第七話 ③
夜、入浴を終えた私は、キッチンを借りておつまみを作った。
モラエナの港から仕入れた新鮮な海老と帆立があったので、海老と帆立とブラウンマッシュルームで、アヒージョを作った。
お鍋にオリーブオイル、にんにく、輪切りにした赤唐辛子とアンチョビを少々入れて火にかけ、にんにくの香りがしてきたら海老と帆立とブラウンマッシュルームを投入! 最後に塩で味を整えて完成!
お昼に焼いておいたフランスパンをスライスして添えた。たっぷりと旨味が出た油に付けて食べると、絶品なのよね~……!
現在、二十三時――この時間に食べるという背徳感がスパイスになって、さらに美味しく感じるはずだわ。
それにしても、さすがデュランタ国の船、キッチンには魔道具がしっかり揃っていて、氷もたっぷり用意されている。
冷やしておいたワインを取り出して、グラスを用意して……。
「エミリア」
振り返ると、レオンが立っていた。
「レオン、ごめんなさい。遅かった?」
「いや、そろそろ用意してくれてるんじゃないかと思って、手伝いに来たんだが……遅かったみたいだな」
「ありがとう。遅くなんてないわ。運ぶのを手伝ってくれる?」
「ああ、任せてくれ」
カートに全てを乗せて、レオンに部屋まで運んで貰う。
「ねえ、せっかくだからバルコニーで飲まない? 海を見ながらお酒なんて素敵だと思うの」
「そう言うんじゃないかと思って、バルコニーにテーブルとイスを用意しておいた」
「ええっ! 本当? すごいわ。どうしてわかったの?」
「エミリアのことをよく見ているからだ」
「ありがとう」
「……はあ」
「え? どうしたの? ため息なんて吐いて」
「……いや、なんでもない」
夜の海はとても静か。
モラエナの海域を過ぎたから雲はなくなり、大きな月と星が見えていた。真っ暗な海に反射して、とても幻想的な光景だ。
なんて素敵なのかしら……。
バルコニーのテーブルに料理とグラスを並べ、レオンと向かい合わせに座る。グラスにワインを注いで、その前で手を合わせる。
「おじいさま、いただきます」
「おじいさま? マダム・クローデットから頂いたものじゃなかったのか?」
「ええ、このワインはね。亡くなったおじいさまが、おばあさまと一緒に飲もうと思って、禁酒令が出る前に購入したものなんですって。でも、その後すぐにおじいさまが病気になってしまって……治ったら記念に飲もうって大切にしていたらしいのだけど、亡くなってしまったから飲めずにいたそうなの」
「そうだったのか……」
「ええ、でも、いつまでも取っておいて飲まないのは、このワインに失礼だから、私たちに飲んで欲しいって。はい、どうぞ」
レオンにグラスを渡すと、彼も手を合わせた。
「エミリアのおじいさん、いただきます」
「ありがとう。おじいさまも喜んでいると思うわ。ねえ、レオンはお酒には強いの?」
「強い方だと思う。エミリアは?」
「実は今日飲むのが初めてなの」
モラエナ国は、十五歳が成人年齢だ。でも、私が目覚めたのは、とっくに十五歳を過ぎてからだったし、お酒を飲むような機会なかったから、今日が本当に初めて。
「初めての酒を一緒に飲めるなんて光栄だ」
「ふふ、私も初めてを一緒にしてくれるのが、レオンなんて嬉しいわ」
「……その言い方は、その、ズルい……」
「え? 何か変だった?」
「い、いや、なんでもない。俺も嬉しい」
どういうことかしら?
「えーっと……」
「それよりも、この料理は前世でも見たことがあるな。なんて名前だったか……」
「アヒージョよ」
「あ、そうだ。聞いたことがある」
「オリーブオイルとにんにくで煮込んだ料理でね。今日は海老と帆立とブラウンマッシュルームで作ったの。他の具材でも美味しいのよ」
「へえ、美味しそうだ。パンと一緒に食べればいいのか?」
「そうよ。具材をそのまま食べてもいいし、パンに乗せても美味しいし、具材の旨味をたっぷり吸ったオイルをたっぷり付けて食べるのも美味しいのよ」
前世で作った時は、おじいちゃんがお酒に合う! って絶賛していたから、私も大人になったら絶対アヒージョと一緒にお酒を楽しみたいって思っていたのよね。夢が叶ったわ。
「乾杯しましょうか」
「そうだな。あ、初めてなら少しずつ飲んだ方がいい。体質的に合わなくて、具合が悪くなる場合もあるから」
「わかったわ。じゃあ、乾杯」
「乾杯」
グラスを合わせて、ドキドキしながら一口飲んでみる。
「あ、美味しいわ」
濃厚な葡萄の味がする。少し渋さもあるけど、すぐに甘さが追いかけてきてくれる。渋さと甘さの割合が絶妙で、すごく美味しい!
そして、なぜか悪いことをしているという気がして(前世ではお酒は二十歳からだったものね)ワクワクする。
「うん、すごく美味い。今まで飲んだ酒の中で一番美味い」
「アヒージョも食べてみて。かなり熱いから気を付けてね」
「ああ、いただく」
レオンは帆立をフォークに刺し、フゥフゥ息をかけて冷ます。
カッコいいのに、その仕草が可愛くて思わず笑ってしまう。
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
レオンは不思議そうにしながらも、帆立を口に運ぶ。
「……ん! すごく美味い」
「よかった」
私は海老を選んで、ほどほどに冷ましてから口に運んだ。実は、火傷しそうなぐらい熱々のものを食べるのが大好きなのよね。
「んんっ」
うーん、プリプリしていて美味しい! 海老ってどうしてこんなに美味しいんだろう。にんにくの香りと合わさると、もう最高~……!
あっ! お酒、そうだ。お酒と一緒に……。
海老を呑み込んだ後に、お酒を一口飲んでみる。
うわっ! 美味しい! 何これ……すっごくあう! 前世のおじいちゃんの言ってることが、ようやくわかったわ。
「美味しいっ! お酒によく合うわ」
「ああ、最高だな」
後ろから風が吹いて、ふわりと髪が揺れる。髪と混じって白いものが見え、何かと思ったらリボンだった。
そういえば、料理をする時に邪魔だったから髪を結んだのだったわ。解いておかないと、跡がついちゃうわね。
リボンを解いて、手櫛で髪を整える。
髪を結んでいたのは、ハンスお兄様が探してくれたリボンだ。
今頃ハンスお兄様は、どうしているのかしら……。
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