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第二話 ⑦

 前世での私は、幼い頃に両親を事故で亡くし、父方の祖父母と一緒に暮らしていた。


 両親を亡くしたショックでご飯が食べられなくなってしまった私を、おじいちゃんとおばあちゃんは優しく見守ってくれた。


 二人だって辛かったはずなのに……。


『可愛い孫がいて、大満足の人生だわ。皐月ちゃん、生まれてきてくれてありがとうね』


『ああ、本当にそうだ。皐月は僕たちの自慢の孫だよ。皐月がいるから、じいちゃんもばあちゃんも頑張れるんだぞ』


 いつもそう言って、たっぷりと愛情を注いでくれた。


 私もおじいちゃんとおばあちゃんが大好き――。


 ご飯が食べられるようになって、だんだん日常生活を送れるようになった。


 祖母は料理上手で、小さな家庭菜園もしていたから、季節の野菜を使った美味しいご飯をたくさん食べさせて貰った。


 運動会や遠足にも美味しいお弁当を作ってくれて、行事よりもお弁当の方が楽しみだったっけ。


 そんな祖母の影響で、私も料理をするようになった。おばあちゃんと一緒に並んで料理を作るのが楽しくて、みんなでご飯を食べるのが大好きだった。




 高校生になったある日、いつも一緒にお弁当を食べている友達が風邪で休んだことがあった。


 今日は一人か~……。


 その日はとてもいい天気だったから、教室でじゃなくて、一度も行ったことのない屋上で日光浴をしながら食べようと思いついた。


 みんな考えることは同じみたいで、他にもちらほらご飯を食べている生徒がいる。


 その中に、同じクラスの高町くんもいた。


 染めていないサラサラの黒髪で、アイドル以上に整った顔立ちをしている彼は遠くからでも目立ち、女子からすごく人気がある。


 でも、誰にも連絡先を教えないし、告白にも応じないらしい。話しかけても反応が薄いそうで、近寄りがたい存在……。


 噂によると政治家の宮川富雄の愛人の子で、隣のクラスの宮川弘樹は、母親違いの兄弟らしい。


 まあ、噂なんてあてにならないけどね。根も葉もない内容が、あたかも本当のように言われてるってこと結構あるし。


 私も昔、両親が亡くなって祖父母に引き取られた時、学区が違うから転校することになったんだけど、前の学校の全校生徒をボコボコにしたことでいられなくなって、転校してきた……なんて噂を立てられたことがあるし。お前をボコボコにしてやろうか!


 高町くんに話しかけることはせず、その辺に座ってお弁当を広げようとした。でも、彼の手に持っているのが、自販機に売ってるパックジュースだけということに気付いてしまい……。



『えっ! 高町くん、お弁当は?』


 一度も話したことがなかったのに、思わず話しかけてしまった。


『ない』


『なんで!? ダイエット?』


『いや、そういうわけじゃない』


『じゃあ、忘れたの?』


『……まあ、そういうとこ』


 ぶっきらぼうだけど、質問にはちゃんと答えてくれる。


『購買にパン売ってるでしょ? 売り切れだったの?』


『並ぶのかったるくて。飲み物だけでいいかなって』


『よくない! 飲み物だけでお腹がいっぱいになるわけないでしょ! ご飯は元気の源なんだから! ちゃんと食べないとダメ! 私のをわけてあげる』


『え、いや……』


『ほら、早くここに座って。おにぎり、鮭と梅どっちがいい? 梅は甘いやつじゃないよ。すっごく酸っぱいやつ!』


『どっちでも……』


『じゃあ、梅の方あげるね。おばあちゃんの漬けた梅なんだ。酸っぱいけど、美味しいよ』


 アルミホイルで包んだおにぎりを渡して、お弁当箱の裏におかずをわけていく。


 焦げ目がつくまで焼いたウインナー、残り物の肉じゃが、蜂蜜の入った玉子焼き、にんじんのきんぴら。


 予備で割り箸を持っていてよかった。よく落とすから、割り箸はいつも何本か用意してあるんだよね。


 おにぎりに続いて、やや強引におかずと割り箸を渡した。


『はい、食べて。いただきまーす』


 高町くんに渡した後、すぐに食べ始める。そんな私を見て、高町くんも『いただきます』と小さく言って玉子焼きを食べた。


『……美味しい』


 高町くんが驚いた表情を見せ、口元を綻ばせた。


『本当? よかった!』


 友達とはおかず交換したことがあって、美味しいって言って貰ったことがある。でも、男の子に褒めて貰えたのは初めてで、なんだかくすぐったい気持ちになってしまう。


『甘い玉子焼き、初めて食べた』


 いつもは、しょっぱい玉子焼きなのかな?


『美味しいよね。私、卵焼きは絶対甘いのがいいんだ。砂糖を入れるよりも、蜂蜜を入れるのが好きで、今日のも蜂蜜入り』


『え、自分で作ってるのか?』


『うん、料理好きなんだ。おばあちゃんがすごく料理が上手でね。教えて貰って作ってるんだ』


 高町くんと一緒に食事をとったのは、この時だけ。でも、このことがキッカケで、彼と他愛のない会話をするようになった。


 ちなみに高町くんは律儀な人で、お弁当のお礼にジュースを奢ってくれた。




『北条、危ない!』




 私があの時、お弁当をわけなかったら、知り合いにはならなかった。線路に落ちそうな時、気付いても助けにこなかったかもしれない。


 私のせいで、高町くんを巻き込んでしまったも同然だ。



 なんてことをしてしまったんだろう。


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