三十二.仰せ言を背かば(5)
>シュータくんを迎えに来ました
>高校の駅近のカラオケにいるよ
なんでカラオケなんかにいるのだ。俺は首を傾げながら、カラオケボックスに移動した。既に部屋にいるらしいので、入り口をパスして指定された部屋まで赴く。ちゃんとドリンクバー付けてくれているんだよな。ドアを開けると、そこには三人の姿があった。
マイクを持っているのは伊部だ。「けけボッサ」を歌っている(なぜ?)。
「シュータきゅん、座ってどーぞ。ルリの隣」
部屋の入り口に近い、ルリの隣に座った。胸元が開いたドレスを着たルリに伴われ、キャバクラみたいになっている。奥にはユリがタンバリンを持ちながら座っていて、反対側では伊部が立って熱唱だ。お前ら、日本の歌を知っているのか。
「遅いじゃねえか、シュータ」
伊部はマイクを置いて座る。ユリがテレビの音を消してしまった。あのにこやかな表情は、無事〈良心〉が出て来たということだろう。
「おい、なんでカラオケ集合になったんだ?」
ルリは肩をすくめた。
「シュータくんの部屋で四人が話し合いをしたら、ご家族に迷惑でしょ。公共の場で大っぴらに話せることでもないし」
まあ確かにそうかも。カラオケは防音で涼しいし、ちょうどいいかもしれない。
「と、いうわけで、『竹本美月・完全救出作戦』の第一回作戦会議をここに開催する!」
伊部がマイクで宣言した。こいつ、のこのこ出て来たと思ったらウゼえムーブかましてくるな。絶対友達になりたくないタイプだ。これで頭いいんだからますます気に入らん。
「何だよ、シュータ不満か」伊部が睨む。
美月を助けようという会議なのに、カラオケで、しかもテーブルにピザやフライドポテトが並んでいるのが不満だ。美月は今も悲しい思いをしているんだぞ。ま、そんなことは百も承知か。
「んで、有識者四人が集まったのはいい。俺が現代人代表で、伊部が技術者代表、ルリが未来市民代表、ユリが敵代表か。しかし、何から話せばいいんだ」
論点が多すぎるな。こっちだって訊きたいことは山ほどあるし。
「わたしにも、絶対言わないとまずい連絡があるんだけど」
ユリ〈良心〉が複雑そうな顔でジュースを飲んだ。健全なソフトドリンクか。俺もドリンクバー貰って来ていい?
「あ、ピザも熱いうちに食べてね、アララギくん」とテーブルを指差すユリ。
「相田です」
「しまった」ユリは口を塞いだ。
またかよ。その意地悪って流行ってるのか?
俺は部屋を出てセルフサービスのドリンクバーを取りに行った。メロンソーダ一択だ。そして歩いている間に考えを整理する。俺たちには知らなければならない疑問がいくつも残っていたはずだ。ノエルがいない今、俺がしっかりしないと。
部屋に戻った。ルリが「テレビジョーン」と歌っている。短い曲ね。
「決めた。伊部、ルリ、ユリ。三人でじゃんけんして、それぞれ話したいことを話してくれ。俺がその都度質問をする。それでいいだろ」
「了解です」ルリが敬礼した。
三人は異存が無いようでじゃんけんをする。順番はルリ、伊部、ユリに決まった。ルリの隠し事からスタートだ。
「ルリは昨日、電動〈ピー〉で三回〈ピー〉しました」
何の告白だ、それは。お前の場合、性生活は隠し事ですらないだろ。ユリ〈良心〉が若干ショックを受けているようだが、こっちは放っておいて真面目な話を頼む。もう何気に18時なんだぞ。
「では、そうですね。前回シュータくんから、エレベーターに乗っている最中に質問されました。シュータくんたちの一年生のときの問題から話そうかな」
俺が一年生の頃か。文化祭実行委員で、深雪と黒歴史を作った思い出しかないんだが。
「シュータたちが一年というと、実験の開始年か」
「そう。タイムマシンの実験が行われた、第一回です」
ちなみに、そのときの俺の記憶は無いってことで合っているよな。上書きされていると。
「まあ、俺が上書きした本人だからな。一昨年のシュータたちは、未来とは関わりなく過ごしたことになっている」伊部が答える。
俺の記憶には、入学式にも一年次の文化祭にも美月はいない。同じ学校に美月がいたら気が付くはずだし、記憶力に自信はある。実際には、美月が来ていて、俺と会い、タイムマシンの実験をしていた。
「で、その実験は中止になっているんだよな。何か起きたわけだ」
俺はせっかくのピザを手に取った。バジルの効いたチーズたっぷり薄生地だ。
「ええ、でもまずは最初から。四月にこちらの時間軸へ、未来人が二人送り込まれました。ルリと美月です」
美月だけじゃなくて、ルリまで送り込まれたのか。ルリは俺を見上げる。
「うん、そうなの。ほぼ初対面だった私と美月でね」
ルリは話を続ける。
「実験を成功させるために取った手段は、時間を『遡る』――やり直しの機能を使って、地道に誤差を修正しながら進めていくこと」
――ってことは、初めから超能力頼みではなかったということらしい。お行儀よく座るユリ《良心》が首をコクリと動かした。




