表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
648/738

三十.貝なしと(24)

 転移先は、白い壁が続く巨大な管の内部のようだった。


「ここは?」ノエルが周囲を見渡す。

「タイムマシン実験の実験室へと続く地下道ですよ」


 ルリが位置情報を確認しながら呟いた。研究棟の地下室になっているわけか。想像していたよりずっと大規模なものだったな。美月を見ると、磯上の向こう側で俺たちを心配そうに見守っている。


「こっちに研究室がある。付いて来てくれ」


 磯上が通路の奥へと進んでいく。美月もそれに従っていく。あとちょっとの距離なのに、触れられないのが寂しいな。俺が美月の後ろ姿を眺めていると、美月が気付いてわずかに振り向いた。そして頬を赤くして、小さく小指を立てて見せた。約束、忘れないよな。俺も小指を返して見せた。ルリとノエルが羨ましそうに見ているのが、はずいけど。


 白い壁の通路の進んでいると、途中で磯上が止まる。そして壁に手をかざすと扉が現れ、開けられる。もう着いてしまったということらしい。美月の父親とは初対面だし、未来人の研究者と真面目な会話が成り立つのかという不安もある。美月だってお父さんを説得できなかったのに。


「大丈夫ですよ、シュータくんなら。いや、シュータくんだからこそ、かな」


 ルリは背中から体当たりで俺を押す。弾力あるね。研究室は思ったよりも広い空間だった。もしかしたら、以前はここで正式なタイムマシンのオペレーションをしていたのかもしれない。壁際にはモニターや計器が張り巡らされていて、科学特捜隊みたいだ。うん。


「来ましたよ」


 磯上が声を掛ける。すると部屋の中央にいた背の高い男性が振り向いた。襟付きのシャツにジャケットを羽織っている。よく考えたら、白衣を着るような研究じゃないんだよな。少し面食らった。褐色の肌に、癖のある黒髪をしている。美月と似ているのは一点。青く澄んだ綺麗な瞳と、すらりとした手足の長さだけだ。


「わざわざ、すみません」


 低くてよく響く、重みのある声だった。少し猫背。この人が美月の父親。


「あなたがシュータローくんか。会えて良かったです」

 ずいぶん物腰の柔らかな人だ。拍子抜けするな。


「後ろにいるのは?」


「ノエルです。まあ友達枠っす」

「ルリです。ご無沙汰です」


 父親は二人にも目礼をした。そしてルリの背後にも一瞥をくれていた。


「ミヨは来ていませんよ」

「ええ、そうですか。どうぞ座って」


 よくわからんが、ミヨは連れて来なくて正解だったな。俺とノエルとルリは三人並んで椅子に腰掛けた。反対側には、テーブルを挟んで父親が座る。威圧感は無い。凪いだ水面のような雰囲気の人だ。


 美月は部屋の隅の丸椅子に腰かけた。磯上がその傍に立つ。


「まずは娘が迷惑を掛けたことを謝りたい。君たちがどこまで把握しているのかはわからないですが、ルナの父親として謝罪させていただきたい」


 初っ端から頭を下げられると思わなかったな。


「別にそれは構わないんです。大した問題じゃない。むしろ、俺は美月に助けられました。美月がいてくれて良かった。お父さんには感謝したいくらいです」


 父親は力なく笑った。実験失敗の責任を感じているからなのだろうか。それともこれくらい普段から陰のある人なのかな。


「ルナは、今までにないくらい芯のある強い子になって帰って来てくれた。それはやはり、シュータローくんのお陰だろうと思う」


「俺?」

 照れ臭くなって隣を見る。ノエルはためらいなく頷いた。


「確かにシュータ先輩は、美月先輩の成長に一役も二役も買っています。ですけど、それは他ならぬ美月先輩ご自身が、自ら望まれたことでもありますよ」


 そうだな。もっと自分の娘に誇りを持っていいと思います。


「美月は優しいし、頭もいい。容姿だけでなく内面も美しい、稀代の女性です。だから皆から愛されていますし、俺も美月を一人の女性として心から愛しています」


 部屋の奥で美月が赤面して俯くのが見えた。お父さんの前でやり過ぎたかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ