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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇
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二.深き心ざしを知らでは(4)

 俺も美月も一瞬頭の中でその意味を再考した。未来予知?

「ええと、みよりんさんは未来を予言できると」

「あのさ、それって何となく予想が当たるとかじゃないよな」

 ミヨは笑顔で答える。

「私の場合、目を瞑るの。そうしたときにふと浮かび上がる映像がある。それが将来に必ず起こる。どれくらい先の未来かはまちまちだけど、そのときの自分も含めて傍観できるから大体の年度と場所は推定できる。高校の制服着てたら高校の中の出来事だろうな、とかね。一度見た未来は、現実の方で体験するまで目を瞑っている間はいつも再生できるの」

 まだ、にわかに信じられないのは俺だけか?

「私も小さい頃はちょっと特別なだけだと思ってた。皆も少しは未来が見えていて、私はその未来がよりはっきり、たくさん見られるだけだって。でも違う。皆一ミリも未来なんて見えないんだ。それがわかったとき、何か受け入れがたいものがあったわ」

 やはり超能力? そうなら、結構マズいんじゃないのか? 美月は未来人だが、体は一般的な人間だ。超能力なんか持ってない。これは俺に続いて超能力者第二号だぞ。

「どういうことでしょうか。もしみよりんさんの言葉を信じるなら、私がこの時代に来たことで、みよりんさんに異変を来したことになりますよね。世界の秩序の平衡を上手く保てていない。既に二人に異常が確認されているということは、まだ他にも?」

 実際そうかもな。コンスタントに的確な未来予知なんて常人の業ではない。なるほど、こういうやつが美月の周りにたくさんいる可能性があるのか。一つ質問。

「ミヨが未来を見られるのはわかった。だから、ミヨは俺と美月が時間を『遡って』いると気付いたのか? 俺たちと会う未来を知ってたから」

 ミヨは首を振る。

「違う。二人と会う未来は見えなかった。また今日も時間が『遡って』いるなーと思ってたの。それで紙飛行機が飛んできた方を見たら美月とシュータがイチャついていた。毎回違った行動してたでしょ? 周りの人は同じ動きだから目立ってて、この人たちは何かしらの事情を知っているなとわかったわけ」

「そんな、シュータさんと私はイチャついていません! 断じて!」

 ようやくパンを食べきった美月は健気に抗議している。

「……ミヨは俺たちと話す未来は見えてなかった?」

 ミヨはコクリと頷いて、

「あのね、時間に干渉する者がいると、見えていた未来が変わっちゃうらしいんだ。昨日時間が『遡った』とき、私に見えていた未来が瞬きごとに変わってしまった。わかる? あなたたちが干渉すると私の見える未来は変わる。そして私自身もちょっとなら変更できるんだ。私も時間的には部外者側、変更を加える側になるらしいの」

 美月との昨日の話を思い出すなら時代「改変」側か。

「ですが、ちょっと待ってください。『未来が見える』イコール『時間の遡りを感知できる』ではありません。なぜ、みよりんさんは気付けたのでしょう?」

 美月が的確に指摘する。言われてみればその通り。ミヨは顎に手を置く。

「うーん、そうよね。思うに、私は時間の『傍観者』だからかな。さっきの美月の理論を信じるなら『時間軸』ってのがあるわね。私は『時間軸』の中で生きてるけど、未来を予知する感覚は『時間軸』の外にいる。つまり一部の意識は時間軸で起こる『遡り』の影響を受けない別の場所にいる。だから『改変』に巻き込まれずにいられるんじゃないかな」

 最後の方は自信無さげだったが、美月はうんうんと聞いている。

「一度検討しても良さそうな考えですね。興味深いです」

 そうなんだ。俺はあんまり理解できなかったが。

「あらら、初めて他人に話すからずいぶん話に熱が入っちゃったけど、もうそろそろ部活紹介の時間ね。体育館行かないと」

 ミヨは時計を見上げる。そういやミヨは部活紹介のために紙飛行機を飛ばしていたのか。

「あの、みよりんさんは何部なのです?」

 竹本が尋ねる。そういや俺も訊いてなかった。

「ん? 言ってなかったっけ? ここが部室なんだけど」

 だから生物室を昼飯会場に使っているのか。イシガメやら化石やらと同じ空間で食事したのは初めてだ。と言うことは、ここは生物部?

「私はSF研部長なの」

 俺も美月も立ち上がったミヨを見上げる。

「SFって、サイエンス・フィクションの略称ですか?」

「当たり前じゃん。サイエンス・フィクション研究部よ」

「へえ。ずいぶんマイナーな部活だな」

 俺の素直な感想を聞いて、ミヨは複雑そうな表情をした。そのままホワイトボードを元の位置に戻しに行く。

「元々はもっちー、えっと倉持有栖くらもち ありすっていう友達の誘いで入ったの。私自身は本物の科学にしか興味無かったんだけど」

「お友達も部員なのですか?」

「いや、その子はもういない」

 ミヨにも色々あったらしい。俺も席を立つ。

「ミヨ、お前に用事があるなら俺たちは帰っていいよな?」

 そう言うとミヨは即座にこちらへ飛んで来る。

「ダーメ。二人とも私の雄姿を見届けてもらわないと、死んでも死にきれないわ!」

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