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第六話 ④


「えっ! あ、明日!?」


「本当なら後日……と言うところなんだろうけど、前世の体験で明日なんて必ず来るとは限らないって、当たり前のことに気付いた。だから、自分の欲求を先延ばしにしないって決めているんだ」


「レオン……」


 そうよね。私も明日が当たり前に来ると思っていた。でも、前世では私もレオンもあっけなく命を落とし、今世でも危ないところだった。


 明日が来るということは、当たり前じゃない。奇跡みたいなことなのだ。


「ちなみにマダム・クローデットからは、許可は貰っている」


「いつの間に!」


 もしかして、私がアップルパイを作ってる間?


「マダム・クローデットは、エミリアはずっと我慢と苦労をしてきた子だから、自分の気持ちのままに生きて欲しい。だから、エミリアが行きたいと言うのなら、連れて行ってあげてと仰っていた」


「おばあさま……」


 おばあさまの優しさが嬉しくて、温かくて、涙が出そうになる。


「俺はエミリアともう離れたくない。エミリア、明日デュランタへ一緒に来てくれ」


「私ももっとレオンと一緒に居たいし、デュランタにも行ってみたいと思ってるわ」


「じゃあ……」


「ごめんなさい。私、おばあさまをおひとりにするのは心配なの。さっきおばあさまが言っていたけど、半年前に食事が取れなくなるぐらい衰弱していたのよ。だから、お傍を離れるのは不安なの……」


「マダム・クローデットは、エミリアのことをお見通しなんだな」


「どういうこと?」


「エミリアが自分の心配をして迷っているようなら、自分のことは気にしないで行ってきて欲しいと伝えるように言われている。自分は孫の足枷になりたくない。エミリアが我慢しているのを見るのは辛い。エミリアが自分のしたいようにして、楽しく過ごしていることが嬉しくて、元気になれると仰っていたよ」


 生まれた時からジャック王子の婚約者になると決められていた私は、両親の愛情に恵まれなかった。


 兄には嫌われ、唯一私を好いてくれていたカタリーナも私のことなど好きじゃなかった。でも、おばあさまがそれらを上回るほどの愛をくださったから、私はこうして笑っていられる。


「私、レオンと一緒にデュランタへ行ってみたいわ。そして、デュランタでお土産を買って、デュランタはとても楽しかったって、おばあさまにお伝えしたい」


 私の答えを聞いて、レオンはとても嬉しそうな顔をしてくれた。


「楽しかったって、まだ行ってないのに?」


「レオンと一緒なんだもの。楽しくないはずがないわ」


「……っ」


 レオンが口元を押さえて、明後日の方向を向く。


「あ、やっぱりアップルパイで火傷しちゃった?」


「い、いや、そういうのじゃない」


 じゃあ、どういうのなのかしら。


「実はモラエナには、デニスの他に侍医と神官も一緒に連れてきている。二人とも素晴らしい力の持ち主だ」


「そうだったの? 知らなかったわ。お二人は宿に? 知っていたらお二人もお招きしていたのに……気が利かなくてごめんなさい」


 大国の第二王子が、たった二人だけで旅をするはずがなかったわよね。もっと気を回せばよかった。


「すまない。そういう意味じゃないんだ。マダム・クローデットは、ああ仰ってくれたが、エミリアは心配なんじゃないかと思って、エミリアの代わりに二人を置いて、マダムの体調を診て貰うのはどうだ?」


「えっ! いいの?」


「ああ」


「レオン、何から何までありがとう……!」


 感情が高ぶって、私の手を掴んでいたレオンの手を両手でギュッと掴んだ。


「……っ……あ、ああ」


 少し前まで自由が全くなかったのに、まさか旅行までできるようになるなんて、人生何が起こるかわからないものね。


「そうだわ。私の侍女も連れて行っていい?」


「もちろんだ」


 マリーが行きたいって言ってくれたらだけど、きっと彼女なら一緒に来るって言ってくれそうな気がする。


 ああ、楽しみだわ……!


「デュランタの人たちは、モラエナ人が尋ねても嫌な気分にならない?」


「心配しなくて大丈夫だ」


 お喋りに花が咲き、かなり深い時間になってしまった。興奮して眠気が吹き飛んだわ! と思っていたけれど、身体は正直だ。あくびが出てしまう。


「名残惜しいが、そろそろ休もうか」


「そうね。明日も、明後日も一緒だものね」


「あ、ああ、そうだな」


 レオンが口元を隠す。


 レオンもあくびが出たのね。私に付き合わせちゃって申し訳ないわ。でも、付き合ってくれて優しい人!


「じゃあ、おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」



 片付けを終えてベッドに入ると、あっという間に私は夢の世界へ旅立った。


 夢を見た気がする。


 内容は覚えていない。でも、とても幸せな夢だった気がする。


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