第十一話 ②
カフェから出ると、ハンスお兄様がマリーに、私と二人きりで話すことがあるから、先に馬車へ戻って欲しいとお願いした。
「かしこまりました。何かあったら、お呼びください」
「ああ、ありがとう。エミリア、少し歩こう」
「ええ」
二人きりで話すことって何かしら……。
「足は痛くないか?」
「ええ、歩きやすい靴で来たから。ねえ、話したいことって何?」
「お前と二人きりになりたい口実だ。お前とこうして二人きりになったことはないからな」
「そうね……」
嫌われているから避けられていると思っていたけれど、まさか大切に想われていたなんて……あの頃の私が知ったら、驚くわね。
時計塔の鐘が鳴ると、驚いた白い鳩たちがバサバサと羽音を立てながら空に飛んでいく。空はとても青くて、広くて、飛んでいく鳩が合わさるのが綺麗で、ため息がこぼれた。
小さい頃から机に向かってずっと勉強していた私は、早起きをして朝焼けを見ることはあっても、こうして青空を見ようと思うことも、綺麗だと思える心の余裕もなかった。
――ああ、私、この自由な生活が好き。あの頃には、戻りたくない。
「エミリア、すまなかった」
「え? いきなり、どうしたの?」
「父上と母上がお前に冷たく当たる中、私はそのことに気付いていながら、何もしてやれなかった。辛い思いをしているお前を助けてやれなかった」
レオンに言われたことを気にしているのね。
「いいのよ。気にしないで」
「……いや……嘘だ。すまない」
「え? 嘘……って、何が?」
「お前は私のせいで、酷い目にあったことがある」
「どういうことですか?」
「実は父上に、エミリアに辛く当たりすぎだから、もう少し優しくして欲しいと言ったことがある……」
「えっ……言ってくださったんですか!?」
自分の立場が危うくなるかもしれないのに、私のために言ってくださったなんて……どれだけ怖かっただろう。どれだけ勇気のいることだっただろう。
「……ああ、結果、お前が私に愚痴をこぼしたと疑われた。どんなに否定しても信じて貰えなくて、結果、父上はさらにお前にきつく当たった……」
そんなことがあったなんて……。
「本当にすまなかった……」
「自分の立場が危うくなるかもしれない中、私のことを庇ってくれたのね」
そして、ずっと気にしていたのね――。
「謝る必要なんてないわ。私のことを気にかけてくださってありがとう。嬉しいわ」
「お前は優しいな……本来なら私は、お前に罵倒されてもおかしくないのに……」
「おかしいわよ。庇ってくれたのに罵倒だなんて」
というか、信じてくれないお父様が一番悪いのよ。
お父様のことを思い出したら、ムカムカしてくる。
「私は本当に役立たずだ。お前が刺された時も、家から追い出された時も、何もしてやれなかった……力がない自分が情けない」
「そんなことないわ。ハンスお兄様は私のために戦争に行ってくれたんじゃない! 大変だったでしょう? 本当にありがとう」
「エミリア」
次の瞬間、ハンスお兄様に抱き寄せられた。
え……!
「もう、お前に辛い思いをさせない。これからは傍で、お前を守らせてくれ」
びっくりした。でも、嬉しいわ。こういうスキンシップって、家族っぽい。
「ありがとう。嬉しいけど、自分のことを一番に考えないと駄目よ? 無理しないって約束してね」
私はハンスお兄様を抱き返し、背中をポンポン叩いた。
「…………なんだか、私が言っている意味と、お前が受け止めている意味が食い違っているような気がするのだが」
「え?」
「エミリアお嬢様! ハンス様……!」
マリーの声だ。
振り返ると真っ青な顔をしたマリーが、息を切らせて走ってきた。
「マリー! どうしたの? 何かあった?」
「た、大変です……い、今、デュランタの兵の方が早馬を走らせて……っ……それで……っ」
「落ち着いて。兵の方がどうしたの?」
「クローデット様のお屋敷に滞在しているお医者様から、連絡があった……と」
心臓が、ドクンと嫌な音を立てる。
「まさか、おばあさまに何かあったの!?」
「はい……クローデット様の……っ……い、意識がなく、ご危篤状態だそうです。すぐに屋敷に戻って欲しいとのことです」
「そんな、おばあさま……」
その場に崩れ落ちそうになる私を、ハンスお兄様が支えてくださった。
「エミリア、大丈夫か?」
「え、ええ……」
手が震える。本当は、大丈夫なんかじゃなかった。
「モラエナに……おばあさまの所へ帰るわ……!」
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