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第八話 ②


 翌日、私は城下の街を訪れていた。


 レオンが街を見に行かないか? と誘ってくれたのだ。


 城での格好だと目立って貴族だということがバレてしまうので、平民と同じ格好をしてきた。


 レオンも私も、初めて会った時と同じような服だ。馬車も、もちろん質素な外装のものだけど、中だけは立派で座り心地がいい。


 今回も船の中のメンバーと同じ、私とマリー、そしてレオンとデニスさんで来ている。ちなみに護衛として、私服の兵が何人か付いてきてくれているみたい。


「わー! 賑やかなのね」


「本当ですね」


 モラエナから出たことがなかった私には、とても刺激的な光景だった。たくさんの人たちが行き交い、活気に満ち溢れている。食べ物の出店もあちこち出ていて、いい香りがしていた。


「そういえばマリーは、モラエナから出たことがある?」


「いいえ、ありません。なので、ワクワク致します」


「じゃあ、一緒ね」


 まさかモラエナを出て、旅行に来ることができるなんて思わなかった。


「エミリア、マリー、何か気になるものがあれば、言ってくれ」


「レオン、私、あっちに売っているお肉の串焼きが気になるわ!」


 さっきからいい匂いがしていて、みんな買ってその場で美味しそうに食べていて、すっごく気になっていたのよね。


 前世のお祭りの屋台のことを思い出すわ。とうもろこしに、焼きそばに、たこ焼き……ああ、食べたい。


「食べるか?」


「ええ、買ってきてもいい? みんな食べていて美味しそうだわ」


「エミリアお嬢様、いけません! 公爵令嬢がこんなところで食べ物を購入して、立ったまま召し上がるなんてはしたないです」


 あ、そっか、貴族らしからぬ行動よね。


 ……だからと言って、諦められないわ! 絶対に!


「公爵令嬢じゃないわ。今はただのエミリアだもの」


「もう、エミリアお嬢様!」


「マリーも食べましょうよ。レオン、両替所に連れて行って貰えないかしら。モラエナの通貨は使えないだろうから」


「あ、俺が買うよ」


「えっ! そんなの悪いわ」


「いつも美味しい料理を作ってくれているお礼だ。待っていてくれ」


 レオンはすぐに串焼き屋さんに行って、美味しそうな串焼きを三本買ってきてくれた。


 私とマリーとデニスさんの分で、レオンの分は当然なかった。


「レオン、ありがとう」


「レオン王子、ありがとうございます」


「え、僕の分まで買ってきてくださったんですか? ありがとうございます」


 ジャック王子があんなことを仕出かさなければ、四人で食べることができたのに!



「いただきます」



 串にはお肉とパイナップルが交互に刺さっている。一段目のお肉にかぶりつくと、じゅわっと肉汁が出てきた。



「ん~……っ! 美味しい! これ、羊のお肉だわ」


「そうか。よかった」


 羊肉は、前世で何度か食べたことがある。癖があるから好き嫌いが分かれるみたいだけど、私は好きだった。


 このお肉は日本では食べたことのない味のスパイスがしっかり効いていて、苦手な人も食べられるんじゃないかしら?  一体どんな香辛料が使われているのかしら。今度調査したいものだわ。


「ひ、羊?」


 マリーは食べたことがないみたい。


「美味しいわよ。食べてみて」


「は、はい……」


 マリーも一口齧る。


 ふふ、小さい一口で可愛い。


「あ、美味しいです」


「美味しいわよね」


 次はパイン……うんうん、焼いたことで甘さが増しているみたい。お肉のこってり感を洗い流してくれて、次のお肉も美味しく食べられそう。


「デュランタでは結構羊の肉を食べるのですよ。……うん、美味しい! この辺りの屋台の中でもかなり上位に入る味です」


「デニス、お前、屋台で買い食いしてるのか?」


「はい、サッと食べられて、すぐ腹が満たされるので、街での仕事がある時にはよく利用しますね」


 そういえば、モラエナにも屋台ってあるのかしら? うちの領地にはなかったけど、他の領地にはあったりするのかしらね。


 ああ、それにしてもすごく美味しいわ。


「ねえ、レオンも食べない? すごく美味しいわ」


 まだお肉が一つ残っているので、レオンの方を向ける。


「えっ! エミリアの食べかけを……か?」


「大丈夫よ。口は付けていないから」


「いや、むしろ口を付けたところがい……」


「え?」


「な、なんでもない」


「毒は入っていなかったわ。とても美味しいのよ。レオンにも食べて貰いたいわ。はい、あーん」


「レオン様、好きな子からの『あーん』ですよ? 食べないと後悔しますよ」


「わかっている。エミリアが『あーん』してくれるなら、致死量の毒が入っていても美味しく食べる自信がある」


 レオンとデニスさんがコソコソ何か話している。


 どうしたのかしら……。


 あっ! そういえば、毒検知で問題なくても身体が受け付けないって言っていたわよね。


「レオン、ごめんなさい。無理にとは言わないの」


 慌てて串焼きを引っこめると、レオンの顔が暗くなった。


「あっ……! レオン、大丈夫? 気分が悪くなってしまったかしら。本当にごめんなさい!」


「いや、大丈夫だ。だから……」


 あ、肉汁が滴ってきちゃった。


 私は最後の一つをパクッと齧って、全部口の中に入れた。


 ふう、危なく手が汚れてしまうところだったわ。


「あーあ、レオン様が、グズグズしているから……」


「うるさい……」


 串焼きを食べ終わったところだけど、あちこちの屋台に目移りしてしまう。


「あ、フルーツ飴があるわ!」


 前世のお祭りでは絶対に買っていたのよね。懐かしいわ。


「買おうか」


「ええ、苺飴が食べたいの。あ、やっぱり両替えをしたいわ。レオンに買ってもらってばかりじゃ悪いもの」


「気にするな。俺は一応王子だぞ。串焼きの一本どころか、この辺りの屋台だって余裕で買い占められる」


「でも……」




「……エミリア!」




 え……!?


 レオンがいきなり私の腰を引いて、私を抱き寄せた。


 何事かと思っていたら、レオンは腰に刺していた剣を抜き、目の前にいる人に突き付ける。それと同時に、町民に変装していた兵も剣を抜いてその人に向けた。



「きゃあ! 何!?」



「揉め事か!?」



 周りの人が悲鳴を上げ、私たちから離れていく。



「エミリアに触れようとしたな。貴様、何者だ」


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次回もう一人のヒーローが登場しますので、お楽しみに!

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