第十二話 ②
おばあさまの葬儀は、屋敷近くにある教会でしめやかに執り行われた。
泣きすぎて、目が痛い。ベールがあってよかった。酷い顔だもの。
「エミリア、大丈夫か?」
ハンスお兄様が、心配して話しかけてくれた。
「ええ……」
「思いきり泣いたら、また笑おう。おばあさまは私たちが幸せそうにしているのを見るのが、好きだった人だから」
「そうね。そうよね……」
「これからは、私がおばあさまの分も支えになる。もうお前を一人で悩ませはしない」
ハンスお兄様は私をそっと抱き寄せ、背中を撫でてくれた。
「ありがとう……」
私は一人じゃない……とても心強い言葉だった。
葬儀には親族や親交のあるたくさんの人たちが集まったけれど、カタリーナの姿はない。ちょうど王妃としての仕事があり、こちらまで来られなかったようで、大きな花だけが送られてきた。
私は会いたくなかったからちょうどよかったけれど、おばあさまはカタリーナに会いたかっただろうな……。
おばあさまの死と、後継ぎであるハンスお兄様の無事を一度に聞かされたお父様――複雑な気持ちでいっぱいでしょうね。大丈夫かしら……。
嫌いだけど、少し心配になる。
葬儀が終わると、お父様に声をかけられた。
「エミリア、お前は取り合えずここに留まりなさい。お前の次の行き先が見つかり次第、連絡するからそのつもりでいるように」
「はい……」
半年ぶりに会ったって言うのに、身体は大丈夫か? の一言もないのね。
おばあさまと屋敷のみんなは、私がデュランタに行ったことを両親には内緒にしてくれていた。
お父様とお母様の敵国に旅行をしていた……なんて言ったら、大激怒しそうだものね。ありがたいわ。
ハンスお兄様は、お父様とお母様と一緒に王都の別邸に戻ることになった。また、後継ぎ教育が再開されるのだろう。
私はおばあさまの居なくなった屋敷で、悲しみから抜け出せないまま、ぼんやりと過ごしていた。
夜になっても、なかなか眠れない。
そうだわ。レオンに手紙を出そう。次はいつ会えるかしら……。
私はベッドから出て、机に向かった。
レオンへの手紙を書きながら、お父様に言われたことを思い出す。
お前の次の行き先が見つかり次第、連絡する……って言ったわよね? 療養先じゃなくて、行き先――?
血の気が引く。
「……っ」
親族の誰かの屋敷に送られるのではなくて、誰かと結婚させようとしている……とか?
深読みしすぎ? でも、ありえない話じゃないし、いつかはそうさせられる。
結婚じゃなかったとしてもここ以外の場所なら、デュランタへ行くどころか、好きな料理だってできないはずだわ。
お父様の親族は、おばあさま以外は気難しい方ばかり。お母様の親族もそうだ。また、実家に居る時のような生活に戻るなんて嫌だ。
ペンからインクが垂れて、書きかけの手紙が駄目になった。
「……っ」
息苦しくて、息が詰まる。
耐えられなくて外に出ると、馬車の音が近付いてくる。
こんな時間に、馬車が走っているの?
王都だと珍しくないけれど、ここは田舎だ。夜中に馬車が走ることは滅多にない。
すると屋敷の前に、一台の馬車が停まった。
え、うちに?
物陰に隠れながら馬車を確かめると、家門も何もついていない。不審に思っていると、御者が扉を開く。
出てきたのは、レオンだった。
嘘……!
「レオン!」
レオンがビクッと身体を揺らした。
そうよね。こんな夜中に物陰からいきなり飛び出したんだもの。驚くのが当然よね。
「エミリア? こんな夜中にどうしたんだ?」
「私は眠れなくて散歩に……」
「こんな夜中に危ないだろ。マリーは?」
「もう、とっくに休んでるわ。外に出るわけじゃないし、危なくないから大丈夫よ」
レオンの顔を見たら、なんだかホッとする。ずっと張りつめていた心が、柔らかく綻ぶのを感じた。
「レオンこそ、どうしてモラエナに? こんな夜中に来るなんて驚いたわ」
「いや、さっき到着したから、今日は街に宿を取るつもりで、訪ねるつもりはなかったんだ。みんな眠っているだろうしな」
「でも、来てるじゃない?」
「それは、その……顔が見れなくてもいいから、エミリアの近くに行きたかったんだ」
レオンの顔が、少し赤くなるのがわかった。
何、かしら……。
心臓の辺りが、キュゥってする。
「今、マダム・クローデットのお墓にも挨拶をしてきたところだ」
「えっ! 真夜中なのに!? 怖くないの!?」
「ああ、大丈夫だ。隣にエミリアのおじいさんのお墓もあったから、酒のお礼もしてきた」
「おじいさまにまで……レオン、ありがとう。おじいさまとおばあさま、きっと今頃二人でレオンにお礼を言っているはずよ」
「そうか……それで、エミリア、大丈夫か?」
「……ええ、まだ悲しいけど、ちゃんと立ち直らないとね。おばあさまが心配するもの」
「ああ、そうだな」
おばあさまのこともまだ辛い。でも、原因はそれだけじゃない。この自由な生活の終わりが見えていることもだ。
「レオン、お墓参りのためにモラエナに来てくれたの? ありがとう」
「いや、目的はそれだけじゃない。エミリアを迎えに来た」
「えっ! 私を?」
「ああ、エミリアは俺の婚約者だからな。連れて帰るのは、当然のことだ」
「もう、まだ、そんなこと言って……」
するとレオンは、私の手を握った。
「! レオン?」
真っ直ぐに見つめられ、心臓が大きく跳ね上がった。
「エミリア、俺と一緒にデュランタに帰ろう」
もしかしてレオンは、私が窮地に陥っていることに気付いているのかしら。
「…………私も、デュランタに行きたいわ。……実はね、前にレオンが予想した通り、お父様が私を結婚させようとしている気がするの」
「そう言われたのか?」
「ううん、ハッキリ言われたわけじゃないのだけど……そんな気がして。もし、勘違いだったとしても、私はここを離れて別の親族の家にお世話になることになりそうで……そうなったら、もうここで過ごしていたような自由はないわ。デュランタにも、もう行けないかもしれない……」
怖い――。
自分の心を殺して生きるのは、もう嫌だ。
「俺の婚約者になれば、どこにだって連れて行ってやれる」
「……っ」
でも、だからって、大切な人の人生を犠牲にして生きるのも嫌だ。
『でも』とか『だから』ばかりで呆れてしまう。私に力がないせいで……。
「嫌だと言われても、俺は諦めるつもりはない。行かないと言うのなら攫うぞ」
真剣な顔で言うものだから、笑ってしまう。
「レオン、ありがとう」
レオンの人生を犠牲にするわけにはいかない。だから――。
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