表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
655/738

三十.貝なしと(31)

 俺の目に映ったのは、青空だった。続いて両側の手すりが見える。


 ここは先ほど通った研究所と寮棟との連絡通路の中央だ。ミヨとユリを残して来たはずで、二人も救出しなければならない。俺は痛む腹を押さえて状況を確認すると、意外な光景が目に入った。


「お、おおノエルくんが来たぞ。やった!」


 まさかの伊部がいる。しかも生身だ。目の前にホログラムのウィンドウを展開させて、目まぐるしく何かを操作していた。そして通路の反対には、


「は、早く逃げましょう! キリが無いわ」


 ユリが何だか不慣れな足さばきで、人型ロボット? を吹っ飛ばしていた。どういう状況なんだ。すると傍にいたミヨと目が合う。


「みよ……」

「ちょ、きゃあ! シュータ⁉ ちょっとみんな早く!」


 相変わらず、声がうるっせえ。ミヨは俺の出血量を見て動転していた。正直、自分でも引くくらい大怪我をしている。ミヨが心配するのも無理はない。ユリと伊部がノエルを中心に駆け寄る。ノエルが「皆さん、掴まりましたね」と確認して瞬間移動した。



 気が付くと、そこは最初にいたアジトだった。第十五コロニーの穏やかな海岸の町だ。昼間の青い芝生の上に、俺たちは着地した。


「ど、どうすんのよ! シュータ死んでる?」

 死んでねえ。ミヨが芝生に転がった俺を揺する。傷口が開くから動かすな。


「大丈夫です。シュータくん、〈痛いの痛いの飛んでけ〉」


 ルリが俺の目を覗いた。お母さんみたいな科白だけど、たぶん暗示だよな。痛覚を遮断してくれたようだ。俺は一気に気分が楽になった。寝転がったままルリとユリ、二人の看病を受ける。ちょっと、俺も話せそうだから共有しようか。お互いの状況。


「じゃあ、訊くけど本命の方はどうなったわけ? 美月は」


 立っているミヨがノエルに尋ねた。切り傷が痛々しいノエルも、看病して欲しそうに座りながら答える。


「連れ戻せませんでした。先輩のお父様とは意見が合わず、磯上に追い出された形です。頭ごなしに否定されたわけでもないですが、最後は強引に引き剥がされました」


 伊部が何やらピコピコ画面をいじりながら溜息を吐いた。


「駄目だったか。こうなることは予想できていたけどな」


 でも、話し合いを持っておいて良かったと思うよ。もっと話しの通じない人かと思っていた。それでも説得できなかった自分が歯がゆいが。


「それだけじゃないんだ。美月は記憶を取り出されてしまった。俺たちと会っていた二年半の記憶を消されてしまったらしい」


 未来人の二人が一斉に顔を上げた。ユリが言う。


「あの人が、ルナのお父さんがしたことなの?」

 そうだ。自分の娘に対してそんな仕打ちを。ユリは怒っているように見えた。


「記憶を取り出す、ねえ。かなり最先端な技術だ」

 伊部が独り言をいう。記憶を範囲指定して取り出すって言っていたな。いつでも復元可能だとも。――なんか、いつかどこかで聞いた科白だな。


「え、待って。じゃあ美月は私やシュータのこと、忘れちゃったの?」


 ミヨが屈んで俺を覗き見る。そうだな。美月は最後、俺のことを覚えていないようだった。むしろ知らない人だと怖がられてしまった。


「ひどいですよ」ルリが小声で言った。


 俺もそう思う。このままじゃ、美月は過去に来る前の、箱入り娘のままで、もしかしたら一生引き籠って、あの父親の管理下で過ごすことになるかもしれない。


「あれ? でもシュータくんも記憶消されなかったっけ?」


 ルリが突然キョトンとした。そう言えば最後に、美月のことを忘れさせようとした父親に電気ショックを与えられたような……。痛かったけど、俺は美月を覚えているよ。


「ど、どうしてですか……? 未来人じゃないから」


「いや、俺も超能力があるし」

 たぶん俺の超能力が機能してくれたんじゃないかと思う。伊部は首を傾げた。


「でも、お前の超能力って『時間が「遡って」も記憶が影響を受けない』ってことじゃなかったか?」


 それは、何というか結果的にそういうことになっていて。



「違うわ。シュータの能力って、『記憶力』じゃないの?」



 ミヨが言った。


「違うの?」


 皆の視線が集中するのを感じる。


「え、あー、えっと。――はい」


 ミヨ、気付いていたのね。ノエルはずいぶん前から知っていたようだけど。


「そうっすね。シュータ先輩の記憶力は、常人の域を出た『超能力』です。一度でも見たり聞いたり読んだりしたことであれば、全てを完全に呼び起こすことができる能力です。間違いありませんね?」


 やっぱり気付いていた。そーだよ。俺の超能力は「記憶力」だ。ミヨは高らかに笑った。


「私に見抜けない嘘は無いのよ! シュータって異様に『日本史』の点数だけ高いの。あと、英単語テストも得意なの。それって、記憶力が試される科目だからでしょ?」


 まあ、そうだ。よく見ていたな。


「俺はシュータ先輩の記憶力を試したことが、何回かありましたよ。例えば、クリスマスの事件のときっす。閉じ込められた時間軸では最初、超能力が使えないって話になりました。そこで俺はシュータ先輩に、『質問いいですか、先輩。アリス先輩の事件のとき、俺たちがルリに追われて『戻った』のは何月何日の何時でしたっけ?』と訊いたんです。そうしたら、『2月7日の午後8時だろ』という返事が返ってきた。これでシュータ先輩が超能力を使えていることがわかったんです。突拍子もない質問に、細かい数字を即答できる先輩は、明らかに異常だ」


 先輩に向かって「異常」とは。皆にバレていたなら、もうどうでもいいんだが。


「いやたぶん美月はわかってないわ。驚くわ、きっと」


 鈍い人だからな。ここだけの話、美月のあんな姿やこんな姿もバッチリ脳内に記憶しているのであるが、それは言わないであげよう。


「ところで、ミヨたちは何をしていた?」


「私はユリの面倒を見ていたの。と言っても、乙ぱいをつつくくらいだけどね。そこに伊部くんが来て」


 伊部が? っていうか、なぜお前は生身でのこのこ出て来たんだ。今さら。


「だって、研究所内のセキュリティにお前らの侵入がバレたからだ。みよりんだけなら、抱えて逃げようと思ったが、ユリもいたし。だからセキュリティロボットを撃退していたわけだ。あんまり気に病むなよ。俺は近くに住んでいるから、これくらいの外出なんともない。今回は出張費無料だ」


 遠くに住んでいたら来なかったのかよ。それでさっきコンピューターで戦っていたのか。


「そう、通路の両側から来やがったから、ハッキングして停止させるのを繰り返していた。結構危なかったけど、途中でキョニューが起きたから助かったよ」


 ユリは自分を指差して「わたし?」と言う。お前、〈良心〉の方のユリか。


「ご明察、相田くん。なかなかユリちゃんの自意識が強くて出て来られなかったけど、間に合ったみたいでね。ユリちゃんの馬鹿力を借りて、応戦していたの」


 力は強そうだったけど、体の使い方が変だったもんな。中身が違ったのか。


「同席できなくてごめん。わたしがいれば、説得できたかもしれないのに」

 美月の父を? 確かにユリは俺たちより距離が近いようだからな。磯上もなんか「さん」付けしているしさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ