一.黄金ある竹を見つくる(14)
「間に合わないかと思いました」
俺たちは神社にいた。またリセット。
「福岡は助けられなかった。あれでも」
俺としてはもう限界も限界なんだが。竹本も心持ち心労の跡が見える。
「諦めるしかないのでしょうか」
そんな気がする。足元の石ころを蹴っ飛ばして、
「竹本さん、一個だけズルかもしれないけど一か八か上手くいくかもしれない案がある。それでも駄目なら諦めるから、試してもいい?」
これは奥の手である。何なら初めの頃から思い付いてはいたのだが、あまりに馬鹿らしくて実行する気にならなかったやつ。奥の手はギリギリまで隠しておくものだし。
「でも『福岡さんが事故に遭う』。これは認めがたいですが『主軸』ですよ」
そうかもしれない。いいや。むしろそうなら、なおのこと試したいんだ。
「で、どういったものです? その案は」
俺は竹本に教える。
「ええ! そんな馬鹿なことがありますか」
さっきと比べてだいぶ早めに学校に着く。行き先はパソコン室。坂元とかいう女子と一緒にいる冨田の所だ。そもそもどこにそんな教室があるのか知らなかったが、竹本に案内されて特別棟五階にたどり着いた。重厚な扉を開いて初入場。そう言えば、ここはパソコン部の部室なんだな。あんまり部活中とかは配慮しないで来てしまった。コンピューターには向き合わず、くるくる回る椅子を集めて輪になって話している五、六人の部員に唖然とした表情で見られた。しまった。言い訳を用意してない。と思ったら、
「あれ、アイと竹本ちゃん?」
奥の席で女子と二人で座っていた冨田に話し掛けられた。あの眼鏡でエリンギみたいに細身の子が坂元かな。俺は竹本をRPGゲームのように引き連れて冨田の前に。
「何でここがわかった⁉」
違う時間のお前から聞いたからだ。
「竹本さんを学校案内してたから、パソコン室を見せてあげようとしただけ」
「ここは教師の目が届かない魔窟と知ってのことね」
そう言ったのは、坂元と思しき女子。目の前にある、ファストフード店の紙容器に入ったフライドポテトをつまみながら言った。
「ああ、この子は坂元ちゃんね。俺の放課後のゴシップ同盟相手」
何だそれは。いや、聞かない。疲れているからだ。大方、放課後にこうして菓子を食べてバカ話する仲ってことだろう。
「よろしく相田くん」
名前を知ってる? 知り合いではないはずなのに。
「有名人じゃないの? 相田くんって。チャラ田の話ばっかり聞いてるからか。でもさ、あれは相田くんの仕業なんでしょ」
そう言ってケラケラ笑う。何の話をしてやがる。底抜けに明るい人なのだなという第一印象。でも今はあなたに用はありません。
「わかんないけど、よろしく。ところで冨田、急用なんだが」
俺は単刀直入に切り出す。こういうときはストレートに頼んだ方が上手くいく。
「自転車貸してくれ」
冨田は苦虫を噛み潰した顔に。
「なぜ? 俺もそろそろ帰るぞ」
「えー、帰っちゃうの?」と坂元。
「ああ。なにせチャリを三十分も漕がないと家に着かない。坂元ちゃんも帰りなよ」
「そろそろ部活終了時刻だしね。あーあ、嫌だなあ。みよりん誘ってカラオケ行こ」
こいつら、いとも簡単に話を脱線させやがる。
「あのさ、ちょっとでいい。すぐに返すから。すぐに必要なんだ」
竹本まで頭を下げた。それを見て坂元が心当たりがあるみたいな表情に変わった。
「わかった! 桜を見に行くんでしょう?」
もう見て来たが。まあ理由は何でもいっか。
「そうそれだ。それで必要だ」
「そこの、めちゃ可愛い竹本ちゃんを誘ってデートかな? あはは、噂に違わぬ」
冨田は坂元に何を吹き込んだのか。
「デートなら貸さないぞ」
冨田の口がへの字に曲がる。あのな、一緒にいるとわかる。この人とデートなんかできねーよ。まともに視線が合っただけでも心臓を吹き出しそうになる。
「……本当に違うのか? なら急いだらいい。ライトアップが六時半頃から始まるらしいぜ。まあ、七時までには返せ。あれが無いと家に帰れないんだ」
「本当に悪い。なるべく早くする」
俺は冨田から自転車の鍵を受け取った。
「二人乗りはすんなよ。捕まったら明日から笑い者だ」
「しないよ。もう懲り懲りだ」
「あっ、その前に。連絡先のことも一応済ませて保険掛けましょう」と竹本。
何度目だ? あの見たくもない光景。




