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第七話 ⑥

 デュランタ城のキッチンで、私はレオンと一緒に国王夫妻にお出しする食事作りに取り掛かっていた。


 キッチンの隣にある食糧庫にはたくさんの異国の食材が揃っていて、そこには懐かしのお米、味噌、梅干し、デュランタには海があるからか、海苔までもある。


 これはもう、アレを作るしかないじゃない!?


 まずは鍋でお米を炊いて、具材を用意する。そう、メニューはもちろん、おにぎり!


「もう……っ! レオンったら、なんであんなこと言っちゃったの?」


 周りに人がいるので、小さな声で抗議する。


「あんなことって?」


「婚約のことよ。このままだと、私たち本当に婚約する流れになってしまうわよ!?」


 まさか、全く反対されないなんて思わなかったわ!


「いいじゃないか」


「駄目に決まっているでしょう?」


「でも、俺と婚約しておいた方がいいと思うぞ」


「どうして?」


「ジャック王子と婚約破棄しても、エミリアが公爵令嬢ということには変わりないのだから、いつかは別の男と婚約させられるかもしれないだろう?」


「え、ええ……まあ」


 お父様が黙ってそっとしておいてくれるはずがないものね。


「その男が変な男とも限らないじゃないか」


「う……」


 王子の元婚約者だから、まともな家からは敬遠されるでしょうね。貰ってもらえるとしたら……そこそこ問題がある家の後妻とか、第二夫人とか?


 ……そう、そうなのよね。考えたら暗くなるから、なるべく考えないようにしていたのよ。


「俺と婚約しておけば、他の男とは結婚させられないぞ」


 た、確かに……。


 それにレオンのことは、おばあさまも賛成してくださっていて、レオンもおばあさまを気にかけてくれてる。私にとってレオンは、友達だけじゃなくて、結婚相手としてもバッチリなのよね。


 でも――。


「でも、友達を利用している感じがして嫌だわ」


「俺は大歓迎だ」


「また、そんなこと言って……」


「今の生活が気に入っているんだろう?」


 レオンの問いかけに、私は深いた。


 お父様やジャック王子の機嫌を気にせず、こうして料理をしたり、旅行をしたり、自由な生活を手放したくない。


「じゃあ、俺と婚約しよう」


「そんなこと言って、レオンにもし好きな人ができたらどうするの? 私と婚約していたら、相手に誤解されてしまうわよ」



「エミリアが好きだから大丈夫だ」



「また、そんなこと言ってはぐらかすんだから……あ、レオン出汁を取りたいから、お鍋にお水と昆布を入れて火をかけてくれる? 沸騰する前に火を止めて、昆布を取り出してね」


「わかった。はあ……本当に鈍いし、手強いな」


「大丈夫、難しくないわ。昆布に泡が付き始めるのが沸騰する前の合図よ」


「そういうことじゃないんだが……」


「昆布を取り出したら沸騰させて、このかつお節を入れてね」


 ちなみにこのかつお節は、さっきレオンに削って貰ったものだ。うーん……いい匂い!


「レオンに迷惑をかけないように、自由に生きていける道を探してみるわ」


「全く迷惑じゃないし、さっきも言った通り大歓迎だ」


「ふふ、もう、レオンったら」


 でも、レオンの優しい気持ちが嬉しい。


 私が望んでいない結婚をさせられて、悲しい思いをしないように、自分を犠牲にしてまで私に永住権を与えようとしてくれているのね。


 いくら友達って言っても、そこまでできる人は少ないと思う。


 レオンのような友達がいて、私は幸せ者だわ。


 というか、国王夫妻の誤解を早く解かないといけないわね……! 食事の際に訂正させて貰いましょう。



 レオンに手伝って貰って、懐かしの日本食が完成した。


 昆布とかつおの出汁が香るじゃがいもと玉ねぎのお味噌汁、蜂蜜を入れた甘い玉子焼きは、ごま油が香るれんこんきんぴら、それから愛しのおにぎり……! ああ、会いたかった! 中身は鮭とさっき出汁をとった昆布を砂糖と醤油で煮たものよ。


 巻いてから時間が経ってしんなりした海苔も美味しいけど、あれは冷えたおにぎりに合うのよね。あったかいおにぎりはパリッとした海苔で食べて欲しいから、海苔は別にしておいて直前に巻いて貰うつもりだ。


「ねえ、レオン、小さめのを作るから、今味見してみない?」


「ああ、いいな。食べよう」


「鮭と昆布、どっちがいい?」


「鮭」


「わかったわ」


 手に塩を付けて熱々のお米を乗せて、真ん中にくぼみを作る。そしてそこに鮭を入れたら優しく握って、火で炙っておいた海苔を巻いて……はい、完成!


 おにぎりって、どうしてこんなに可愛いのかしら。美味しいし、見た目も可愛いし、パーフェクトよね。


「じゃあ、いただきましょうか」


「ああ、いただきます」


「いただきます」


 おにぎりにハグッとかぶりつくと、海苔がパリッといい音を立てる。


「ん~~……っ!」


 お米と鮭と海苔が混ざり合うと、前世の魂が震えた。もう、ブルッブルに震えてる!



 お、お、美味しい~~……っ! 塩加減も完璧!



 十八年ぶりのおにぎりは、それはそれは美味しくて、なんだか涙が出てくる。


「……っ……美味……!」


「うん、美味しいねっ! 久しぶりだもんね」


 小さめに作ったから、もうなくなってしまった。もっと食べたい!


「どうしてなんだろう」


「え?」


「前世でも色んなおにぎりを買って食べたり、自分で握ってみたりしたけど、北条の作ってくれたおにぎりが一番美味かった」


 レオンは私の手を握ると、まじまじと眺めた。


「どうしてエミリアの作ったものは、全部美味しいんだろうな。この手に不思議な力があるみたいだ」


 レオンの手の温もりが伝わってくる。


 レオンの手って、こんなに大きかったのね。そうよね。男の人だものね。


 なんだか急に意識してしまって、心臓がドキドキ脈打ち始める。


 あ、あら? どうしたのかしら。急に……。


「あ、あの、レオン」


「ああ、早くしないと冷めてしまうな」


「そ、そうね。早く運びましょう」


 できあがった料理をカートに乗せて、国王夫妻の待つダイニングへ急いだ。



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