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みらいひめ  作者: 日野
終章/帝篇
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三十五.長き契のなかりければ(14)

「その後は、もう作戦があるんすか?」


 ノエルが真剣な眼差しで問う。


「時刻はちょうど深夜になる。第五コロニーは日が長いらしく、夜の時間が長い。その中でも明け方に近い深夜で、大抵は寝静まっているらしい。俺たちは、身を隠しながらラボまで突入する。そのあとは、正直――」


 決定はしてない。でも、これだけ優秀な頭脳が集まれば、今夜にでも決まるだろ。


「やるべきことは、大きく分けて四つ。一つはもちろん、美月を確保することだ。二つ目は、美月の記憶を復元すること。これはさっき打ち合わせしたな。三つ目は、美月のお父さん、シルヴァさんを説得して、タイムマシンの継続運用を認めさせること」


 そこでノエルがストップをかけた。


「その問題に関して説得材料はあるんですか? 以前は寸毫も取り合ってもらえなかった印象がありますが」


「大丈夫だ。説得に関しては、俺に一任してくれていい。――四つ目、妨害に来るであろうユリと磯上を止めること。四つは順不同で、状況によって変則的になるかもしれない」


「ユリは俺が止めます。俺がやるしかない」


 ノエルが宣言した。ユリの強さは百人力だ。お前一人でも手に余る可能性がある。


「でも、本当にそうするしかないかもしれないわね。ノエルくんにユリさんの足止めを任せる。磯上が来たら、アイくんが対処する。美月さんとお父さんに関しては、私が何とかしないと」


 深雪の言うことが今のところ最善策だろうな。ユリや磯上に気付かれなければ、それでいいわけだし。


 俺の最優先は、磯上の阻止。次にシルヴァさんの説得。次が美月の救出になる。


 深雪は美月関連のことを優先。ノエルはユリ。ルリもそのサポートかな。もちろん、必要に迫られなければ戦闘はしない。美月を優先させよう。


「あ、あの私は?」


 阿部が気まずそうに話に入って来た。えっと、阿部は自分の好きなことをしてくれ。


「なら、ノエルくんの傍にいます。私が役に立てるのは、たぶんそれくらいだから」


 うん、任せた。ノエルはもう大丈夫だと思うけどな。


「ラボに潜入してすぐ、美月が住まう寮棟に行く。美月は最上階にいるはずだから、何とかして下りて来てもらう。上手くいけば、そこで美月に記憶を戻してもらおう。シルヴァさんは、居場所まではわからないが、美月に訊けば会えるかもしれない」


「うん、いいね。地図とかもある? 僕も一緒に考えさせてもらおう」


 石島がそう言うと、深雪が「体内コンピューターで地図出すよ」と机に地図を投影し始めた。それから、綿密な作戦会議が始まる。有能なやつらが集まると話が早い。もっと早く頼るべきだったのかな。


「そうよ、頼ってねって言ったじゃん。こんなギリギリに言われても不満なんですけど」


 深雪が笑う。そう言われたって。


「いいんだよ、相田くん。人生には孤独という、冬の時期が必要なんだ。そうして心に年輪が刻まれる。強くて真っ直ぐに成長できる」


 石島がこういうときに取っておいたような警句を吐く。でも嬉しい。


「シュータ先輩。泣いていいんすよ」


 誰が泣くかバーカ。早く考えろ、ノエル。やーいチビ。ノエルが思いきり顔をしかめながら、でも失笑する。真面目に考えないと、夜が明けてしまうぜ。



 計画も煮詰まり、良い感じになってきた。もう夜も夜。



 それでも真面目バカ三人が、まだ打ち合わせ中なので、俺は退屈そうに寝そべってゴロゴロしている阿部の近くに移動した。阿部は俺を見上げて、にへらと笑みを見せた。


「なんですか、シュータセンパイ。変な顔して」

「真顔だが」


「……卒業おめでとうございます。さようなら」

「なぜ唐突に?」


 俺はあぐらをかいて一息つき、尋ねる。


「そういや、今年は花粉症平気なのか?」


「今年は病院に行きました。強力な薬を貰って、体中の水分という水分を吸収させているので、鼻炎は平気です。目が痒くて辛いですが、ノエルくんに可愛く見られるため、メガネはしません」


 ふーん、相変わらず変なところに努力家だよな。


「阿部に訊いておきたいことがあるんだ。美月のこと」

「美月センパイのカップ数なら知りませんよ。もちろんヒップも」


 なぜ、俺がそんな無粋な質問をすると思ったんだ。男子中学生じゃあるまいし。


「帰って来た際のプレゼントに、ランジェリーをプレゼントするのかと」


「モテる男は皆そうしているのか? なら訊きたいかもしれない」


「皆そうしていますよ。ですからシュータセンパイも、ね?」


 ウソなんだろうな。って、俺はそんな話をしたいわけじゃないんだ。


「じゃあ何です? 私は美月センパイのこと特別詳しいわけじゃ――」


「恋愛相談なんだが」

「聞きます。らさないで早く言ってくださいよ」


 ……調子のいいやつ。阿部はニコニコして俺が話すのを待っている。


「美月が、俺のどこが好きなのか知っているか?」

「へ? シュータセンパイのことを、ですか?」


 阿部が目をぱちくりさせた。

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