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第二話 ⑩


 私がおばあさまの屋敷に来て、半年ーー。


「エミリア、畑のお世話をしているの?」


 庭の一角に作ってみた畑を手入れしていると、おばあさまとアシルが立っていた。


「ええ、でも、上手くいかないわ。にんじんは根が腐っちゃった」


 おばあさまは日に日に食べられる量が増え、ベッドから起きて日常生活ができるようになっていた。


「太陽の光がないと、やっぱり難しいのね」


 呪いの力は、まだまだ続いている。呪うならジャックズだけ呪って欲しいわ。


「でも、土を弄るのは楽しいわ」


「そう、私も挑戦してみようかしら」


 アシルが慌てて止めるのも聞かずに、おばあさまが私の隣にしゃがむ。


「無理なさらないでね?」


「ええ、大丈夫よ。エミリアの作ってくれた料理のおかげで、すっかり元気だもの」



 私はあの日から、モラエナ産の不味い食材を美味しく食べられるように料理し続けている。


 レシピはドニと共有して、屋敷全体の食生活を改善することに成功した。食事の力は偉大でみんな元気を取り戻し、仕事に励んでくれている。


 使用人たちから町の人たちにレシピが伝わって、そこからおばあさまの知り合いの経営しているレストランの手伝いも頼まれ、週に何度か出入りして調理に入ったり、新しいレシピを考えたりしている。


 ありがたいことに、私が手伝ってから人気が出たと言って貰えて、今は地域の人だけじゃなくて、色んな街から食べにきてくれる人が増えたみたいで活気に溢れている。


 この国にはない肉じゃがとか、コロッケとかを出しているので、それが珍しいからかもしれない。


「エミリアお嬢様、そろそろお時間ですよ。着替えて、お店に行かなくては」


 おばあさまと一緒に雑草をむしっていたら、マリーが呼びに来た。そう、マリーも自らの意志でこちらに来てくれたのだ。嬉しすぎて、泣いて喜んだ。


 あれからマリーとは、たくさん話をした。


 ジャック王子を嫌っていたこと、そして王城で見たカタリーナの姿……信じて貰えなくてもおかしくないのに、マリーはすぐに信じてくれた。


 エミリアお嬢様が私に嘘を吐くはずがありません。私はエミリアお嬢様を信じます――そう言ってくれて、涙が出るほど嬉しかった。



「あ、うっかりしていたわ。おばあさま、行ってきます」


「ええ、気を付けていってらっしゃい」


 一度部屋に戻って、作業用の服からお出かけ用の服に着替える。料理の邪魔にならないように飾りがないロングワンピースに身を包み、髪を一つにまとめた。


「エミリアお嬢様、社交界へ行くご予定がなくとも、たまには着飾りませんか? せっかくの美貌が勿体ないですわ」


 ジャック王子の婚約者じゃなくなった私への周りの対応は……正直、腫れもの扱い。


 今までは社交界へのお誘いの手紙がひっきりなしに届いていたけれど、今は数件ほど。それもゴシップが大好きな令嬢からのお誘いで、目的はお察し。


「おめかし程度なら私もたまにはしたいと思うけど、着飾ったら早々脱げないし、料理の邪魔だわ」


 たっぷりのフリルに火が燃え移るのを想像し、ゾッとしてしまう。


「そんなぁ……」


「ごめんね。また、機会があったらお願いするわね」


「絶対ですよ?」


「ええ、絶対ね」


 そんな機会がないことを願う。


 王都から離れ、社交界に出ることもなく、勉強することもない。好きな料理もできて、大好きな人たちに囲まれて過ごす日々は、とても充実していて幸せだ。



「じゃあ、行ってきます!」



 どうかこの素敵な時間が、一日でも……一分一秒でも多く続きますように。


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