第二話 ⑤
ノックしようとして、躊躇う。
私のせいであんなクズと結婚させてしまったのだもの。嫌われていたらどうしよう。『お姉様の顔なんて大嫌い! お姉様の顔なんて見たくない!』なんて言われたら、再起不能になる自信があるわ。
やっぱり、出直そうかしら……。
「~~♪」
弱気になっていると、扉の向こうからカタリーナの鼻歌が聞こえてくる。
ああ、カタリーナ……。
機嫌がいい時には、いつもこうして鼻歌を口ずさんでいたわ。出直すとしても、せめて、顔だけでも見たい。
音を立てないように扉を少しだけ開く。するとカタリーナの横顔が見えた。鏡を見て、頭に大きなダイヤを宛がっている。
何をしているのかしら。
それにしてもうんと綺麗になったわ。愛らしい少女から、美しい大人になって――どうしよう。感極まって泣いちゃいそう。
「私が次期王妃かぁ……」
あれ? 誰かいるのかしら?
「ああ、早く王妃に受け継がれるティアラが欲しいわ。このダイヤよりもうんと大きくて、眩いのよね。ふふ、私にピッタリ」
カタリーナ以外の声が聞こえない。どうやら独り言のようだ。
王妃になること、実は前向きだったのかしら。それならよかったわ。
三年前はカタリーナが宝石に興味を持っているところは見たことがなかったけれど、私が眠っている間に宝石が好きになったのね。
ダイヤ、ルビー、サファイヤ……どの宝石も、カタリーナの美しさには霞んでしまうだろう。
カタリーナは踊るようにクルクル回りながら、部屋の真ん中にある花瓶の前に立つ。大きな赤い薔薇がたっぷりと飾られていて、ここまでいい香りがする。
「ふふ、いい香り……それに、とっても綺麗だわ」
薔薇の花びらを指先でなぞっていたと思いきや、ぶちぶちむしり始めたものだからギョッとした。
えっ! な、何? どうしてむしるの!?
「……でも、綺麗に整っているものって、壊したくなるのよね。ああ、スッキリしたわ」
こ、怖……っ!
「それにしても、こんなに上手くいくなんて思わなかったわ。誰も私が暴漢を雇って、お姉様を刺すように仕向けたなんて思わないでしょうね」
――――……!?
え? 今、なんて?
「私より先に生まれたから王妃になるなんて、そんなの不公平だものね。私の方が王妃に相応しいわ。それなのにお姉様ったら、王妃になる気満々で頑張っていらっしゃるのだもの。身の程をわきまえていない人って嫌いだわ」
カタリーナは次々と薔薇をむしっていき、床が花びらだらけになっていく。なんだか血みたいでゾッとする。
目の前にいるのは、本当にカタリーナなの!?
「それにしても、生き残るなんて思わなかったわ。ましてや三年も寝たきりだったのに、目を覚ますなんてビックリ! 私がジャック王子の妻になったって聞いた時、お姉様ったらどんな顔をしたのかしら? 見てみたかったわ……うふふ、呆然としていたかしら? それとも泣いた? ああ、見られないのが本当に残念……あはっ! あははっ!」
いや、怖い! 怖い! 怖い! 怖すぎるでしょ……! サイコパスじゃん! 私がここにいるって気付かれたら、今度は確実に仕留められるわ!
私はそっと扉を閉め、足音を立てないようにその場を後にした。
前世で見たホラー映画より怖かったわ……。
あれは、誰? 私の可愛い妹はどこに行ってしまったの? ううん、もしかして、あれが本来の姿? 私が見抜けなかっただけ?
クラクラしてきた……とにかく、ここから離れたい。
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