第八話 ①
「レディ・エミリア、楽しみにしていたよ。なんだかホッとするいい香りがするな」
「本当! 不思議な香りだわ。初めての香りよ」
「あ、きっと、お味噌の香りです」
お味噌のいい香りは、万国共通ね!
「オミソ?」
「蒸した大豆に麹とお塩を入れて発酵させた東方の調味料です。発酵食品は身体にとてもいいのですよ」
「まあ、それは楽しみね!」
「今日は私の得意な東方の料理をレオン王子と一緒にお作り致しました。あ、毒がないか調べていただけますか?」
「かしこまりました」
近くの侍女に頼んで、毒がないか調べて貰う。
「エミリア、そんな必要はない」
レオンが気を遣ってくれて止めようとする。
「いいえ、ぜひ確かめてください」
安心して召し上がっていただきたいものね。
それに調理過程で入っていなくても、食材そのものに入っている可能性だってあるし、とにかく調べて頂いたほうが何かと安心だわ。
「野生動物よりも用心深いレオンの信頼している女性だ。私たちはそんなものを使わなくても構わないのだよ」
「そうよ。レオン王子が信頼しているなら、誰よりも安心だわ」
レオン、野生動物よりも用心深いの!?
「お気持ちは嬉しいのですが、安心して召し上がって頂きたいので。……お願いできますか?」
「かしこまりました」
毒検知の魔道具が、侍女の手元に届いた。
毒検知の魔道具は、前世でいうところの虫眼鏡みたいな形をしている。そのレンズで一つ一つ覗いて毒が発見されると、音が鳴るらしい 。
「問題ございません。お運びしてよろしいでしょうか?」
「ええ、お願いします」
並んでお座りになっている国王夫妻と向かいに、レオンと一緒に腰を下ろす。
「長いお皿に並べてある白いものは、東方のお米というもので作ったおにぎりというものです。中には鮭と昆布を醤油という同じく東方の調味料と砂糖で煮たものを入れました。隣のお皿にある海苔を巻いて、手でお召し上がりください」
「手で? なるほど、パンみたいなものか」
「はい、その通りです。そのスープが味噌汁です」
箸を使うのは難しいだろうし、そもそも用意がなかったので、スプーンを使っていただくことにした。
「まあ、いい香りがするのは、このスープなのね。中に入っているのは……じゃがいもと玉ねぎかしら?」
「はい、玉ねぎとじゃがいものお味噌汁です。おにぎりとよく合うのですよ。そして隣にあるのは、れんこんのきんぴらと卵焼きです」
「キンピラ? タマゴヤキ? あ、タマゴヤキはなんとなくわかるわ。卵を焼いたものかしら?」
「はい、その通りです。れんこんのきんぴらは、れんこんをごま油で炒めて、お砂糖と東方の調味料のお醤油で味付けしたものになります。どうぞ、お好きな方からお召し上がりください」
「では、いただこうか」
お二人がおにぎりに海苔を巻いて、お口に運ぶ。パリッといい音がした。
デュランタ国の方のお口に合う味になっているかしら……。
ドキドキしながら、咀嚼する姿を眺める。
「んんっ……! 美味い。初めて食べる味だ。海苔の香りがいい」
「本当、海苔がパリパリして食感が楽しい。お米って美味しいのね。噛めば噛むほど甘くて、中に入っている鮭の塩気と合わさると……んんー! 美味しい!」
「昆布も美味い。ショウユ、だったか? この味わいは癖になるな」
よかった! 気に入ってくださったみたい。
レオンもおにぎりを食べて、お味噌汁を飲んでいる。
「すごく美味い。だが、スプーンで飲むのは、変な感じがするな」
「ふふ、そうね」
「父上、すぐに味噌汁を飲んでみてください。おにぎりとあいますよ」
「何? どれ、飲んでみようか」
「さっきから気になっていたのよ。どんなお味かしら」
国王夫妻はスプーンでお味噌汁をすくうと、品よく口に運ぶ。
「まあ……なんて優しいお味なの」
「オミソという調味料は、こんなにも深い味を出すことができるのか? なんて素晴らしい味だ」
「かつお節と昆布を煮だしたスープで具材を煮て、お味噌を入れているのですよ」
「かつお節、とは、魚のかつおか?」
「はい、かつおを切って茹で、燻製したものにカビ菌を付けて乾燥させたものを削ったものが、かつお節です。そのスープは、レオン王子がお作りになったのですよ」
食べ物が好きすぎて、小学校の自由研究で色々調べたことが、まさかこんなところで役に立つとは思わなかったわ。
「ほお、レオン、お前にこんな才能があったとはな」
「エミリアが教えてくれたからできたことです。それに野菜の皮を剥くことすらできなかったので、エミリアが代わりにやってくれました」
「お前、剣は器用に使いこなせるのに、包丁は使えないのか……」
「当たり前じゃないですか。全然違いますよ」
「レンコンのきんぴらは先ほど説明した通りで、卵焼きは蜂蜜とレオン王子の取ってくださったかつお節と昆布のスープを卵に混ぜて焼いたものです。どうぞお召し上がりください」
卵焼きをナイフで一口大に切り分け、お口に運ぶ。
「まあ、甘くて美味しいわ。でも、デザートとは違う感じ。これはきっと、スープが入っているからなのね」
「ふわふわしていて、優しい味がするな。これなら体調が悪い時でも食べられそうだ。次はレンコンのきんぴらとやらを食べてみようか」
フォークでレンコンをお口に運ぶと、シャキシャキといい音が聞こえてくる。
「んんっ! これまた面白い食感だ。美味い! 香ばしくて、甘辛くて……うむ、酒とあいそうだ。禁酒令が出ていなければ……くぅ……」
本当に悔しそうに仰るので、思わず笑ってしまう。
「ありがとうございます」
「美味しい! 食感が本当に楽しいわ」
「ちなみになのですが、レンコンにはビタミンCという成分が含まれていて、とても身体にいいのですよ。風邪の予防にもなります」
「まあ、美味しいし、身体にもいいなんて素晴らしいわ。特にアヒム様はお風邪を引きやすいですから、たくさん召し上がって欲しいですわ。いつまでも長生きしてくださいな。わたくしを置いて死んでしまうなんて許しませんからね」
「ああ、私がそなたを置いていくわけがないだろう。死ぬ時は一緒だ」
「約束ですわ」
あ、暑い……! 気温がまた、上がってきた気がするわ。
でも、いいわね。私も将来、誰かと結婚することがあれば、こんな風に仲睦まじく暮らしたいわ。
国王夫妻は、残さず全て召し上がってくださった。レオンも完食してくれた。
空になったお皿を見るのって嬉しいのよね。
「エミリア、ありがとう。とても美味しかった。また、こうして料理を作ってくれないか?」
「ぜひ、お願いしたいわ」
「ええ、もちろんです。いつでもお作り致します」
美味しく食べて貰えてよかった!
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