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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇
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一.黄金ある竹を見つくる(11)

「も、もう無理です」

 事故三十分前。竹本は今まで座っていた神社の石段にへたれ込んでいた。かく言う俺もガックリと肩を落としている。心が折れた。何を隠そう、もう既に十七回トライして悉く失敗したのだった。何度繰り返しても、福岡は助けられない。俺たちがしばらく制止しても、福岡が出て行くと事故に遭ってしまう。俺が身を挺して守ろうとしても駄目。俺が事故に遭う直前で竹本に「遡って」もらった。

 というわけで直接行動よりもまず頭を動かす必要が出て来たんで、会議だ。

「どうして福岡の事故は防げないんだろう」

 俺の嘆息に、竹本が言いにくそうに切り出した。

「あの、こんな状況で言い出すのも酷なのですが、時間には『主軸(Axis)』というものが存在するんです」

 主軸? クリーンナップみたいな? ……いや何でもない。続けて。

「出来事の集積によって、避けられない時代の大まかな流れのことです。例えば、第一次世界大戦は当時の情勢を考慮すれば、どうしてもいつかは勃発していたと考えられます。つまり時代の『主軸』で、『改変』はできません。ですが、サラエボ事件のような小規模で単体の事件、あるいは事故は防ぐことができます。『改変』可能なんです。世界大戦のきっかけは他の事件や事故でもあり得ましたから」

 それは何となくわかる。大和朝廷に銃を開発させるみたいに時代を大きく変えてしまえば日本も世界もぶっ壊れてしまうだろう。時代は経るべき出来事を順に追っていかなければならないんだと思う。

「福岡の事件は、時代の『主軸』だって言いたいんだな」

「認めがたいですが、たぶんそうです。どうしても私たちの力じゃ回避できませんから」

 確かに何度やっても上手くいかない。だけど福岡の事故がどうして大事な不可避の出来事なんだ?

「私もわかりません。普通はそんなことないんじゃないかと思うんです。私たちだって、何が時代の『主軸』になるとは判別できません。でも、あの小さな事故が……」

 俺もそう思う。あんなのが人類にとって重要なタスクであってたまるか。

「もし俺たちが無理やり福岡の事故を防いで、『主軸』を避けたらどうなるんだ?」

 竹本は苦笑いして話した。

「『主軸』となる出来事を避けてしまうと、それはかなり強引な手段を用いることになります。ですから、秩序が崩れて、世界がフリーズしてしまうのです。いつかは世界で矛盾と齟齬が拡大してしまって一巻の終わりです」

 滅茶苦茶だ。俺たちの世界が終わる? そんな馬鹿な話あるか。

「私も疑問です。時間の観測者側である私たちが世界の秩序に関わるのなら理解もしやすいですが、それ以外の人間の行動が因果に干渉することはあり得ますかね?」

 知らん。人生、何が引き金になるかわからないからな。でも、観測者の俺たちなら秩序に関わることもあるんだ。そりゃ、時間を『遡って』『改変』できるからな。

「ですが、認めるほかないでしょう。それよりも福岡さんから事件を遠ざける方法を考える方が先決です。相田さんは思いつきますか?」

「うん。いっぱいある」

「いっぱい、ですか?」

 そりゃ、案を出すだけならいくらでもできるさ。

「一つ目、福岡をヘリコプターで家まで送る」

「……」

「タクシーで送ったら、タクシーにぶつかる可能性があるからヘリで福岡を直送すればいい。そうしたらあの軽自動車がぶつかるにもぶつかれない」

「ヘリコプターが事故に遭うこともあり得ます。上手くいきそうにありません」

 竹本はちょっと呆れた表情をする。俺も本気で言ってない。そもそもヘリコプターなんて用意できないんだから実用的でない策は出しても意味が無い。

「二つ目、福岡に車が当たる前に俺が代わりに轢かれる」

 竹本は溜息。

「相田さんが轢かれては本末転倒です。それに福岡さんが違う車に当たる可能性もあります。相田さんが良ければ一度やってみます?」

 福岡に何度も事故に遭わせてる俺が言うのもあれだけど、俺だって痛い思いはしたくない。福岡のために身を投げようとは到底思えないな。例えば、竹本を守るためならそうするか? いや、何とも微妙ではある。誰だって自分の命は大事だし、自らの命を守るのは本能の域ですらある。

「じゃあ三つ目。学校前の道路にバリケードを組み立てて、来た車を物理的に止める」

 竹本は少し頬を膨らませてそっぽを向いた。

「やってもいいですよ。福岡さんは無事でしょう。ですが救急車でなくパトカーが、福岡さんではなく相田さんを連行するでしょうね。これも相田さんが良ければやりましょう」

 もちろん嫌だ。万策尽きたな。為す術なし。竹本は何かある?

「福岡さんが事故に遭わなければいいのでしたら、学校に放火でもしたらどうですか? きっと消防車が学校前に集まって、道路が通行止めになるでしょう。さらに福岡さんはそんな状況で急いで帰ろうとは考えないはずです。……すみません」

 俺が真面目に考えないから、竹本も真面目に答えてくれなくなってしまった。だってもう一時間以上格闘しているんだ。時計の針は進んでないどころか戻っているのだが、今までを合計したらマジでそれくらいは経過している。竹本もぐったりして座っている。背筋が伸びてない。打開策を出すのにこのままでは手詰まりだ。

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