第六話 ②
私の思った通り、優しいおばあさまは、レオンとデニスさんを快く迎え入れてくれた。
マリーや使用人のみんなも、私のお友達で、しかも命の恩人なら、手厚く持てなさなくては! と、張りきってくれたのが嬉しかった。
ジャック王子のせいで食事が苦手になってしまったレオンに、少しでも美味しくて栄養があるものを食べて貰いたい。
屋敷の中の案内はマリーに任せて、私は帰るなりすぐキッチンに入り、今日の夕食作りに取り掛かった。
今日はたっぷりの野菜と鶏肉のクリームシチューとバケット、おばあさまには硬すぎるから、別に柔らかいパンを焼いた。
ガーリックトーストにしようかな? とも思ったけど、長らくまともに食事をとれていなかったレオンの胃には刺激が強すぎるのでやめておいた。
それからにんじんを細長く薄い千切りにして、オリーブオイルと酢で味付けしたサッパリサラダに、きのこのバター焼きを用意した。
美味しく食べてくれたらいいな。
ドキドキしながら迎えた夕食の時間、レオンとデニスさんはとても喜んでくれた。
「エミリア、すごく美味しい」
「よかった!」
「エミリア様、レストランの料理も素晴らしかったですが、この料理もとても美味しいです。デュランタ国城のシェフが作ったものよりも美味しいです」
レオンもデニスさんも絶賛してくれて、くすぐったい気持ちになる。
「ふふ、ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」
「いえいえ、僕もそれなりにお世辞を使うことはありますが、今のは本心です。でも、よかった……レオン様がまともにお食事をされるところを久しぶりに見ることができて安心しました」
そうよね。心配よね。
「食事が怖くなるなんて、お辛いでしょう……レオンさん、今はお身体の具合はいかがですか?」
おばあさまが悲しそうなお顔で尋ねられる。
ちなみにおばあさまが他国の王子を「さん」付けで呼んでいるのは、レオンが敬称なしで気軽に話して欲しいとお願いしたからだ。
「ご心配いただき、ありがとうございます。もう元気になれました」
「それはよかったです。私も少し前に体調を崩して、食事がとれなくなりましたの。御覧の通り私も歳ですので、もうそろそろかしら……なんて思っていたのですが、この子の料理で元気を取り戻せましたの」
「さすがエミリアの料理だ」
「そ、そんな……」
嬉しいけど、照れてしまう。
「ふふ、それにしても、エミリアがお友達を紹介してくれて嬉しいわ。いつでもお招きして構わないって言っているのに、この子ったら遠慮してなかなか連れてきてくれないのだもの。まあ、こんな田舎ですから、来ていただくのも難しいかもしれませんが」
おばあさま、遠慮してるわけじゃないのよ! 本当にこの世界に友達がいないだけなのよ!
王子の婚約者という立場上、周りの令嬢たちは、私を“お友達”としてではなく、“次期王妃”として見ていて、お世辞を使ったり、私を持ち上げるような話をしてくれることはあっても、本音で話してくれる人は一人もいなかった。
私のコミュ力が強ければ、次期王妃としての垣根を越えて、友人と呼べる人もできたのかもしれないけど、残念ながら能力はなかったわけで……ふふっ! あはっ! 泣いてなんかいないわ!
晴れて婚約破棄したし、これからはこの世界でもお友達を作るのが目標の一つでもあるのだ。
「エミリアからはただの友人としか思われていませんが、僕は彼女が好きなので、友人ではなく、妻になって欲しいんです」
「んぐっ! ケホッ!」
「あらあら! まあまあまあ!」
シチューを喉に詰まらせるところだった。
まだ、私にデュランタの永住権を持たせようとしてくれているのね。レオンったら、本当にお人好しだわ。いつか誰かに騙されないか心配だわ。
私は一応少し前に戦争したばかりの敵国の公爵令嬢よ? レオンは何にも思わなくても、デニスさんはなんて話をしてるんだ! って反応をしているんじゃないかしら。
チラリと横目でデニスさんを見ると、彼は「それはいい!」とでも言わんばかりの顔をして、うんうん頷いていた。
ええっ!? デュランタの人って、心が広すぎるんじゃないかしら……!
「エミリアに男として好きになって貰えるように、これから頑張っていきたいと思っています」
「ちょっ……ちょっと、レオン……」
本心じゃないってわかっているけれど、そんな風に言われたらドキドキしてしまうわ。
「私は大賛成です。レオンさん、応援致しますわ」
「お、おばあさまっ!?」
「この子はご存じの通り、レオンさんに危害を加えたモラエナの第一王子の婚約者でした。そのため、努力と苦労の連続で……でも、レオンさんのような方なら、孫娘を安心して任せられますわ」
「ありがとうございます」
おばあさま、完全勘違いしてしまったわ……。
「それに、この子がこんなにも楽しそうにしているのは初めて見ましたし」
「だって、嬉しいし、楽しいもの。またレオンに会えるなんて思っていなかったから」
いつ、どこで、レオンと会ったのかを突っ込まれたら困るから、それらしい話を考えて、レオンと口裏を合わせておかないといけないわね。
「そうか、エミリアが嬉しいと思ってくれていることが嬉しい」
レオンが微笑むと眩しい。
ああ、この世界のレオンも本当にイケメンだわ……!
「それにしても、明日でお別れなんて残念ですわ。エミリアのこんなにも明るい顔は、初めて見ましたもの」
「ええ、今回の件に犯罪性はなかったと、父上に報告しなければなりませんから……僕もできればもう少し滞在させていただきたかったです」
「ふふっ……それにしても、エミリアのおかげでレストランが繁盛して、それが反乱因子と間違えられるなんて……ふふふっ……ごめんなさい。笑い事じゃないのですが……まさか……うふふ」
おばあさまが口元を押さえ、楽しそうに笑う。
「あまりに人が集まっていたので、何事かと思いまして」
「そうですわよね。こんな変哲もない田舎にいきなり人が集まれば、そうお思いになってもおかしくございませんわ」
私の大切な人たちが集まって、お話ししてる。
何かしら。この幸せな空間は……!
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