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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇
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一.黄金ある竹を見つくる(12)

「考え方を変えよう。福岡の事故は『主軸』じゃないことを前提にしないと」

「ですが、福岡さんがどうしても轢かれてしまうのに何か別の説明はつきますか?」

「つくかもしれない。やるだけやらなきゃ」

「でも相田さんには責任は無いですし。ここは割り切って、福岡さんに防具を着けてもらうくらいでいいのではないですか」

 いいかもしれない。言葉の上ではそうでもいいと言える。でも、そうやって行動できなかった。俺は無能だけど、勝手に諦める方が勇気が要る。自己満足でもやるだけやらなきゃ、福岡には申し訳ない気がするんだ。

「あいつは一応友達だから。本当に最後は身を挺してでも止めないと気が済まない」

 竹本は何も言わず、俺を見た。少し恥ずかしいことを言ったかな。

「出来事を一つずつ思い出そう。秩序や因果に関係することがあったかもしれない。それを洗い出そう。まず『福岡が事故に遭う』。その前に福岡は急いでいた。あれはなぜだ? でもそれはたぶん俺たちと関係は無いし、秩序とは違うと思う」

 竹本は真面目に俺の話を聞いてくれる。

「次に、俺たちが『学校に行く』……これか?」

「はい、何か大発見でしたか?」

「いやだってさ、俺たちは確実に学校に行くことになってないか? 福岡の事故を知らないときは冨田からの電話で、知った後は自ら学校に出向いている。つまりさ、俺たちは何がどうであれ『学校に行く』ことになってる」

「私たちが『学校に行く』ことが『主軸』だと言いたいのですか? 福岡さんの事故はそのきっかけに過ぎないと」

 まあそうかな。俺たちの行動に関わっているし、世界の秩序に何らかの影響を与えているかもと考えたのだが。

「ですが、私たちが既に到着して福岡さんを出迎えたのに、事故は起きましたよ」

 え? だってそれは福岡が事故に遭うって知っていたから、俺たちは学校に行ったんじゃないか。いや、学校に着いてしまっていたら『主軸』は達成されるから事故の必要性は無くなるのか──頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。つまりは違うってことだろ。

「その次には救急車やパトカーが来たが、それはほぼ無関係だと思う。後は──」

 あ、思い出した。一番変なことが起きていたじゃないか。

「冨田が変だった」

「確かに変わった方ですが——」

「変なことを話していた。竹本さんと何度も連絡先を交換していたのを覚えてる」

「そんなこともありましたね。チャラ田さんのスマホには私の連絡先が載っていませんでした。私の方にはあるのに」

 そうだ。竹本と冨田は放課後すぐに連絡先を交換したはずなのに──いやいや、よく考えたら違うってわかる。竹本と冨田は交換してないことになっているんだ。

「竹本さん、違うよ。あの時点じゃ竹本さんと冨田は互いの連絡先を知らないことになってるはずだ。放課後、俺が妨害したから二人は何もせずに終わった。交換したのは『改変』、つまりリセット前だ。それなのに竹本さんのスマホに冨田の連絡先が入っていたからおかしかったんだ」

「ああ。な、なるほどです。確かに」

「でも、どうして竹本さんのスマホに冨田の番号が?」

 竹本は笑う。久々に笑顔が戻った。

「忘れてしまいましたか? 説明したと思いますが、身に着けているメモやスマホの中身は状況に応じて保持されるのです。私のスマホは『改変』後も冨田さんの連絡先が残ったままになってしまったので、チャラ田さんと交換済みだと思ってしまったのです」

 勘違いが生じていた。俺たちは冨田と竹本が既に交換したと思い込んでしまったんだ。

「と、いうことは、どういうことだ?」

 だから何だっていう話だっけ。俺は思考を整理していく。冨田と竹本が連絡先を交換する。それと福岡の事故の関連は? ——一つだけ思うところがある。竹本は、顎に手を当てじっと考える俺を見つめていた。あなたも考えたらどうです?

「『主軸』は『冨田と竹本さんが連絡先を交換すること』じゃない? 思うに福岡の事故はそのきっかけ」

「それは私もわかります。福岡さんが事故に遭うことで、私たちが学校に行って、事故を聞きつけた冨田さんと会い、相田さんの充電切れの話から連絡先の交換という流れですね」

 そうだ。でもそれだけじゃない。

「冨田と竹本さんの連絡先の交換なんて、それだけのことが『主軸』になりそうにもない。だからもっと条件を絞って『冨田と竹本さんが今日中に連絡先を交換すること』」

 竹本はブルーの瞳で続きを促す。

「福岡が事故に遭いでもしなけりゃ、今日中に交換はできなかったでしょ? 竹本さんは俺と学校を出てしまったら、普通ならそのまま帰る。今日は冨田と会うことは無くなる。じゃあ今日中に冨田と連絡先を交換する流れに持ち込むには? 冨田が事故を目撃して、俺たちを学校に戻す流れになればいい。もし『今日中に』って制限が無ければ明日でも充分可能だから何も事故まで起こる必要は無い。……あれ、何で明日じゃ駄目なんだ?」

 せっかくいいペースで来てたのに行き詰まってしまった。

「そうですね。こういうのはどうですか? 私のスマホの中には冨田さんと直接連絡先を交換した履歴があるでしょう? でもチャラ田の方には無い。これはちょっとした世界の矛盾です。ですからなるべく早くその矛盾を是正しなくてはならなかった、とか」

 わからなくもない。だけど、それだけで事故なんて大層なこと起きるのか? なるべく正しい推論をここで出さないと、次も二の舞を踏むことになるぞ。


 目の前の竹林がざわざわと揺れているのに耳を澄ます。ちゃんと考えれば答えはあるはずなのに、慌てすぎだよな。五分考えた。俺は今まであったことは細部まで観察して覚えている。だから一生わからないってことは無い。ずっと無言だったけど、

「何か思い付きました?」と竹本が尋ねる。

「これかも、っていうのが閃いた。『俺と竹本さんが直接連絡先を交換しないこと』」

 竹本はポカンとした後、顔をしかめた。相変わらずどんな表情も美人だな。

「途中の説明を入れてくださいよ」

「うん。何が結果として起きるかをずっと頭で追ってみたんだ。まず、最初はいいよね、


・初めは、事故が起きて、今日中に竹本さんと冨田が連絡先を交換する。

・次に、冨田が俺に竹本さんの連絡先を送る。

・最後に、俺は竹本さんと間接的に連絡先を交換する。


 俺と竹本さんは結果として直接連絡先は交換できない。ここで重要なのは、今日中に冨田と竹本さんの交換がなされること。今日はたまたま充電が切れていたから、俺と竹本さんは交換できなかった。明日になれば、俺と竹本さんは直接交換できてしまう。だから事故という強引な出来事を起こして今日中に冨田と交換させたと言える。逆に事故が無いと、俺は帰宅後に充電して、明日竹本さんと直接交換できる」

「私と相田さんが直接連絡先を交換してはいけない理由は? 些事に思えるのですが」

「まあ、そうか。俺と竹本さんは時代の観察者だから、一挙手一投足が世界の秩序に関わっている、みたいな」

 説明苦しいか。でも今できる最大限の推論ではないかな。

「とりあえず納得しました。現在はそれを信じて対策を考えていくしかないでしょうね」

 そうそう。正解は明かされない問題なんだ。次は行動だ。

「相田さんの話では事故の前に、私とチャラ田さんが連絡先を交換すれば良いのですね」

 頷く。そのはずだ。

「では方針は決定です。今すぐ学校行きましょう!」

 もう本当に、何とかなってくれ。

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