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みらいひめ  作者: 日野
終章/帝篇
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三十三.御狩の行幸

 ――佐奈子との約束を忘れていた。と言って帰れたら良かったのだが、俺には絶対的な記憶力があるので駄目だった。


 忘れられない=女の子との約束をすっぽかせない。すなわち相田周太郎の恋愛問題はこじれていくのである。美月、ミヨ、深雪、ルリ、アリス、さらに佐奈子。何人掛け持ちしているのだというね。いや、俺の気持ちは美月一筋なのだが……。


 駅近の小さな喫茶店で俺はカフェラテを頼んだ。お腹が空いてボロネーゼを追加注文した。目玉焼きをトッピング追加できるというので、優男の比較的若いオーナーに申し伝えた。


 そして親に「22時には帰る」連絡と、ミヨは既読スルーか。なんか、あの話を聞いた後だと、どう接したらいいかわからないな。ミヨが世界の中心だということは、本人に言わない方がいいんだろう。誰も言わなかったんだし、機密情報らしいし。


 ま、勉強するか。佐奈子のバイトが終わるまで一時間ある。


 ――と思っていたのが、ちょうど一時間前だ。佐奈子に居場所は伝えておいた。恐らく終わり次第、こちらに向かうだろう。塩ふりの目玉焼きの載ったボロネーゼも平らげて、デザートにチョコアイスまで食べてしまった(勉強は?)。


 20時27分――スマホの時計が指し示すその時刻に、喫茶店のドアが開いて、髪を下ろした佐奈子が入店してきた。制服に着替えている。


 佐奈子は相変わらず何を考えているかわからない表情で、窓際の二人掛けに座る俺を発見した。そそくさとこちらへ歩いてくる(※ミヨいわく、サナちゃんって仕草がいちいちあざといのよ、ということらしいが、そんな雰囲気は微塵もない)。


「ごめんね。遅れちゃった」


 遅れたとは思わないが、八時まで時間を潰すの大変だったんだぞ。


「ノエルくんはいないの?」


 送り迎え制度は消滅しました。最近会ってないし。佐奈子は周囲を見渡す。


「エクセルシ〇ールかと思ったら、ここだったんだね。シュータくん、お洒落さん」


 個人経営の店っぽいな。「サニーサイドアップ」って店名。太陽の傍? よくわからんが、よくわからないところがお洒落だ。俺は手を挙げて、「すみません」と店員さんを呼ぶ。黒のショートヘアをした、柔らかい印象の女性だ。緑の長袖カーディガンが似合う。夫婦経営なのかな。


「佐奈子」

「ああ、そっか。じゃあカフェモカ。ホットで」


 店員さんが帰ると、佐奈子はふうと息を吐いた。疲れたか? お疲れ様。


「いいよ、好きでバイトしているんだから」

「大変じゃないか。学校とバイト」


「ううん。冬休みになったら、教習所にも通うから」


 ずいぶん精力的だこと。俺は年明けは受験一色だよ。


「そんで、彼氏のいる佐奈子さんが、俺に何の用かな」

「本題に入るのが早いよ。もっと二人の時間を楽しまないと」


 佐奈子は何を考えているかわからない表情をしている。浮気したいのか、お前。


「人聞きの悪い。私は彼氏の慶、一択だよ」


「俺も美月一択だ」


「でも、美月さんはいなくなっちゃった。誘拐されちゃった」


 こいつは誰かから聞いたのか?


「勘だよ、勘。女の勘」


 佐奈子は上機嫌に頬杖をついた。口角を上げて俺を試すように見定めている。弄ばれている気がしないでもない。


「相田くんは、最近人と話している?」


 話さなきゃ、学校生活していられないだろ。だけど、美月がいなくなったし、俺自身はぼうっとしていることが多いし、自分の話はしていないかもな。


「それが良くない。溜め込むのは毒だよ。私が聞いてあげる」


 沼りそうな占い師が言いそうな科白だな。あいにくそんな気分じゃないんだ。


「私は、相田くんの力になりたいよ。美月さんに贖罪もしたい。そのために手伝わせて欲しいんだよ」


 佐奈子には一度だけ迷惑を掛けられたことがあった。けれどその一回きりだ。俺も美月ももう恨んじゃいない。


「何も、手伝えることは無いの……」


 そんな寂しそうな顔をされてもだな。お前が演技派女優だということは知っているんだぞ。三秒黙り込むと、そこに佐奈子の頼んだカフェモカが運ばれてきた。佐奈子はフーフーして小さな一口を飲んだ。


「わかったよ。俺が悪かった」

「なに?」


「だから、佐奈子を頼るよ。頼りたいことも今見つかった。俺には数少ない弱点がある」


 人の好意を無下に断るのもどうかと思うからな。佐奈子も悲しませたくない。


「弱点? 押しの強い女の子?」

「確かにそれにも弱い。だけど、そうじゃない」


 佐奈子はまた一口飲んだ。


「乙女心がわからないんだ。乙女じゃないから当然なんだが、かなり疎いから」


 佐奈子に頼るなら、未来のことじゃなくて現実問題だよな。佐奈子は興味深そうに視線を向けてきた。


「ミヨのことで、苦労しているんだ。有り体にいえば、俺は仲直りしたいのかもしれない」

「詳しく、ワケを話して」


 俺は、最近ミヨと疎遠になっていることを話した。坂元にも叱られたことを。


「うん、わかった」


 何がわかったというのだろう。佐奈子は口の端をニヤリと上げた。


「相田くんは何も考えなくていいよ。私に従っていれば幸せになれる」


 いや、そんなマキマさんみたいなこと言われても……。


「まずは、そうだね。放置しようか」


「ほ、放置っすか」

「そう、放置プレイ」


 佐奈子さんが何を考えているのか、俺にはわからないな。そんな真っ直ぐ視線を向けられても。

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