三十.貝なしと(16)
部屋は三階だというので、階段を上る。転移装置はないのか? せめてエレベーターはないのか? これがこの学校の教育方針のようだ。非道い仕打ちだ。
「張り紙とか掲示物とか、ずいぶん古典的すねー」
物珍しそうにノエルは踊り場で俺たちを待つ。俺は脚を引きずって一段ずつ上る。どんだけ歩かせるんだ。ミヨ、おんぶして。
「いいわよ、私って健脚だからおんぶしてあげる!」
やっぱいいや。お前の棒切れみたいな体に担がれたら、投げ出されそうだ。俺は「左側通行」と書かれた階段のイラストのポスターを見て、破ってやりたくなった。最初からエレベーターにしておけば、通行法規も要らねえんだよ。
「それ、実物じゃないですよ」
ルリがプークスクスと笑った。
「ノエルくんも、古典的って言ってましたけどー、本物の紙ではなくARです。視覚的に紙らしく見えているだけで、実際は触れないですからね」
そういうものなのか。資源の節約だな。
「そのとーりです。紙とインクの無駄ですからね。もちろん実物の紙が必要なときもありますけど、そんな場合は一握りですよ。ですから、製紙に使う資源を抑制――あっ」
ルリが口を塞いだ。ちょうど三階にたどり着いた。
「やだあ、製紙に使うだってえ。変なこと言わせないで、シュータくん!」
ルリが赤面した。うるせえな……。元気になったらなったで面倒臭いルリに続いて、30の番号が振られた部屋に着く。無機質な赤い扉だ。
「乙女の園ですヨ、男子」
どうせ男子部屋みたいにエロ本が隠してあるのだろう。ほら、はよ入れろ。部屋は学生寮にしては広いもので、2DKってやつだな。机が二つにベッドが二つ、くつろげるスペースとキッチンまであった。
ミヨがベッドに飛び込んで訊く。
「ルリ、誰かと同居してるの?」
「えっへん。ルリのただれたセフレライフを妬んでるんですね。シュータくんまで賢者タイムみたいな顔して。やだあ、さすがHENTAIの国出身ですね~。発想が違う!」
「……」
久し振りに会ったらやっぱり面倒臭い。部屋に戻ると、ほっとしたのかルリは一層ルリらしくなった(良い意味かどうかさておき)。俺は入り口側の椅子に腰掛けた。ルリの勉強机だろう。普通の女子の机って印象だ。
「ルリにもルームメイトがいるのですよ。友人と共に清く正しく勉学に励んでいるのです」
ルリは胸に手を当てて微笑んだ。清純スマイル。すると、ノエルは無言で俺の目の前の机の引き出しを開けた。中にはエエッッッッッッッッッッッなブツが隙間なく詰め込まれていた。ノエルはすぐさま閉める。
「あ~ん、ノエルくん一発で引き当てちゃ駄目ぇ。ドSすぎます」
ルリがしがみつくも、ノエルは冷静に華奢な体をベッドへ放り投げた。結局むっつりスケベか。……えっ? ていうか、さっきのえげつないヤツもう一回見せ――
「……」
ミヨから絶対零度の視線を感じる。何としてでも目に焼き付けたいモノがあったのだが。俺は大人しく引き出しから手を離した。ノータッチ。
「それはいいや。いかんせん時間に追われているんだよ、俺たち」
「ですよねー。〈ピー〉でものを考えるな、心で考えろってマガジンでも言ってましたもんね」ルリが頷く。
その通りだ。せっかく会えたのだから有意義に時間を使いたい。ミヨが〈ピー〉音で真っ赤になるのを厭わず、話を進めさせてもらおう。ルリはミヨの隣に座り、ノエルは執事のように傍に立って話を聞く態勢になった。
「最初に社交辞令として訊くが、学校楽しいか?」
「ええ、もちろん。不純異性交遊とはどういうものか、学校は私に教えてくれましたとも」
たぶん人見知りむっつり少女を演じているから、男子との付き合いはなさそうだな。
「むむ、心外です。私はクラスのカースト上位の子とも仲良しで、良本を禁輸して密売しているのデス」
それが青春を謳歌する女学生のすることか。楽しそうなら言うことは無いが。




