三十三.御狩の行幸(7)
正門を出て、学校前の坂を下る。下校中の生徒をちらほら見かける。佐奈子はいつも通りのテンションで俺の話を聞いていた。
何だか自然と俺が道路側に立ち、佐奈子と時折肩を触れ合わせながら歩くことになった。佐奈子は俺を見上げながら、たまに微笑んだ。
「でさ、ミヨは平気なのかよ。昼あんなこと言われてたじゃん。聞こえた?」
「聞こえてる。私は地獄耳」
だろうね。
「でも平気。大したことじゃない」
そうなのかな。佐奈子が保証してくれるなら百人力だ。だけど俺としては心配だぞ。
「女子にはグループがある。男子のグループとはまた別」
は、はあ。学校でグループやカーストができていて、行動を共にしたり喧嘩したりということは俺でも想像つく。ただ女子の世界はちょっと魔境だからわからん。
「わかりやすく言うなら、男子のグループは党内派閥。女子のグループは与党と野党」
また佐奈子さんの人間関係教室だ。佐奈子は淡々と喋る系の講師だ。
「男子のグループはあくまで仲間内で、特に仲の良い人で集合している。だからいざというときは、グループどうし協力することができる」
う、うん。当たり前というか、それ以外にあるのか。
「女子のグループは、仲の良くない人を弾いてグループができる。つまりグループどうしは極端に言えば嫌い合っていて、敵対してしまうこともしばしばあるのです」
なるほど。昼にミヨに突っかかった三人は、別グループか。
「うん、恐らくあの子たちは私のことも嫌い。無口で、彼氏持ちで、外見がブスじゃないから」
佐奈子は風に髪をなびかせ、ニヤリとした。そういえば、あいつらミヨのこと「性格ブス」って言っていたよな。ムカつく。ミヨほど愛らしいキャラクターはいないだろ。
「でも大丈夫だよ。そもそもお互い嫌い合っているんだから。みよりんには、私や坂元ちゃんのような味方がいるもん。いざとなれば、呪殺する」
人殺しはよした方がいいと思うぞ。ミヨを守ってくれるのはありがたいけどさ。
「相田くんは心配しないで。私は、みよりんの味方」
そう言って、俺の胸に手を当てた。じんわりと温かい手だ。呪われそー。
坂が終わり、なだらかな道になる。このまま大通りを真っ直ぐ行けば駅だ。この道では色んなことがあった。
美月と歩いて回転寿司を見つけ、アリスがトラックに轢かれ、告白する気でいた深雪に手を引っ張られ、そして現在は佐奈子と並んで歩いている。人生、何があるかわからないものだ。こうしていると忘れがちになるけれど、最初に会ったとき佐奈子には殺されかけたんだからな。
「そんな佐奈子に頼みがあるんだった」
「どんな佐奈子?」
突然の発言に驚かせてしまった。全く驚いていなさそうなリアクションを取られる。
「今度また未来人と会うんだ。そのとき、〈過去〉に出向いてミッションをこなさなきゃいけない。佐奈子の力を借りたいんだ」
佐奈子は首を斜めにした。
「うん? 〈過去〉って?」
「今年の2月14日で、詳しいことは後で話すけど、実は敵の未来人に襲撃される事件があってさ。未来の俺が助けないといけない。あと、敵の未来人が持っている技術を盗まないといけないというミッションがあって……。俺一人じゃ無理なんだ」
佐奈子は静かに笑った。
「……? とにかく私が可愛いから一緒に過ごしたいんだね。いいよ、力になりたいって言ったもの」
「可愛いとは一言も言ってないが」
「可愛くない?」
「正面からこうやって向き合うと照れるくらいには可愛い。保証する」
「……冗談ばっかり」
「冗談を言って、からかいたいくらいには可愛いってことだ」
「おだてるのが上手だね」
まあ、ここで説明するには複雑すぎる問題だ。まあ後で理解してもらえば大丈夫かな。俺はポケットに手を入れたまま佐奈子に言う。
「タイムマシンに乗るんだけど、いいか?」
「タイムマシンに乗るチャンスをみすみす逃す現代人がいるかな?」
「安全は保障するから。付き合って欲しい」
佐奈子は俺を黒目でじっと見つめた。
「告白?」
「君を必ず守るから、日曜日に出掛けよう」
「口説かれちゃう」
ところでそろそろ駅だから、さよなら。佐奈子は俺の肩をポンと叩いた。
「日曜日は雨だからね。傘持って、相田くんの最寄り駅集合ね」
俺の最寄り駅を教えたことがあったかな。はて。




