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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
9/731

 一.黄金ある竹を見つくる(9)らいと

「この音、何でしょう?」

 竹本が驚く。耳を澄ませると、どうもスマホの着信音らしい。俺の電話が鳴っているんだ。俺は咄嗟にスマホを取り出す。充電1パーセント。こりゃ駄目だ。


「もしもし」

『アイか? 学校の近くにいるか?』

 相手は冨田だった。柄にもなく声が切迫している。重大事かもしれないが、


「すまん、切れちまう」

 俺のスマホは真っ暗になった。充電切れだ。


「チャラ田さん、ですか?」竹本が小首をかしげる。

「そう。なんか学校であったらしいな」

「向かいますか?」

 まあ、どうせ駅までの通り道だし行ってみるか。これでくだらないジョークだったら絶交してやる。いや待てよ。その前に、


「竹本さん。スマホ貸して。冨田に連絡取ってみる」

 竹本はスマホを上納するかのように両手で差し出した。使い方がぎこちないな。


「メッセージのアプリだけ開くよ。あ、連絡先がある」

 冨田の連絡先がすでに入っていた。竹本と交換したなんて羨ましい。俺はそこをタップして通話を繋げる。竹本は興味深そうにそれを見守っていた。


『もしもし? どなた』

「竹本さんのスマホだ。かけているのは俺。相田」

 電話口の相手は当然のこととして怒った。


『なぜアイが竹本ちゃんと一緒にいる?』

「学校の近辺を案内していてだな。たまたま。それより用事があったんじゃないのか」

『ああ、あったよ。さっき岡ちゃんが校門前で車にはねられた……』


 え? あのお団子でチビの福岡か? 本当なんだろうな。


『俺が第一発見者で、助けを呼ぼうと思ったんだが、通りがかりの陸上部員たちに助けられたからもういいんだ。救急車ももう来るだろう』


「わ、わかった。とにかくそっち向かう。何もできないだろうけど」

 俺は通話を切った。スピーカーにしていたので、竹本にも聞こえたはずだ。


「車にはねられたって、おっしゃっていました」

「うん。交通事故だ」

 竹本は青ざめた。腐れ縁の福岡が被害者と聞いて、俺も少し動揺している。

「とにかく学校に行ってみよう」

「え、ええ」


 俺と竹本は急いで石段を下りた。桜並木はなぜか薄ぼんやりとライトアップされている。何だこのちゃちな装飾は。地元のどっかの団体が客寄せに一肌脱いだのだろうが、これくらいしょぼい飾りなら無い方がマシだ。

「相田さん、ただただ口が悪いです」

 竹本に注意される。――確かに。


 すると、俺は目の前に知り合いを発見。スポーツバッグをかけたジャージ姿の女子集団。そこに片瀬がいる。水泳部が放課後に桜でも見に来ているらしい。そして俺は竹本と二人で横並び。見つかりたくねえ。

「どど、どうして隠れるのです?」

 俺は竹本を桜の陰に押し込んだ。絶対に片瀬には「面食いだ」と騒がれる。あいつらが通り過ぎるまでやり過ごそう。


「よくわかりませんが、急いだ方が良いのでは?」

「いや、まあそうなんだが」


 片瀬たちが行ってしまうと、俺は竹本を連れて学校まで向かった。気持ち早歩きだ。正門前には実況見分中のパトカーが赤色灯を光らせている。物々しい雰囲気。学校の前の坂には軽乗用車が歩道にはみ出すように停まっている。あれが事故を起こして福岡を轢いたのか。俺は校門付近の野次馬から、冨田の姿を捜した。


「おーい、アイ! 竹本ちゃん!」

 声を掛けられる。丸眼鏡の冨田がいた。


「冨田、福岡は平気なんだろうな」

「意識はあったよ。普通に話せてた。脚を巻き込まれて痛がっていたから、多少は怪我しているはずだけどな。今は救急搬送されてここにはいない。保健の先生をすぐ呼んでもらったから、応急処置もできている。ひとまず安心だ」

 そう言う冨田の表情は晴れない。お前もショックか。


 竹本の方を見ると、だいぶ動転しているらしい。事故現場に出くわすのは初めてなのかもしれない。

「大丈夫? 竹本さん」

「あの、脚を怪我されたということですけど、明日には学校へ来られるようなものなのでしょうか」

 竹本が俺たちに尋ねた。冨田は首を横に振る。


「いいや、明日は安静にするんじゃないか。万一骨折しているとも限らないし」

「やはり、それだけ重大な事故なのですね」

 竹本は胸の前でギュッと手を握っている。どうしたのだろう?


「そういやアイ。まだ追及しきれていなかったが、こんな大変なときに呑気にデートか」

「ちげーよ」

 本当に違う。変な話を聞かされただけ。冨田は信用しない。


「スマホが通じないのはなぜだ。なぜ竹本ちゃんのを借りる?」

 うぜえ。質問攻めするなよ。俺は冨田を引っぺがして言う。


「スマホは充電切れ。しょうがないだろ。それに竹本さんのスマホにはお前の連絡先が入っていたんだから、ちょうど良かったの!」

 冨田はポカンとした。


「充電切れはお前らしくて結構。だけど、竹本ちゃんって俺の連絡先知ってるっけ?」

 帰りに交換していただろ。だって竹本のスマホにはちゃんとあったぜ。


「俺は知らない番号から掛かってきたと思ったがな。いつの間に交換したのやら。これも『チャラ田』の為せる業か」

 何言ってんだコイツ。交換したのを忘れていただけだろ。


「でもやっぱり登録ないんだよなー。改めて交換してもいい? 竹本ちゃん」

「え? 何でしょう」

 竹本は別のことを考えていたようで、すぐ訊き返した。それから見たくもない連絡先交換シーンが再現され、俺は日が暮れた空を見て溜息を吐く。福岡が大変な目に遭っているのに何もできない。本当に俺って無力だよな。


「相田さん」


 ――近い。竹本が眼前に詰め寄って来た。冨田は警察に呼ばれ、事情を話している。


「話し忘れていたことがあります。私は未来の技術で、時間を『遡る』ことができるのです。何度か経験していらっしゃると思うのですが」


 ――また未来人設定? 今はそういう気分じゃないんだけど。


「論より証拠。百聞は一見に如かずですね。時間を『遡る』とは、世界のリセット機能です。これを使えば、福岡さんの事故を防げるかもしれません」

 世界のリセット。もし本当なら可能なのかもしれないな。


「では、十五分前に『遡り』ます」


 十五分前? 今は五時三十五分だ。竹本が目を瞑る。次に俺を襲ったのは、昼や帰りのときと同じ感覚だった。――瞬き程度の暗闇が訪れる。

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