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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇
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三.白山にあへば光の失する(3)

 美月は目の前の何も無い空間を触る。すると黒板の前に大型テレビくらいのスクリーンが現れた。こいつは現実には無い映像なのだろうが、本当にデカい画面が浮いているようだな。プロジェクターのような投影機とは違ってハッキリと黒い画面が映る。

「画面が暗いっすけど」

 ノエルの指摘通り、一分経っても何も映らなかった。美月は、

「おかしいです。待ってください」と慌てて後頭部をポンポン叩いている。昔の砂嵐状態のテレビじゃないんですから、手刀では解決しないでしょう。

「あ、点いたじゃない」

 若干飽きて頬杖をついていたミヨが言う。画面はまず白くなって、その次にある人物の姿を映し出した。痩せ型でメガネを掛けた男。こっちに気付いたらしい。

『お、見えたか?』

 そいつは俺たちに向かって呼び掛ける。服は襟の付いたラフなシャツ。手にはマグカップを持っていた。背景はのどかな海岸の街といった感じ。全く未来感が無い。

『ども、えっと初めましてかな。イベだ、よろしく』

 そいつは笑顔を見せた。胡散臭いな、というのが俺の所感。伊部と漢字を当てとこう。

「この人は、イベ・アキヒロくんです。あ、偽名ですが。すみません」

 美月が紹介すると、伊部はペコリと会釈した。俺たちも同じように反射する。

『ルナの紹介の通り、伊部ってことでよろしく。この実験のプロジェクトチーフだから存分に頼って欲しい。俺たちも君らのような協力者に頼ることになると思う。色々すまない。ルナとは昔からの知己で、あれだ、友達第一号』

「や、やめてください! もう、恥ずかしい」

 美月は顔を赤くして抗議していた。残りの三人だが、おわかりの通りポカンである。

「ルナってのは、美月のことか?」

 俺が尋ねると、美月も伊部も「あっ」と反応した。やがて伊部が笑って答える。

『そっちでは美月って呼んでるんだったか。こっちではルナって愛称なんだよ。俺はずっとルナって呼んでたから、ルナって呼ぶぜ』

 ふん、さりげなく仲の良さをアピールしやがって。隣に座る美月の恥じらうような態度が、逆になんだか傷付くな。俺の傷心とは裏腹に、ミヨは好奇心が高まってきたらしい。

「伊部くんだっけ? よろしく。私は蘭美代よ。あなた、大学サークルの副々会長くらい、後輩でも話しやすい気さくな人っぽいわね。出会えて光栄だわ」

 お前は大学のサークルの何たるかを知らないだろう。あと副々って何だ。

『ああ、みよりんか。ルナに負けるとも劣らない可愛らしいルックスじゃないか』

「あら、見る目があるのね」

 ミヨがなぜか俺に笑みを送って来る。お前はよくそんなお世辞で満足できるな。初対面のときはもっと相手をよく見た方がいい。伊部が付け加える。

「言動からして、もっとイタい子かと思ってた。黙っていたらきっとモテるぜ」

「ちょ、伊部くん!」と美月のお叱り。ミヨは怒りのあまり声も出ないといった雰囲気だった。あんな安っぽいヨイショを真に受けるからそうなる。

『で、そっちの素直そうな少年がノエルくんか』

「そうっす。綾部です。種々の未来事情を知りたいです」

『後でたくさん教えてあげよう。いい少年だ』

 伊部は笑顔で応答する。ノエルと美月はどこに行っても好印象を勝ち取るな。

『じゃ、そこの特にこれといった特徴も無い男がシュータか?』

 なんてヤローだ! そんなに俺は無味乾燥な容姿をしているのか。ざけんな。ミヨ、一緒にぶっ殺そう。初対面でそう思わせるなんて、絶対コイツ友達いねーぞ。

『アハハ、冗談だろ? ゴメンゴメン』と伊部がなだめてくる。

「いいえ、絶対に許さないわ。この時代ならね、そんな発言したら一発ハラキリよ!」

 そうだそうだ。もっと言ってやれ。俺たちを怒らせたのを美月も悟っているので、

「すみません、皆さん。こういう人なんです。仲良くなってくださいとは言えないので、どうか一触即発の事態は賢明にも避けていただくしかなく……」

 まあ、美月に免じて許す。正直気は進まないのだが、用事があるなら聞こう。

『用事ってのは特に無いんだけどな。ただ、俺たちのせいで超常的な事件に巻き込んじまってるのは詫びよう。君たちの能力も仕方ないものと諦めて欲しい。こっちの責任だ』

 謝られたとて、だな。美月も深刻そうな顔で頷く。

『ルナが元の時代に戻るまで待って欲しい』

 元の時代に戻る。そりゃいつかは帰るのだろう。

「先輩が帰っちゃうのって、いつなんすか?」とノエルが核心を突く。聞きたくないな。

『二年後、そこのみよりんやシュータが卒業するのと同じ年だ』

 二年、か。高校生を疑似体験しに来たにしては半端な期間だな。

『それまで、ルナと一緒に何とかその時間軸の維持に努めてもらいたい。俺もできる限りのバックアップはするからさ』

 ミヨは口をへの字に曲げながらも首を縦に振って承諾していた。ノエルは言わずもがな。

『おい、シュータ。聞いてるか? ルナのこと任せたぞ』

 伊部はそう言って笑った。何が任せただよ。元よりお前に任せるか否かの権利はねえ。って、美月を任せられたのはどうして俺だけなんだよ。家を貸してるミヨにも言え。

 そのあと、未来のことをノエルやミヨが矢継ぎ早に尋ねて時間を過ごした。俺は理解できない理論がたまに出る話に頭痛を催していた。そんなときは美月を見て自分を癒した。美月は目が合うと微笑んだり照れたりするから痛みなんか吹っ飛ぶね。学友との歓談。未来人との交信。何とも形容できないが、日常であって非日常であった。

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