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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇
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二.深き心ざしを知らでは(5)

 というワケで、体育館二階に俺たちはいる。体育館一階では一年生がすし詰め状態で整列し、ステージ上でパフォーマンスをする上級生をぼんやり観ていた。新入生歓迎会の目玉、部活動紹介である。もっとも去年の俺がこの催しをどう観賞していたかなんてほぼ記憶に無いので、大真面目に聞いている一年がいかほどいるのやらといった感じだ。だが、隣の美月は、さも興味深そうに見入っていた。ステージではこの平和な日本で弓をつがえた連中が四人ほど集まっている。

「弓道ですって。憧れちゃいますね」

 全然憧れない。美月が入部するなら入ってもいい。俺は壁に背を預け、美月は手すりに寄り掛かる。これが一年間この学校に通ったか通っていないかの違いだ。

「みよりんさんは、いつ出てきますかねー」

 順番は適当らしいな。そろそろ出番も来るんじゃないか? そんなに部活の数は無かったはずだ。予想は的中し、ミヨはステージ中央に一人で出て来た。左手にはマイクを持ち、右手は背中に隠している。

「皆さんこんにちは。ご紹介預かりましたSF研の部長、二年の蘭実代です。この度はご入学おめでとうございます。高校生活にはあなたの人生を左右するような出来事、出会いが必ず待っています。自分の人生を少しでも楽しいものにできるよう、今のうちから皆さんには自分から動く、自分で新しい環境に飛び込むという経験をしてもらいたいです。これは一年先輩である私からのちょっとしたアドバイスです。善には駆け込め、です」

 案外常識的な話し方をする。最後がちょっとよくわからんが。

「本題に入りましょう。SFというものを皆さんはご存じでしょうか。ウェルズとか星新一とか知っていますよね。科学をモチーフとして、現実にはあり得そうであり得ない宇宙人とか透明人間とかを描くジャンルです。私たちはSFについて読んだり論じ合ったり書いたりしながら、比較的自由な活動をしています。現在部員は一名です」

 何だと?

「部員が昨年度で私一人になってしまいました。そこで、一年生の皆さんにお願いがあります。私は学校創始から続く伝統あるSF研のバトンを絶やさぬがために才気ある後継の登場を切望します。少しでもSFというジャンルに興味があれば、ぜひ入部して欲しいのです。ただSFを愛する、その志さえ忘れぬ熱意ある者であれば大いに歓迎するでしょう。そして私は安心して学校を卒業できます。入部は年中無休で受け付けるのでありますが、部員が五名集まらないようであると大変無念なことに七月で研究会の廃止が確定します。今のところ、私の地道な勧誘活動により二年生で二名の部員を確保できています」

 誰だその二年生二名は。

「あと少なくとも二人、どうか私たちに力添えいただきたい。必ずや皆さんの青春に彩りと活力を与える部活であると私は信じてやみません。時間ぴったりですね。ではこれでSF研の紹介を終わりといたします。ご清聴ありがとうございました。部室で待ってるよ!」

 ミヨが礼をする。美月を含め、観客は拍手で応答した。

「素晴らしいですね、みよりんさん」

 そうか? 俺には市議会議員選挙得票数第三位の街頭スピーチにしか聞こえなんだが。

「ありがとうございました。では次の部——」

「あっ、待って深雪みゆきちゃん!」

 ステージ脇にはけようとしたミヨがマイクを使って叫んだ。何かに気付いて司会に待ったをかけたらしい。司会はショートボブヘアの女子生徒で、恐らく生徒会役員が務めているはずだが——あれは相園あいぞのだ。遠目から見ただけだから確証は無いがね。

「一個忘れてた! 一分でいいから時間ちょうだい」

 ミヨの懇願に対し、一瞬考えるように視線を時計に向けた相園だったが、「いいですよ」と言った。ミヨは再度ステージの中央に立つと大声で、

「皆さん、ここで一人でも部員を獲得して帰りたいので今からスカウトします!」

 何言い出すんだこいつ、と体育館に集う約五百名は疑問符を浮かべたことであろう。

「私は皆さんに向けてこの紙飛行機を飛ばします。これは私が試行錯誤を重ねた傑作です。超飛びます。で、これを運よくゲットした人は入部決定です! 明日入部届を持って行くのでサインしてもらいます。えい!」

 ちょっと待てコラと全員が思ったときには紙飛行機はミヨの手によって放たれていた。俺の折ったものとは比較にならないほど高く舞い上がった機体はゆっくり旋回しながら上空を飛び続ける。紙飛行機名人の域だ。二階にいる俺は目線の高さで飛ぶそいつにえらく感激したもんだ。美月も呆然と見守っている。やがて旋回の半径は小さくなり、高度が落ちていく。そしてほぼ真ん中付近に座っていた一人の男子生徒の元に届けられたようだ。

「ナイスキャッチ! 君、名前は?」

 ミヨがマイクパフォーマンスのようにマイクを向ける。もちろんマイクが中央の生徒の声を拾うことは無い。俺からすると背中しか見えないそいつは地声を張って答える。

綾部拓海あやべ たくみっす!」

「いい声してるじゃない! 明日迎えに行くわ。シー・ユー・アゲイン」

 ミヨはそう言うと舞台上から去って行く。あの男子は今頃迷惑しているだろうよ。

「では、次の部に移ります。パソコン部さん、お願いします」と相園。

「あ、パソコン部です。えっと、部長が欠席で、一人ですが——」

 ミヨの出番も終わったし、俺たちはその会場を後にした。

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