第一話 ②
マリーは慣れた手つきで私の髪を結いあげ、あっという間に身支度を整えてくれた。
「はい、できました。うーん、エミリア様は、今日もお美しいです!」
「ありがとう。マリーがお手入れをしてくれるおかげね」
ここまでくれば完全に目が覚めた。鏡台の前から移動して机に着く。
「飲み物をお持ち致しますね。何に致しましょうか」
「うんと濃い紅茶を淹れてくれる? ミルクと砂糖はなしで」
「かしこまりました。朝食前に何か軽く召し上がりますか?」
食べ物を想像したら、お腹がキュゥッと鳴る。昨日も深くまで起きていてお腹が空いていたから、すぐにでも何か食べたい。
で、でも―……っ!
「ありがとう。でも、太ってしまうから我慢するわ」
朝食は体調不良や予定がある時以外は、八時に家族全員でとるのが決まりだ。軽食に朝食も……となれば栄養過多、体重が増えてしまうかもしれない。
「太りにくいものをお持ちいたしますか? 果物はどうでしょう」
食べたい……!
みずみずしいオレンジ、シャキシャキ食感の林檎、甘酸っぱい苺……ああ、果物ってどうしてあんなにも美味しいのかしら。
生唾と一緒に、欲求も呑み込む。
エミリア、駄目! その一口がおデブの道に繋がるのよ!
「ありがとう。でも、やめておくわ」
次期王妃として、容姿や体形を保つのも重要だ。
一週間後には王城で建国記念祭が開かれる。もうドレスはできあがっているし、少しでも太ったら直して貰わないといけないので、太るわけにはいかない。
「エミリアお嬢様はご自分に厳しすぎですよ」
「次期王妃なのだもの。厳しくないと駄目なのよ」
でも、私がジャック王子の婚約者じゃなかったら、どんな人生を送ったのかしら――なんて、たまに想像する。
「あまり無理をなさらないでくださいね。すぐに紅茶をお持ち致します」
「ありがとう」
想像するだけ無駄よ。現実は変えられないし、そんな時間があれば彼の隣に立つのにふさわしい女性になれるよう勉強しなくちゃ……!
濃い紅茶で眠気を覚ましながら、いつものように机に向かう。
何の音も聞こえない静かな時間、夜と朝の境目、窓から見える青と橙色の空が綺麗で、この時間が一番好きだった。
お腹が鳴りそうになるたびに紅茶を飲み、なんとか朝食の時間まで持たせた。
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