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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇
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一.黄金ある竹を見つくる(6)

 俺たちは校舎を出て正門へと向かう。外は春麗らかなという形容がまさに当てはまる温和な気候だった。暖気を含んだ風が緑の匂いを運んでくる。……隣には美人の同級生。普通ならこの上ない新学期のスタートだけど、世の中そう上手くいかない。

「俺が話したいのは、ええと、つまり、昼休みのことなんだけど合ってる?」

 そもそも共通認識はあるのか。

「私もそうです。おかしなことがあったと思いますか?」

 躊躇いがちに竹本は訊いた。俺は頷く。

「時間がリセットされたみたいな感じだった。あれはドッキリかイリュージョンかな?」

 笑いながら質問した。そんな馬鹿なことあるわけないと思っていたから。

「相田さんは、私の言うことを信じてくださいますか? とっても突飛なことでも」

「例えば?」

「例えば、超自然現象みたいなことです。こんにちの社会通念において到底受け入れられない、技術や科学の話です。そういうことを信じられると思いますか? 私は相田さんが信じてくださらないであろうことを言おうとしてます」

 言い方が迂遠でよく伝わって来ないけど、要するにフィクションに出て来るパワーってことだろうか。何言い出すんだろう? でもまあ竹本は真面目に聞いて欲しいことがありそうだ。困ってるかもしれない。ならば、まずは竹本の話を聞くべきだろう。

 俺は校門をくぐると、足を坂の上に向けた。

「こっちにさ、神社があるんだ。そこは桜が綺麗で人も少ない。話をするには絶好の場所だと思う」

「いいですね、桜」

 二人で並んで学校を出た。星陽高校の前は傾斜の緩い坂道になっている。下ると駅の方面で、上ると町の中心に入って行く。坂の上へずっと道沿いに行った先には、神社がある。地元の人しか寄らないような小さい神社だけど、入り口には桜並木があって春は壮観だ。竹本とせっかくデート(っぽい感じ)なんだから、いい場所を選びたいよな。

 ただし到着まで十数分歩かないといけない。時間を無駄にしたくないので話を進めてもらうことにしようと思う。

「でも、相田さん、信じてくださるかなあ」

 竹本はまだ半信半疑だった。この美少女を困らせておくのは気が引ける。俺は別に「実は秘密裏に行われた研究の結果、時間が進んでは戻るという現象を一部の人が感じ取ってしまうという事実が発見されたんです!」とか「非合法の薬を混ぜてしまって、相田さんの脳みそがおかしくなってしまったのです!」みたいなことを言われても全然受け止めきれるぞ。受け止めて良い病院を紹介して差し上げよう。まずは言ってみて欲しい。

「大まかに、二つあります」

「うん」

「私は三十一世紀の人間です」

「?」

「それと、未来の技術を用いて時間を操作できます」

「??」

「あのー。相田さん?」

 竹本は足を止めて俺の顔を覗いた。俺は内心焦っていた。

「ふむ」

 そう来たか⁉ 未来? 時間を操作? かなり重篤な思い込み症状だ。だってそうだろ。あまりにも非現実的すぎる。これが事実である可能性は万に一つも無い。小学生ならまだしょうがないけれど、高校生にもなってこんな空想に頭を浸らせているってどうなんだ? 帰国子女だって言うし、年相応の感じが違うのかな。落ち着け、周太郎。冷静に対処してやれ。頭ごなしに否定したら、意固地になってますます取り返しのつかないことになるぞ。こんなことを言い出した心理的要因を追究し、じっくり現実に引き戻してやるんだ。

「相田さん、信じてない……」

 竹本はショックそうに俯いた。ごめん、流石に信じられないよ。

「じゃあ頑張って納得してもらいます。お昼のときのように時間をリセットしたら、私の話に信憑性が増しますよね」

 そうだな。あのループみたいな事態は実際に俺も感じていた。きっと全部が嘘ではないのかも。

「例えば、物を遠くに放ってみてください。私が時間を『遡って』元の状態に戻してみせます。相田さんのスマホを戻したときと同じです」

 スマホの画面も直してくれたんだよな。一応お礼代わりにトライするか。俺はリュックからペットボトルを取り出した。逆さまにして、中身のお茶を道路脇に捨てた。で、遠くに投げる。どうだ、ここまでしたら元には修復できまい。不法投棄で捕まったらどうしようか。

「では、時間を『遡り』ますね」

 腕時計は「四時三十三分」を指す。——瞬き。

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