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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇
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二.深き心ざしを知らでは(6)

「どうよ! 私の雄姿は? 完璧だったでしょ」

 満足げなミヨを出迎えたわけだが、そのミヨに率いられて俺は目的地を知らずに歩き出している。美月は尊敬に近い眼差しをミヨに向けていた。

「みよりんさんのスピーチは全出場者の中で一番でしたよ」

 そうかな? そうだったかもな。もし紙飛行機を飛ばすという変態性を遺憾なく発揮することが無かったのなら。ところで、どこに向かってるかそろそろ教えてもらいたいね。

「決まってんじゃん。生徒会室よ」

 よっぽど面倒事を抱え込んでいるヤツじゃない限り、生徒会室なんて行かないだろう。そして悪い予感ってものは別に未来が見えなくても当たるわけだな。

「頼もーう! 今日は味方を二人も連れて来たんだから、甘く見ないことね!」

 生徒会室の木製ドアを蹴破らんばかりに突入したミヨを、美月は呆然と眺めていた。ミヨはいかにも臨戦態勢といった目付きで生徒会室をしげしげ見回している。そして俺の確認する範囲において、室内で呆気に取られていたのは男子生徒一人だった。

「あら、石島いしじまくんじゃないの」

 ミヨは警戒レベルを最小値に引き下げると、その男子生徒のいる会議机の前に行った。俺と美月はワケがわからないがとりあえずミヨの背中に付いて行く。

「どうしたの、実代さん。いきなり決闘を申し込んでくるなんて」

 その男子、石島は苦笑している。近くで見ているとやけにイケメンだとわかる。笑うと、くしゃりとつぶれる目やキリッとした眉は男前だ。体格も細身ではあるが、ガリガリではなく筋肉質の引き締まった身体をしている。生徒会に似合わんな。

「違うのよ、石島くん。私のこと生徒会が呼び出したでしょ? ああ、これSF研お取り潰しの催促だわと思って全面戦争のつもりで仲間を引っ張ってきたわけ」

 仲間? 美月と「さあ何のことでしょうね」とアイコンタクトを取る。

「でも、石島くん相手なら話は別よ。あなたは話がわかる人だし、何より殴り合いじゃ、あんたに勝てる人はいないもん」

 ミヨは最後の方を冗談っぽく言う。石島は苦笑して手を顔の前で振った。

「僕は女性に対して拳は振るわないよ、絶対ね」

 いまいち状況がわからんな。ミヨが生徒会に呼び出されていて、行ってみたら知り合いの役員がいたってことかな。そこはすかさずミヨが教えてくれる。

「こっちはね、私と去年から同じクラスの石島康作いしじま こうさくくん。生徒会役員だけど、それは表の顔なの。裏の顔はボクサーでめっちゃ強いらしいわ」

 スパイじゃないんだから裏とは言わないだろう。その体はボクシングの賜物か。

「あはは。おおよそ実代さんの紹介通りかな。父が元プロボクサーで、僕はプロを目指して無いけどずっとボクシングはやってる。平日は生徒会の書記なんだ。よろしく」

 そいつは俺にスッと手を差し伸べる。確かにいい手をしてやがる。俺は素直に握手。

「俺は——」

「そいつは相田シュータローね。シュータって言うの」

 石島はコクリと会釈して笑顔を見せる。次に美月にも握手を求めた。美月も握手をする。美月の微妙な緊張と恥じらいを見て取って、シンプルなジェラシーを感じた。

「そっちは美月。竹本美月よ」

「ええ。転校生の竹本美月です」

 美月の天使スマイルに、石島も俺のときの一・五倍の笑顔で返す。

「ウワサに聞いていた通り、ホントに美人さんだね。物語に出てくるお姫様みたいだ」

 美月はやはりこういう発言に対して明らかに動揺していた。お世辞なのか惚れちまったのか知らんが、「初めまして」の代わりに「美人」だの「お姫様」だの言う輩は信用ならん。きっと将来凶悪犯罪を——起こすことがあることもあるのだろう、たぶんな。

「絵になるわねー、二人が手を繋いでる様子は」

 ミヨのこの耳打ちには同意しかねる。まあ、確かに地獄絵図ってものがこの世にはあるらしいし。んで、ミヨには用事があったんだろう? 生徒会さんよ。

「そうそう、結局私を呼び出したのはなんで?」

 それを聞くと、石島は机に折り重なる膨大なプリントの中からクリップで束ねられた一束をミヨに手渡す。ミヨは裏返したりめくったりしていた。

「それは部長全員に渡してるものでさ。活動方針とか部員名簿とかを書いて提出してもらう、まあ毎年恒例の事務手続きなんだ。一応大事な書類だから手渡しなんだけど、期日……四月いっぱいまでにここに提出して欲しい」

 ミヨはうんうんと了承していた。机に似たような紙がたくさんあることから考えて、この石島というやつは、生徒会の面倒な事務作業を一手に引き受けているらしい。他のメンバーは恐らく一年生歓迎会の裏方オア進行係だろう。

「オッケー。これを全部書けばいいのね。提出はシュータとかに押し付けるわよ?」

 押し付けるという自覚はありそうなのか。早いうちに処置した方がいいぞ。

「はは。誰でも構わないよ。俺か相園さんっていう二年の女子役員に渡して欲しい」

「あ、相園に、俺が?」

「どうしたのよ」とミヨは俺の狼狽を悟った。

「何でもない。が、俺は引き受けないからな。どうして部外者にそんな責任を——」

「部外者とは何よ! 二人ともSF研に入るんでしょ!」

 絶句したね。スピーチ内で言っていた確保済みの「二名の部員」とはやはり俺たちだったらしい。つまり、だ。こいつは本当にまだ二人しか候補生を集めておらず、マジもんのピンチだ。俺たちを勘定に入れてもなお。そして福岡を見捨てられなかったような美月の観音さまにも劣らない慈悲と、お互い秘密を握り合って銃口を向け合う状態のせいで、俺は断るのに多大な苦労を要した。結果、後でゆっくり話したまえ的な石島の仲裁を受けて講和条約を結び、生徒会室を出た。夕暮れオレンジの光が窓全面から差していた。

「んでさ、次こそ帰っていいのか?」

 俺の残りHPからしてほぼ活動限界だった。ミヨは腕組みをして思案して、

「そうね。今日は終わり、解散。でもその前に連絡先の交換ね。スマホ出して」

 俺はスマホをリュックから取り出す。電源ボタンを押すが……。

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