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第十二話 ①


 レオンはすぐに馬車と船を手配してくれて、私とハンスお兄様は最短でおばあさまの元へ帰ることができた。


 レオンも付いて行くと言ってくれたけれど、翌日デュランタで他国との会議があるので、一緒に来ることは叶わなかった。でも、その気持ちがとても嬉しい。


「おばあさま……!」


 帰宅してすぐにおばあさまの部屋に入ると、お医者様が脈を診ていて、司祭様が祝福を与えていらっしゃるところだった。


「エミリア様、お待ちしておりました。そちらの方は……」


「私のお兄様です。おばあさまの孫です」


「そうでしたか。使用人の方たちにご家族へ連絡を取って貰ったのですが、王城でのパーティーに出席しなければならないので、そちらには行けないと……」


 最悪のタイミングだわ……。


 伝染病にかかったとか、親族が亡くなったなら欠席が認められる。けれど、モラエナ国の場合、王城からのパーティーの招待は絶対だ。出席しなければ、家名に傷がつく。


 お父様、さぞお辛い思いをしているでしょうね。


 お父様のことは嫌いだけど、大切な人の一大事に駆け付けられないことは同情する。


「なので、最後のお別れにお孫さんだけでもいらっしゃってよかった……」



「最後のお別れ……?」



 目の前が真っ暗になった。



「ええ、今は祝福で辛うじて命をとどめている状態です」


「辛うじて……じゃあ、おばあさまは、もう……わ、私が、屋敷を離れたから……」


 私のせいだわ……。


 目の奥が熱くなって、涙が溢れた。


「いいえ、それは違います。エミリア様がご旅行に行った後も、クローデット様はしっかり食事もとられていましたし、お元気そうに過ごされていました」


「じゃ、じゃあ、どうして……」


「老衰です。我々はある程度の病気や怪我は治すことができますが、神がお決めになった命の終わりに逆らうことはできません。ですが、大切な家族とのお別れに向けて、ほんの少し力をお貸しすることくらいは、寛大な神なら許してくれるはずだと、祝福の力で延命させていただきました」


 司祭様には疲れの色が見えている。たくさんのお力を使わせてしまったのだろう。


「司祭様、ありがとうございます」


「意識はなくとも、耳は聞こえているはずです。声をかけてあげてください」


「はい……」


 司祭様は祝福をやめ、後ろに下がった。


「おばあさま、エミリアよ。今、帰ったわ。ハンスお兄様も帰ってきてくれたのよ」


 私はベッドの前に膝を突き、おばあさまの手を握る。その手はとても冷たくて、ああ、本当に寿命を迎えようとしているんだとわかった。



 するとおばあさまが、ゆっくりと目を開けた。



「おばあさま……!」



「…………ああ、エミリア、ハンスも帰って来てくれたのね。無事でよかった……心配したのよ。怪我はしていない?」



「はい、おばあさま、ご心配をおかけしました」



「そう、よかった……最後に二人に会えて、よかったわ……オーバン様へのいいお土産話になるわ……」



 オーバン……それは、おじいさまのお名前だ。



 おばあさまは、これから天に召されることを気付いているのね。



「ハンス……あなたは我慢強くて、何でも自分で解決しようとする子だわ……。でも、これからは自分の気持ちに正直になって、もっと周りを頼りなさい……」



「はい……」



 ハンスお兄様は、私と一緒におばあさまの手を握る。



 おばあさまの顔をもっとちゃんと見たいのに、涙で歪んでよく見えない。



「エミリア、泣かないで。あなたには笑顔が似合うわ……ずっと、大変な思いをして生きて来た分、あなたには楽しく、幸せに生きて欲しいのよ……」



「はい、おばあさま……」



「ああ……そうだわ。口紅を塗って貰えないかしら?」



 マリーがドレッサーに置いてあった口紅を渡してくれる。私は涙を拭いながら、おばあさまの唇に赤い口紅を塗った。おばあさまがいつも塗っていた色だ。



「ありがとう。久しぶりにオーバン様にお会いするから、綺麗にしたかったのよ。孫に見守られて旅立てるなんて、私はなんて幸せ者なのかしら……」



 おばあさまはとても幸せそうに微笑むと、そっと目を閉じ、数度呼吸をして息を引き取った。


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