第二話 ⑧
「エミリア……?」
おばあさまに名前を呼ばれ、流れ込んできた前世の記憶から帰ってきた。
「は、はい……」
「大丈夫? 昨日目覚めたばかりなのに、こんな長距離を移動したから具合が悪くなってしまったんじゃないかしら」
ご自分の方がうんと大変なのに、私のことを気遣ってくださって……。
「いいえ、おばあさまにお会いできるのは本当に久しぶりだから、懐かしいなぁって噛みしめていたところなの」
おじいちゃん、おばあちゃん、私が死んでしまって、すごく泣いただろうな。
残される側の人間が、どれだけ辛い思いをするかわかっていたのに。
ごめんなさい……。
「ふふ、そうね。本当に懐かしいわ」
サイドテーブルには、減っていないスープが置いてあった。
「おばあさま、お食事は……」
「さっき頂いたから大丈夫よ。それよりエミリア、お腹が空いたでしょう? アシル、エミリアに食事を用意してあげて。来てくれたばかりなのに、ごめんなさいね。少し休むわね」
「……ええ、ゆっくり休んでね」
おばあさまのお部屋を出た私は、溢れた涙を拭ってアシルと共にダイニングへ向かう。
「エミリアお嬢様、昨日目覚められたばかりだとお聞きしましたが、昼食のメニューは胃に優しいものに致しましょうか」
「ありがとう。おばあさまにお出ししていたスープがまだ残っていたらそれと、小さめのパンもお願いできる?」
「かしこまりました。すぐにお持ちします」
おばあさま、すごく痩せていたわ。
祝福を受けたくないのなら、少しでも何か召し上がって欲しい。でも、スープすら口にしたくないのなら、どうしたらいいのかしら。
あれこれ考えているうちに、スープとパンが用意された。色と香り的にかぼちゃのポタージュね。大好きだわ。
「ありがとう。いただきます」
スープを口に入れた瞬間、期待外れの味に眉を顰めた。
「……っ!?」
なんか、不味い……。
味がぼけていて、ほのかに土臭い。
もう一口飲んでみる。
……うん、不味いわ。パンはどうかしら。
一口分ちぎって、恐る恐る口に入れる。
あ、パンは普通に美味しいわ。
「申し訳ございません。お口に合いませんよね」
私の様子を見たアシルが、苦笑いを浮かべる。
「ご、ごめんなさいね。でも、パンは美味しいわ」
「小麦は戦争以前のものですから」
「あ、もしかして、このかぼちゃって……」
「はい、モラエナで採れたものです。資金は十分ございますので、他国から食材を取り寄せることもできるのですが、奥様は、自分だけ違うものを食べるわけにはいかない。我が領民が食べているものと同じものを口にすると仰っておりまして」
優しいおばあさまらしいわ……。
ジャック王子に爪の垢でも煎じて飲んで貰いたいものだ。
あいつなんてバリバリ輸入して、美味しい食材を食べていることでしょうね! 元凶のくせに! あいつだけが呪われればよかったのに! ジャックズ!
それにしても、ただでさえ食欲が落ちているんだもの。こんな美味しくないものをお出ししても、身体が受け付けるわけないわ。
かといって、他国から食材を取り寄せて美味しいご飯を作ったとしても、おばあさまは別の意味で口にしないだろう。
じゃあ、モラエナの食材でどうにかするしかないってことよね。
前世の家庭菜園で採れた野菜って、美味しいものだけじゃなかった。だから、どうすれば美味しく食べられるかは詳しいつもりだ。
「……アシル、食糧庫を見せてくれる?」
アシルに案内して貰って食糧庫を確認した。厚い雲越しにしか日光を浴びることができなかった食材は、どれもよろしくない状態だ。
みんながやつれて見えたのも、食事が進まないからかしら。
成長できなくて、普通のトマトがミニトマト状態……これじゃ味も期待できないわね。
そういえば、昔ミニトマトが苦手だった。
うちの家庭菜園でできるミニトマトってすごく酸っぱくて、青臭くて、子供の舌には大分辛かった。
でも、蜂蜜とレモンで漬けて貰ったのは、甘酸っぱくて大好きだったのよね。高熱を出した時もこれならペロリと食べられたっけ。
――そうだわ!
「アシル、キッチンを貸して!」
「キッチン……ですか? あの、何をなさるおつもりで……」
「もちろん、料理を作るのよ」
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