表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/69

第一話 ①

 私、エミリア・ラクールの朝は早い。



 

「エミリアお嬢様、おはようございます。朝ですよ」


 侍女のマリーに起こされ、重い瞼を開ける。


 外は薄っすらと明るくなってきているけれど、まだ四時……人によっては、朝というよりも夜という人もいるのかもしれない。


「ううーん……マリー、おはよう」


「昨日は何時まで起きていらっしゃったのですか?」


「記憶にあるのは、二時くらいよ。途中で寝てしまったみたい」


 ベッドの下に落ちていた本をマリーが拾ってくれる。

 

 変な折れ目が付いていないことを確認し、机の上に置いた。私の住む国、モラエナ国 と友好条約を結ぶカルミア国の公用語の教科書だ。


「二時間しか休まれていないじゃないですか! 睡眠不足は身体に毒ですよ」


 彼女はマリー・モデュイ、私が十歳の時から面倒を見てくれている侍女だ。


 結い上げたチョコレート色の髪は、おろすと肩を少し越すぐらいまでの長さ。大きな目は深い森の色をしている。

 

 六歳年上だけど、童顔なので私と同じぐらいに見られがち。

 

 マリーはそのことをかなり気にしているみたいで、私服は大人びたものを選ぶようにしているようだった。


「ええ、そうね。ほどほどにしないといけないとは思っているのだけれど、ついね」



 王妃になれば、カルミア国との外交もある。


 通訳を通すよりも、自分で話せた方が色々と都合がいい……ということで、完璧に話せるようにした上で、手紙のやりとりも考えて書けるようにならないといけない。


 でも、まだ私は話すことで精いっぱいだった。しかもペラペラ話せるわけじゃなくて、かなりたどたどしいし、読むことはなんとかできても書くことは大分危うい。


 今日はカルミア語の授業があるから、もう少し書けるようになりたかったけれど、眠ったらせっかく覚えた単語が、いくつか飛んだ気がする。


 カルミア語だけじゃなくて、友好国の言語は全部覚えなければならないし、王妃として学ばなければいけないことは星のようにあって、いくら時間があっても足りない。


 睡眠時間はしっかり確保しないと身体や美容にも悪いし、眠った方が学習効率は上がるとわかっていても、つい焦って深追いしてしまう。



 今すぐ目を閉じてしまいそう……でも、顔を洗ったらそこそこ開けていられるようになった。ドレスに着替えて、鏡台の前に座る。


 腰まであるお母様譲りのプラチナブロンドをマリーが丁寧に梳いてくれた。


 櫛が入った瞬間は真っ直ぐで、通り過ぎるとすぐに波打つ。この髪質は若い頃のおばあさまと同じらしい。


 菫色の目はお父様と同じで、両親ともに整った容姿をしている恩恵で、私も恵まれた容姿をしている。


 自分で言うなと言われそうだけれど、心の中での話だもの! どうか許して欲しいものだわ……って、誰に言っているのかしらね。



「せっかくの綺麗なお肌が少し荒れていますよ。朝はしっかり保湿して、夜はパックしましょう」


「ええ、ありがとう」


「パックしても眠らないと駄目ですよ? エミリアお嬢様はまだ十五歳で成長期なのですから、しっかり眠らないと育つものも育ちませんよ」



 十五歳――『まだ』じゃなくて『もう』十五歳、来年にはジャック王子と結婚しないといけないのね。


 ずっと決まっていたことなのに、目前に迫ると胸の中に黒い霧がかかったように感じる。


「そうね。今日はできるだけ早く眠るわ」


「……それ、いつも言いますよね?」


 鏡越しにマリーに睨まれ、苦笑いで誤魔化す。


「今日こそ寝るわ」


「約束ですよ?」


「ええ、約束するわ」



 ……多分、明日もマリーに怒られることになりそう。

気に入ってくださったら、評価ブックマークいただけると嬉しいです~!

更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ