーキを食べ、紅茶には砂糖も入れた。


 カタリーナが言うようにケーキは可愛かったし、すごく美味しかった。紅茶はやっぱり砂糖を入れた方が好き。


 太ってしまうかもしれないけれど、今日は特別な日だもの。また明日から節制すればいい。


 ドレスやアクセサリーを自由に見て回り、カタリーナが私に似合いそうなものを選んでくれる。


 なんて楽しいの! 夢みたいな時間だわ。


 この時間が永遠に続けばいいのになんて思ってしまう。



「お姉様、次はあっちのお店に行きましょう!」


 はしゃいだカタリーナが早歩きで次の店の前に向かい、護衛の騎士たちが慌てて付いていく。


「お姉様、早くーっ!」


「ええ、すぐに行くわ」



 カタリーナの後を追って足を進めた次の瞬間、背中にドンッと衝撃が走った。


 おっとっと……!


 あまりの衝撃に、膝を突いてしまう。


 誰かにぶつかられたのかしら。


 こんな所で膝を突いたままなんてみっともない。早く立ち上がらなくちゃ……。


「……っ……」


 背中がすごく痛くて、力が入らないわ。そんなに強くぶつかられたのかしら? 痣になってないといいけれど……。



「きゃあああああ! お姉様……っ!」



 カタリーナが悲鳴を上げる。


「大丈夫よ。ただ誰かにぶつかられて、よろけただけなの」


 カタリーナの声を聞いた人たちが、私を見ると悲鳴をあげた。


 え? 何? どうしたの?


「貴族のお嬢さんが刺されたぞ!」


「あの子、ジャック王子の婚約者じゃ……」


「大変なことになった! 医者だ! 早く医者を……!」


 刺された? 私が? まさか、そんな……。


「エミリアお嬢様! しっかりなさってください!」


 何か悪い冗談だと思っていたら、自分の周りに血だまりが広がっていくのが見えた。


 嘘――。


 目を開けていられたのは、ここまでだった。


 次の瞬間、目の前が真っ暗になり、私は意識を手放した。


 私、死ぬの……? また、こんな突然命を奪われるの?




 ――また?




 心の中にある蓋のしまった頑丈な箱のうちの一つが、粉々に砕けるような感覚を覚えた。


 箱の中から飛び出した記憶が、一気に頭の中に入ってくる。


 そうだ。私、前にもこうして、突然命を奪われた。


 電車を待っていた。そうだ。私、高校生だった。


 北条皐月ほうじょうさつき――前世ってやつなのかな?



 学校が終わって家に帰ろうと思って電車を待っていた時に、唇が乾いたからリップを塗ろうと思ったんだ。


 いつもは制服のポケットに入れているのになくて、鞄に入れたんだっけ? と思って鞄を開けて探していたら、お弁当の箸を落とした。


 両親を亡くした私を大切に育ててくれたおじいちゃんとおばあちゃんがくれた大切な箸、拾おうと思ったら、後ろに並んでいた中学生がはしゃいだ拍子に私にぶつかった。


 あ――……!


 バランスを崩した私は、電車が来る直前に線路に落ちた。



「北条、危ない!」



 その場にいた人たちが悲鳴を上げる中、私の名前を呼んで線路に降りてきた人がいた。


 高町陽翔たかまちはるとくん、同じクラスの男の子、大きな手で私の手を掴んでくれて、そして――。


 ああ、私、あの時に死んじゃったんだ。高町くんも、きっと。


 高町くん、ごめんね。私のせいで、ごめんね……。


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