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第七話 ⑤


 船の中で快適な二日間を過ごし、とうとうデュランタ国に到着した。


 船から降りてすぐ馬車に乗ったので、少しだけしか見ることができなかったけれど、港町は人で溢れ、とても賑わっていて、見ているだけでワクワクする。


「レオン、着いたら、なるべく早く国王様と王妃様に謁見させて貰える?」


「今日は元々モラエナのことを報告するために時間を取って貰う予定だったから、着いたらすぐに謁見はできるが、疲れていないか?」


「大丈夫よ。敵国の人間が城の中に居るなんて落ち着かないはずでしょうし、危険な人間じゃないってことをお伝えするためにも、しっかりご挨拶しておきたいの」


「父と王妃は気にしないはずだが、気にかけてくれるのは嬉しい。ありがとう」


 父と……『王妃』? どうして母って呼ばないのかしら。


 ……あ、そっか。デュランタの亡くなった第一王子は王妃様の息子で、第二王子はご側室の子だったはず。だからお母様って呼ばなかったのね。


 そしてご側室は、レオンが十歳ぐらいの時に亡くなっているはずだわ。


 ジャック王子の妻となるために勉強した内容が、まさかレオンに関わることだったなんて……なんだか不思議な感じがする。


「じゃあ、着いたらすぐに準備するから、私も連れて行ってね」


「ああ、わかった」


「マリー、移動の後で疲れてるところ申し訳ないけど、謁見用に着替えさせ……」


「もちろんです。マリーにお任せください」


 話している途中で元気よく返事をされたものだから、思わず笑ってしまう。


「ふふ、ありがとう。助かるわ」


「久しぶりにエミリアお嬢様を着飾ることができるのですね。腕が鳴ります! ドレスは水色のを着ていただいて、宝石は……」


 ものすごく張り切ってる……!


 道路はどこもしっかり整備されていて、揺れも最低限でとても素晴らしい乗り心地だ。



 王都には、港町から二時間で到着した。


 デュランタ国城は、白を基調とした美しい城だった。


 内側から淡く発光するような不思議な白で、デュランタ国の山からしか採れない貴重な石が使用されているそうだ。


 デニスさんや船の人たちは、私がモラエナ国の人間であることを全く気にするどころか親切にしてくれていた。でも、城の人たちはどうだろう。


 敵国の貴族令嬢、王子を殺そうとした人間の元婚約者……普通で考えると、歓迎されないわよね。


 私は自分の意志で来たからいいとして、マリーにそんな思いをさせるのは、申し訳ないわ。


 ものすごく身構えていたのだけれど……。


「初めまして、エミリア・ラクールと申します。この度は入国のご許可、及びご挨拶の機会を頂き、ありがとうございます」


「そなたが、ラクール公爵家の令嬢か」


「え?」


 モラエナの中では有名な家柄だけど、デュランタにまで届くような家柄ではないはずだけど……。


「ああ、いや、なんでもない。レディ・エミリア、デュランタへようこそ。私が国王であり、レオンの父のアヒム・リースフェルトだ。こちらは王妃のディアナだ。まあ、そんな硬くならず楽にしてくれ」


 国王様と王妃様は、温かく歓迎してくださったし、謁見室に来るまでに会った人たちも、私に敵意のある視線や態度を取る人は誰もいなかった。


 レオンに毒殺を図ろうとしたジャック王子への対応といい、デュランタの人たちは寛大すぎるわ……!


「初めまして。王妃のディアナ・リースフェルトです。まあまあ、なんて美しくて可愛らしい方なのかしら。ねえ、あなた、新婚旅行で見たあの絵画から飛び出したかのようじゃない?」


「ああ、あの色とりどりの花の中にいた女神の絵か? ふむ、髪や目の色といい、顔立ちといい、確かに似ている気がする」


「それよ。ふふ、覚えていてくださったのね」


「私がお前との思い出を忘れるはずがないだろう」


「嬉しいわ。忘れているのではないかしら? って、わざとどんな絵かは言わなかったのよ」


「夫を試すなんて、悪い女だ。でも、そういうところが愛しい」


 ああっ……! なんだかここだけすごく気温が高い気がするわ。


 すごく仲がいいご夫婦なのね。素敵だわ。


 国王様はレオンと同じ髪色で、年齢は確か四十代だったはず。王妃様が夢中になるのもわかるわ。麗しさに渋さが加わって、とても素敵だもの。レオンも歳を取ったら、こんな感じになるのかしらね。


 王妃様はとてもお美しくて、艶やかで真っ直ぐなブルネット色の髪に、青い瞳が印象的だった。同じく王妃様も四十代だったはずだけど、どう見ても二十代後半ぐらいにしか見えないわ!


「レディ・エミリア、モラエナでは不自由も多いだろう。普段感じている苦痛をどうかデュランタで癒していくといい。……と言っても、不自由にさせている原因である私が言うのは嫌味かもしれないな」


「いえ! とんでもございません。我が国の王子が仕出かした愚かな行為に、寛大なご処置を頂いたこと、感謝しております。そして、温かいお言葉をありがとうございます。しばらくの間、どうかよろしくお願い致します」


 本当に心から感謝しているわ。だって、普通ならジャック王子を処刑どころか、国ごと滅ぼされてもおかしくないのだもの。


「父上、義母上、私からもお話しがあります」


 レオンが前に出た。


 今回の旅のことを報告するのね。


「モラエナの田舎町に反乱因子の疑いがあった件ですが、誤解でした。単にとある料理屋の料理が絶品で、人が集まっていただけです」


「ああ、そうか。それはよかった。その料理に何か人を惑わすような薬物などは、入っていなかっただろうな?」


「ええ、実際に食べて確認しましたが、一切入っていません」


 そっか、そういう疑いもかけられていたのね。


 レオンが振り返って、申し訳なさそうな顔をする。


 気にしないで。あんなクズ王子の国だもの。色んな疑いをかけられてもおかしくないのよ。


「本当に美味しかったです。人気になる理由がわかります」


「あら? レオン王子、お食事ができるようになったのですか?」


「いえ、まだ無理です」


「でも、美味しかったと言うのは……」


「実は、そのレストランで料理をしていたのが、エミリアだったのです。私はエミリアと旧知の仲で、彼女の料理だけは食べることができるので」


「ええっ! レディ・エミリアは料理ができるのですか?」


「公爵令嬢が料理を作れるとは珍しい」


「はい、私は料理が大好きなのです。今、お話しに出たレストランは祖母の知り合いが経営しておりまして、その縁で週に何度か私が手伝いに行っているのです」


 料理は使用人の仕事だから、貴族がするなんて……という考えの人もいるわね。多分、私のお父様はそんな感じだと思うわ。国王様と王妃様は、どうかしら。


「はぁぁぁ……大したものだ。なあ? ディアナ」


「ええ! 素晴らしい才能をお持ちなのね」


 嫌な印象を持たれていないことに、ホッとする。


 大事な友達のお父様とお義母様だもの。できるだけ好印象を持って貰いたいわ。


「わたくしも、レディ・エミリアの作ったお料理をぜひ食べてみたいわ」


「ああ、それはいいな。ぜひ食べてみたい。今日の昼食はレディ・エミリアが作ってくれた料理を一緒に食べるというのは、どうだろう?」


「えっ」


 耳を疑った。


 国王様と王妃様が、私の料理を……食べたい!? 毒殺しようとした国の王子の元婚約者なのに!?


「エミリア、頼めるか?」


「で、でも……あの、私は、モラエナ国の人間で、ジャック王子の元婚約者です。料理に毒物を入れるなんて、神に誓って致しません。ですが、普通に考えて、私が作ったものは、食べたくないと思う方が自然だと思うのです。それでも食べたいと思ってくださいますか?」


「ああ、食べたいと思う」


「食べたいわ」


 国王様と王妃様は、間髪入れずに答えた。


「そなたは、エミリア・ラクールという一人の人間だ。モラエナ国の人間、そしてジャック王子の元婚約者という肩書きは関係ない」


「それに、警戒心の強いレオン王子のお友達なのだもの。安全だわ」


 なんていい方たちなのかしら……ジャック王子にも、ほんの少しでいいから見習って貰いたいものだわ。


「ありがとうございます」


「義母上、補足させていただいて貰いたいことが、それから父上にも許可を頂きたいことがございます」


 レオン? どうしたのかしら。


「どうした? 申してみよ」


「現在私とエミリアは友人関係ですが、私はエミリアを一人の女性として愛しています」


 レオンが自分を犠牲にして、私に永住権をくれることを諦めていないとはわかっていたけれど、まさか、この場で言い出すとは思っていなかったから、「えっ」と声を上げてしまった。


「将来彼女と結婚して、妃に迎えたいと思っています。まずは婚約したいのですが、ご許可いただけますか?」


 そんなの許可して貰えるわけないじゃない。私は敵国の人間なのよ!? あ、でも、この場でキッパリ断ってくれた方が、レオンのためにはいいかもしれないわ。


 国王様、キッパリ、ズッパリ、お願いします……っ!


「レオン、そなた、ちゃんと女性に興味があったのだな」


 えっ!?


「いや、父上、どういう意味ですか」


「どんな女性を紹介しても乗り気じゃないし、他に女性の影があるわけでもないから、もしかしたら同性の方が好きなのではないかと思っていたんだ。なあ、ディアナ」


「ええ、孫を見ることができそうでよかったわ。レオンとレディ・エミリアの子供なら美しいでしょうね。楽しみだわ」


 孫っ!? 子供っ!?


「では、ご許可いただけると言うことですね?」


「ああ、もちろんだ。婚約式の準備を進めていこう」


「まあ、なんて素敵なのかしら! とっても楽しみだわ」


 え、えぇええええ~~!?


「レ、レオン、あのっ!」


 目が合うと、レオンはニコッと笑う。


 ニコッ! じゃなくてーっ!


「もうすぐ昼食の時間ですね。話がまとまったところで、エミリアには料理を作って貰います」


「レオン! ま、待って、あの……」


「大丈夫だ。俺も手伝う」


「そうじゃなくて……っ……ちょ、ちょっと……っ」


「それでは、父上、義母上、一度失礼致します」


「ああ、楽しみにしているぞ」


「また、後でね」


 ああっ……! 訂正するタイミングを失ったわ……!


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