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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇
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二.深き心ざしを知らでは(8)

「パソコン室って特別棟五階よね?」

 俺はミヨと手を繋いで走っていた。ミヨが無言で俺の手を握ったのだった。たぶん怖いんだろう。こいつでもさ。(元?)学年一の美人と手を繋いでも、ちっとも嬉しい気持ちが起こらないのはやはり緊迫感を肌に感じているからだ。校舎の所々には黒い穴が開いているようで、迂闊に踏み間違えられない。にしても趣味の悪い配色。

「パソコン室だろ? 校舎のスミもスミ。本棟から一番遠いとこだぜ」

 昨日行ったからな。よく記憶している。冨田と坂元って女子がいた。……んん? 坂元ってこいつの友達なんだっけ? 世間は狭いな。

「一旦、私たちのいる本棟を出て、一階の渡り廊下を伝って特別棟に行く。いいわね?」

 オーケーオーケー。手を繋いでいるというより、引っ張られているのか。


「もう、一体全体何なのよ!」

 五分後のミヨの嘆き声である。俺も盛大に溜息を吐く。状況を説明しておこう。俺たちは本棟を出ることに失敗し続けている。もうちょい説明すると、何度特別棟のドアを開けてもそこは本棟の昇降口に通じていたのだ。本来の昇降口から外に出ると、普通に外に通じているのに。窓から特別棟へ侵入を図ってみたが、それも駄目。昇降口の窓にワープする始末。

「つまりさ、情報が改ざんされて特別棟に入る術が無くなったってことか?」

 俺の質問にガックリとしたミヨは「そうかもね」とうなだれる。

「美月だって何十分ももたないでしょ。何とか打開策見つけないと」

 ミヨはかなり渋い顔だ。確かにこのままじゃ、いたずらに時間を浪費するだけ。

「もう一回行ってみるか」

 ミヨはもう手を握ってくれなかった。昇降口から歩いて、特別棟に続く渡り廊下に向かう。渡り廊下は屋根がある以外ほとんど屋外だ。学校の敷地外の様子が窺えるが、動きが全く感じられない。恐らく敷地外は時間が流れていないか、ここの空間と完全に隔絶されたのだろう。もう超自然能力なんて認めざるを得ないぜ。

「ねえ、シュータ。このまま帰れなかったらどうしよ」

「いつかは黒いやつに食われるんじゃないか? で、分解されるんだっけ?」

「そうね。私たちも無いものに改ざんされる。他の人間が見当たらないでしょ? たぶんもう餌食になったのね。ここにいるのは犯人とシュータ……シュータ!」

 ミヨが大声出すから何かと思って振り返ると、そこには転んだミヨがいた。気を付けろよと手を差し伸べたとき、気が付いた。ミヨの両膝から下が無い。幽霊のように消えかかっている。そして床を侵食している黒い影が揺れ動いて勢力を拡大せんとしていた。

「いつのまにか脚やられた——ってちょおっと、バカ!」

 ちょっとバカでもいい。すごいバカじゃなけりゃな。俺はミヨを抱きかかえてその場から走って逃げた。やばい。気付かなかった。本棟がいつの間にか真っ黒じゃねーかよ。美月の身を案じる。だが、それと同じくらい自分らの身を守らねーと。

「もう、どうせならお姫様抱っこしなさいよ。これはお神輿の担ぎ方よ!」

 お神輿だろうが材木だろうが運べれば構わないだろう。一刻も早く被害の少ない特別棟に逃げなくては。でも、入れないんじゃあな。一巻の終わりってやつか? 一応まだ浸食の少ない校庭に避難する手もあるがジリ貧だろう。何とか特別棟、いやパソコン室にたどり着きたいのだが。……というかミヨは軽いな。

「ねえ、ホントに。おんぶでいいから!」

 なぜこいつはこんな非常時に運搬方法にこだわるんだ。仕方なくおんぶをするため、特別棟入り口で一度ミヨを下ろす。渡り廊下の向こう半分はもう真っ黒だ。

「もう、レディの取り扱いは慎重にしなさい。あんた美月に同じことできるの?」

 できないかもしれん。触るのも慎重になってしまう繊細なガラス細工のようなお方だからな。実際壊れやすそう。いや、柔らかくて意外と弾力が——何考えてんだ、俺。

「その顔ムカつくわね。変な想像したでしょ」

 ミヨは俺の背中に覆い被さると、後ろから頬をつねってきた。俺が立ち上がろうとしたときだ。俺の視界に影がかかった。正面にいつからか人が突っ立っている。敵か?

「どうも。仲睦まじいご様子で。ところで、これは一体どうなっているんですかね」

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