第九話
私たちはハンスお兄様を加えて、再び街中を探索し始めた。
「わあ、あのドレス、エミリアお嬢様に似合いそうです」
マリーがキラキラ輝いた目で見る先には、愛らしい花柄のドレスが飾られていた。
「本当だ。エミリアに似合いそうだ。まあ、エミリアならなんだって似合うだろうけどな。今の格好ですら可愛い。平民を装っているのに、女神のようなオーラが隠せていないくらいだからな」
「レオンったら、お世辞を使い過ぎよ」
「エミリアお嬢様、ご試着してみませんか?」
「いえ、大丈夫よ。時間が勿体ないもの」
「もう、エミリアお嬢様ったら、素晴らしい美貌をお持ちなのに、相変わらずこういうものにご興味を持っていただけないのですね」
前世ではこういうものにときめいていたのだけど、ジャック王子の婚約者時代にドレスも宝石も腐るほど見て、着せられてきたせいか、全然ワクワクしなくなってしまったのよね……。
いつかまた、ときめく日が来るのかしら……。
「エミリア、本当に興味がないのか? 買ってやろうか。その、なんというか、お前にすごく似合いそうだ」
ハンスお兄様が、頬を赤らめて言ってくる。
こういうことを言いなれていないのね。照れていらっしゃるわ。ふふ、ハンスお兄様ったら可愛い。
「いいえ、大丈夫よ」
「そうか? 何か欲しい物があれば私に言いなさい」
「ええ、ハンスお兄様、ありがとう」
「……それにしても、まさか、エミリアとこうして歩けるなんて思わなかったな。エミリアとデートするのを何度も想像した。まさか、現実になるなんてな」
「ふふ、ハンスお兄様ったら。妹と出かけることをデートとは言わないのよ?」
「…… そうか、そうだな」
なぜかハンスお兄様が沈んでしまい、逆にレオンが楽しそうにし始めた。
ど、どうしてしまったのかしら……。
「エミリア、さっきのフルーツ飴を買いに行こうか」
「いいの? 食べたいわ」
「買い食い? こんな屋台で売っている何が入っているかわからないものを、お前に食べさせるわけにいかない。おい、貴様、うちのエミリアに変な物を食べさせるな」
「さっきから貴様、貴様って、俺はデュランタ国の第二王子だぞ。敬意を払って貰おうか」
この二人、本当に相性が悪いわね……。
「私が食べたいって言ったのよ」
「変な物を食べては駄目だ。腹を壊したらどうする」
ハンスお兄様、意外と過保護だわ!
「変な物なんかじゃないわ。絶対食べる」
「エミリア」
窘めるように名前を呼ばれたけど、無視してレオンに苺飴を買って貰った。
「レオン、ありがとう。んんーっ! 美味しい」
飴は薄く付けられていて、齧るとすぐにパリッと割れる。甘酸っぱい苺とパリパリの甘い飴がよく合う。
前世で食べた苺飴より美味しい気がするわ。
「お兄様も食べる?」
「いや、私はいい」
「そう?」
「全く、そんな得体の知れない物を食べて……でも、お前が嬉しそうにしていると、その、私も嬉しい」
ハンスお兄様の兄としての愛情を見せられ、少し気恥ずかしくなる、
「ふふ、ありがとう」
「エミリア、父上と母上から辛い思いをさせられてきた分、これからは私が幸せにする。だから……」
「いいや、エミリアを幸せにするのは俺だ」
ハンスお兄様と私の間に、レオンが割って入る。
「他人は黙っていろ」
「他人じゃない。婚約者ですよ。お義兄さん」
「お義兄さんと呼ぶなと言っているだろう! 婚約式も挙げていないのに、婚約者を名乗るな」
「もう間もなくですよ。すぐに婚約式、すぐに結婚式だ。可愛い妹の花嫁姿を楽しみにしていてください」
い、言い合いが始まっちゃったわ!
「私は小さい頃からエミリアを見ている。エミリアを幸せにするのは私だ」
「いーや、エミリアを想ってきた長さなら、誰にも負けないが?」
「ちょ、ちょっと、二人とも、いい加減に……」
二人とも、どうして私のことでこんな揉めてるの!?
「今までエミリアが辛い思いをしていたのを黙って見過ごしてきたくせに、今さら幸せにしたいなんて都合がよすぎるだろう。俺なら最初から助けていた」
「……っ」
ハンスお兄様が、グッと言葉を詰まらせる。
「レオン、やめて。ハンスお兄様を悪く言わないで」
私を庇えるはずがないのよ。
ハンスお兄様は養子だ。我が家の跡取りとはいえ、立場が弱い。私を庇うことで、足場が崩れてしまうかもしれなかった。
「……ごめん」
「ううん、でも、レオンの気持ちは嬉しいわ。ありがとう」
遠目にまた、気になる食べ物屋さんを見つけた。
「あ、レオン、あっちの……」
振り返ったその時、ハンスお兄様がその場に膝を突き、そのまま倒れてしまった。
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