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第七話 ②


 目の前には、青い海が広がる。


「わあ! なんて綺麗なの!」


 曇り空なのが残念だわ。青空だったら、もっと海が綺麗に見えたはずなのに……。



 モラエナ国の港町、ハルジオン ――。


 私が勉強している時は、船から降りてくる旅行客の恩恵で、王都の次に栄えている町だと聞いていた。でも、今はかなり寂れているわね。


 旅行客なんて全くいないし、町の人たちの表情は暗い。港にある漁船は手入れする資金がないのか、あちこちボロボロ……戦争のせいね。


 ジャック王子は、この光景を見てどう思うのかしら。



「……」


 ……どうも思わないか。クズだものね。僕は悪くなーい! 負ける兵たちが悪いんだぁ! なんて言いそう。想像したら、腹が立ってきたわ。この海に沈めてやりたい。



「エミリア、俺たちが乗る船は……」


「あれでしょう?」


 説明されなくてもわかった。


 港に一隻だけ、とんでもなく大きくて、ものすごく立派な外装の船が停まっているもの。それに、デュランタの国旗も付いているしね。


「正解だ。さあ、乗ろう」


 船に乗るのは、前世も含めて初めてだわ。どんな感じなのかしら? 楽しみ!


 中に入ると、普通に屋敷の中みたいだった。船だっていうのが嘘みたい。動き始めたら揺れるだろうから、実感がわくのかしら?


 私が案内された部屋は三階だった。


 とても広く、壁には美しい絵画や繊細な彫刻に縁どられた鏡が飾られ、大きな寝心地のよさそうなベッド、ちょっとした食事やお茶ができそうなテーブルとイス、それに大きな鏡台が置いてある。


「わー! 素敵! 二日間も海を見て生活できるなんて贅沢ね」


「気に入って貰えてよかった」


 マリーは私の荷物を置くと、デニスさんと一緒に二階にある部屋へ向かった。マリーの部屋は、どんな感じかしら? 後で見せて貰おう。


「エミリア、俺の部屋も同じ階にあるんだ」


「あら! そうなのね」


「何かあれば……何かなくても遠慮なく来てくれ。大歓迎だ」


「ふふ、ありがとう。……あ! じゃあ、今日の夜に、こっそり行ってもいい?」


「よ、夜に、こっそり?」


「そうよ。こっそり」


 なぜかレオンが動揺する。


 あ、疲れているから、今日は休みたいのかしら? そうよね。長旅だもの。疲れているはずがないわ。


「ごめんなさい。疲れているもの、早く休みたいわよね。明日の方がいいかしら?」


「いやっ! いや、今日で大丈夫だ。今日がいい。というか、その、毎日でも大丈夫だ」


 あまりにも必死なものだから、思わず笑ってしまう。


「ふふ、毎日は身体に悪いわ。やっぱりお休みを作らないとね」


「…………確かに、毎日……というのは、身体に悪いかもしれないな」


 レオンったら、鋭いわね。まだ何も言っていないのに、私が部屋に尋ねていく理由がわかっているみたいだわ。


「マリーには内緒よ? もう私は子供じゃないのに、きっと子供扱いして怒るだろうから」


「あ、ああ、わかった。もちろんだ」


 あら? どうしたのかしら。レオンの顔が赤い?


「レオン、なんだか顔が赤くない? 熱でもあるのかしら。大丈夫?」


 額に触れて確かめたいけれど、背が高くて届かない。


「いや、大丈夫だ。これはちょっと……アレだ」


「アレ?」


「そう、アレだ。アレがアレで、アレなだけだ」


 アレって、何かしら。今日のレオンは、ちょっと変だわ。


「体調が悪いわけじゃないってことかしら?」


「ああ、元気だ。ものすごくな」



「よかった。お酒は元気な時じゃないと駄目だものね!」



「…………酒?」



「ええ、実はね、おばあさまからワインを頂いたの。一緒に飲みましょう」


「あ……なるほど? ……ああ、そうか、酒か、酒……」


「そうよ。お酒を飲むなら、すぐ眠れるように夜寝る前がいいかな? と思って! 前世ではお酒を飲める歳になる前に死んでしまったから、憧れてたのよね」


「そうか、なるほど、なるほど、酒か」


「……あら? 考えていたことと違った?」


「い、いや! 酒だ。酒だと思っていた。楽しみだ。そんな貴重なもの、頂いていいのか?」


 実は全大陸では十年ほど前から禁酒令が実施されていて、輸入するには莫大な酒税がかかるので、お酒はとても貴重なものだった。


 なぜ禁酒令が出されているかというと、各国お酒による犯罪や健康被害が急増したことを受け、国際会議で決まったからだ。


 今では特別な行事や儀式の時しか、お酒を飲むことはできない。


「ええ、おばあさまがレオンと一緒にどうぞって。せっかくだから、何かおつまみも作りたいのだけど……」


「キッチンと食材を自由に使えるように伝えておく」


「ありがとう! あ、そろそろお昼よね。レオンは外の食事は駄目だけど、船の中の食事でなら食べられるの?」


「ああ、一応は」


「一応?」


「外では全く食べられなくて、自分の城が雇ってる者が作った物なら、毒に反応する銀食器を使って必要最低限だけ食べられる感じだな」


 思ったより症状は深刻だったわ……!


 ジャック王子を今すぐ殴ってやりたくて仕方がない。


「心配しなくて大丈夫だ。作ったものは食べられないが、素材そのものは食べられる。腹が減った時には、よく林檎を丸かじりにしている」


 食事は元気の源で、楽しみでもあるのに、それをあのクズのせいで奪われるなんて許せない!


 なんとかレオンがまた苦痛を感じず、食事を口にすることができるといいのだけど……。


「私の作ったものなら大丈夫……なのよね?」


「ああ、大丈夫だ。いつもは腹が空くと食事をしないといけないのかって憂鬱になるんだが、エミリアの食事があると思うと楽しみで仕方がない」


 私のことを信頼してくれて嬉しい。


「じゃあ、一緒に居る間は、私が作るわね」


「嬉しいが、負担にならないか?」


「ええ、料理が大好きだから大丈夫よ。それにデュランタの食材を使えるのも楽しみだし」


「そうか。じゃあ、よろしく頼む」


「任せて」


 でも、いつまでも一緒に居られるわけじゃないから、私が居なくてもレオンが食事をとれる方法を考えなくちゃいけないわね。


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