三十四.月の都の人(6)
「周太郎は、同じ大学に来るの? 歓迎するよ」
「あんたと同じ大学なんか行くか。ってゆうか行けねえよ」
国立行った孝行人間には何も言えない。俺は溜息を吐いた。
「いつまでいるんだ」
「もうしばらく。勉強の邪魔はしない」
「するな」
「なら、部屋にいる女の子も家に帰した方が良くないか?」
……は?
俺の部屋に女の子がいるだと。誰だか知らないが、家族に見られたことに恥ずかしさと寒気を同時に感じる。また厄介事を。俺は大股でリビングを出る。
「あ、周太郎。高校、楽しいか?」
「楽しいに決まってんだろ。うるせえな。あと、お帰り!」
「おー、ただいま」
バタンとドアを閉めて階段を駆け上がる。自分の部屋のドアを開ける。
――パンッ。
「おわ」
突然、俺の顔面にクラッカーが放たれる。そこにはニコニコしたサンタコスのルリがいた。またルリ……。パーティー用の三角帽を被っている。紫のツインテールがご機嫌に揺れていた。
「何しに来やがった」
「可愛い?」
「可愛いでいいから」
「次のクエストが届きましたよ、シュータくん♡」
「や、休ませて」
せ、せめて風呂に。俺は力尽きてベッドに雪崩れ込んだ。起こそうとしたルリからいたずらをされたけど、まあ無視っすよね。
翌朝は25日、クリスマスだったんだが、残念なことに早朝からルリを妹のように侍らせている。平日なので、家族は当たり前のように出掛け、兄貴は高校の旧友とやらと食事に行ってしまった。だからトーストを二枚焼いてルリと食べた。ふう、疲れた。
「そんなこと言って~。ルリと朝チュンしちゃったね」
ルリがキッチンで洗い物をしてくれていた。ルリとは確かに一夜を共にした。
と言っても、誤解を招くだけだから(その誤解は多方面で危険だから)説明しておくと、昨日は疲労困憊でルリの依頼をこなせそうにないので、身支度をして寝た。ルリは帰らないと言い張るので放置。
当然、俺のベッドに潜り込んできたわけだが、やましいことはなかった(神に誓って)。俺の部屋は暖房もついてないし、布団の外は極寒というわけなので、仕方なく同じ布団にくるまって寝させたのだ。
体が触れ合うくらいは大目に見てくれてもいいだろ? 性的な接触はなかったわけだし。
「さっきから、誰に向かって言い訳してるんですか?」
ルリがジト目で睨んできた。大事な弁明なんだよ。
「とにかく、シュータくんは準備完了ってことでいいですね?」
「えっと、この真冬になぜ水着を持たされたんだ?」
俺が去年のプールに穿いて行った海パンとラッシュガード。あとタオル。これらをバッグに詰めさせられた。リゾートにでも行くのかな。ハワイやグアムのような南の島は、庶民なら一度は憧れるものだ。ミヨの家族のように、毎年海外旅行なんて行けないからな。
「もう忘れちゃったんですか?」
思い出した。記憶を取り出す装置が完成したんだよな。伊部とユリの手によって。その技術が人間に応用できるかの実験だ。誰で試すかというと、もちろん俺。
正しくは過去の俺とミヨだ。俺とミヨの記憶を取り出して、中の人格を入れ替える。成功すれば、これでクララさんとユリを分離できるし、過去の時間軸に伏線を張ることもできる一石二鳥の作戦なのだ。
だからまあ、行かないわけにいかないんだ。
「嫌そうですねえ。暖かい地に行けるというのに」
「暑いの間違いだろ。ちょうどいい季節ってわけにはいかないのか」
俺は半袖のポロシャツに着替えて、時間遡航の用意をする。目眩がするような時間を「戻る」感覚にもだいぶ慣れてきた。
「ちなみに、シュータくんはまだ美月のこと、大事ですよね?」
「そうだ。だから行くんだろ」
「もう四カ月くらい会ってないのに?」
まだ四カ月じゃないか。たったそれだけなのに、最後に美月と会ったのが遠い昔に感じる。
「心変わりも無いと?」
「だから、そうだよ」
ルリは複雑そうな表情をした。なんで女の子は拗ねると、こう子供みたいな顔をするんだろうね。
「ルリは負けヒロインなんですね」
「お前は流石にヒロイン候補ではないだろ……」
っと、良くないこと言ったかな。ルリの頭を撫でる。
「俺は未来永劫、美月以外は女の子として好きになれないんだ。なんでかさ、離れていても美月のことを自然と考えてる。美月は無事か?」
「無事らしいです。お姉ちゃんが言ってた」
「大丈夫だ、俺と美月の挙式にはお前も呼ぶから」
「……皮肉ですか? そのときにはアレやコレやを大暴露して、荒れた式にしてやりますよ」
北九州かな? まあ行こうぜ。頼りにしているんだよ、ルリ。俺が一人のときには必ずお前がいてくれたから。




