表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みらいひめ  作者: 日野
終章/帝篇
664/738

三十二.仰せ言を背かば(4)

 美月と別れてから、何を見ても興味をそそられない。漫画もラノベも、次々新刊が出るけれど、受験生にはあまり付いていけないな。気が付いたときには学習参考書のコーナーでペラペラと参考書を読み比べていた。あ、時間。


 スマホを見ると、ミヨから返信がある。


>元樹


 もとき……。誰? もとふゆきか? 素っ気なく返したつもりだろうが、「ゲンキ」を変換ミスしてるな。ふざけているつもりは無さそうだ。返事の仕方が難しい。


>元気なくなったら、連絡くれよ


 まあこんなもんで。結局、勉強の息抜き用に創元推理文庫を一冊抱えて、レジまで向かった。ミステリなら楽しめると思ったのだ。


 ミステリは探偵も読者も、事件とは離れた立場から観察して、犯人を見つけて、外野から糾弾するだけでいい。事件の当事者になる苦しみを一番感じないのがミステリだった。気楽な息抜きだ。


 レジに並びながら、ここってコードペイ使えなかったよなと思う。レジには仕事帰りの大人が数人並んでいた。


「奥のレジ、どうぞ」


 柔らかな女性の声に呼ばれて、奥の三番レジに向かう。本屋さん特有の、カバン置きがある雑多なカウンターの前に立つ。


「お願いします」


 店員さんに文庫本を手渡した。腰ポケットの財布を取ろうとしたところ、支払い方法一覧が目に入った。なんだ、コード決済使えるようになってるじゃん。ラッキー。スマホを開く。


「お客様、当店のカードはお持ちですか?」

「いや、持っていません」


「お作りしますか? すぐ作れますよ。いつもご利用ならぜひ」


 えっと、別に要らないんだけどな。


「ぜひ」

「じゃ、じゃあお願いします」


 ああ、流されてしまった。作っても邪魔にならないからいいんだけど。新規のカードを渡される。


「本にカバーはかけますか?」

「お願いします」


 学校でも読む可能性があるからな。カバーを覗かれたら嫌だ。


「お会計が――円になります」


「コードペイで払います」

「では、こちらにバーコードかざしてください」


 ああ、自分でカメラにバーコード映すやつね。距離感が難しいんだよな、これ。


「はい、決済完了しました」

 店員さんはテキパキとした動きで、本にカバーをかけていく。細くてキレイな指だ。


「あの、そんなに見つめられたらやりにくいんですけど」


 え? 店員さんに怒られてしまった。そんなに見つめていたつもりもなかったんだが。謝ろうとして顔を上げた瞬間――店員さんと目が合う。


 落ち着いた表情、冷ややかで魅惑的な目元、髪はウェーブのかかった美しいブラウン。今は一つに束ねている。


「あ、佐奈子!」


「いらっしゃいませ、相田くん」


 なんと駅前のデパートの書店で働いていたのは、ミヨと同じクラスで超能力者のリア充、演劇部・前部長の小野佐奈子だった。よく見ると、茶色のエプロンに「ono」と書いてある。オーノーって英語みたいだな、と言ったら英語じゃんと返された。確かにそうだ。


「なんだ、内緒でバイトしてるのか」


「内緒じゃなくて、夏休みから学校に許可取ってやってる。ほら私、推薦組だから」


 推薦入試ね。どうやら指定校推薦の枠をほぼ手中に収めているらしい(まだ確定していないはずだが)。策略家らしいサナちゃんだ。


「小遣い稼ぎ?」


「演技の勉強にもなるし、お金もがっぽがっぽ」


 そりゃ良かったじゃねえか。どうせデートで使うお金だろ? 佐奈子はカバーをかけ終えると、ポイントアプリのお知らせと、書店の栞を挟み込んで俺に手渡した。


「お買い上げありがとうございます」

「なんか同級生にレジ打ってもらうの、初めてだな。恥ずかしい」


 佐奈子は小悪魔なスマイルを浮かべた。


「相田くんのハジメテ、いただいちゃった♡」


 あーハイハイそうだな。俺がレジで喋っていたら邪魔だろうと思って振り返ると、特に誰も並んでいなかった。


「日本人は同調行動をするから、レジにたくさん人が並んでいると自分も並びたくなる。レジがガラ空きだと、レジに行きにくくなる。無意識に他人につられて動くから」


 そうなんすか。確かにあの列はどこへやらだ。かと言って、無駄話もしてはいけないだろう。佐奈子は俺の表情をじっと見つめていた。


「相田くん、元気ない。オーラでわかる」


 オーラ? 冗談なのか本気なのかわかりにくい人だ。


「私さ、バイトが17時15分から、20時15分までなの。レジ締めするの。一人でレジ締め」


 そ、そうなんだ。一人でレジ任されるのって大変だろう。


「相田くん、今日は予定あるのかな?」

「いちおう――」


「無いよね。20時20分にデパートの入り口で待ってる。家まで送ってね。じゃないと私、夜道に一人ぼっちで帰らないといけなくなる……」


 そう言ってアルカイック・スマイルだ。いや夜八時って……。あと3時間もあるんだけど。俺が困っていると、佐奈子は下を指差した。


「駅前のコーヒーショップに座っていればいいよ。私が奢るから、そこで勉強でもしていて」


 どうやら佐奈子的には俺を元気づけようと画策しているらしい。要らない気遣いだと思えるんだけど、どうせ美月もいないし、佐奈子くらい薄ーい関係の女子と話していれば少しは気分が晴れるかもしれない。


「断ってもいいよ?」


 そこまで言わせて、どうしても断りますとは言えないだろう。


「待ってるよ」

「待っていてね」


「バイト頑張れよ。エプロン、似合ってるぞ」


「わ」


 あまり迷惑にならないように、俺は書店を後にした。ルリからメッセージが来ていて、準備ができたと伝えられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ