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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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三十.貝なしと(14)

「あ、あれ」


 俺が指差した先だ。門の内側――校舎どうしを結んでいると思われる小径を、見慣れた服装の生徒たちが歩いている。見慣れた、というのはブレザー風の制服を着ているからだ。アトラス院みたいな……。


 そこで、長いスカートを翻して並ぶ二人の女の子がいる。一人は栗毛の元気溌剌な少女。もう一人は、眼鏡を掛けて控えめにくすくす笑い、教科書を大事そうに抱え、紫色の三つ編みお下げ髪をしている……。紫の髪!


「ええ⁉ あれがルリだって言うの? 人違いよ」

「そうっすよ。どうせ、アイツは素っ裸でほっつき歩いているに違いありません」


 偏見だと思うがな。どう見てもルリじゃないか。あの笑った童顔。


「じゃあ呼んでみればいいのよ」

 ミヨが肺いっぱいに息を吸い込む。カー〇ィも真っ青だ。俺とノエルは耳を塞ぐ。


「こ~んに~ちは~! ルリさん、いますかあ~!」


 ミヨの大声だ。地響きがして、鳥が何羽か飛び立っていった。ト〇ロも真っ青の大声だ。


「聞こえたよな……?」


 反応は無い。学生たちはポカンとして俺たちを眺めている。先ほどの紫髪の少女もこちらを傍観していた。人違いなのかな……。


「いや、よく見てください。あの子、顔が真っ赤です」


 ルリが赤面している。人違いじゃなくて、他人のふりを決め込んだのかしら。


「なーんだ。ルリじゃないみたい」


 ミヨはつまらなそうに、デジタルの案内板を操作し始めた。そう、なのかな? 少女らはそそくさと歩いて行ってしまった。


 面会の申込みが可能だったので、とりあえずルリという「30」の部屋の女子が目的で来たと伝えた。するとすぐ中に通してもらえて転移する。どうも校舎内の二階にある客間らしい。窓の外を眺めると、坂の反対側は山深い奥地だった。未来とはいっても、自然の中で過ごすこともできるんだな。ついさっきまで、あんな近未来都市にいたのに不思議な気分だ。


「すご~い、ゴージャスで広々ね。学校じゃないみたい」

 ミヨがソファーに寝そべった。お行儀悪い!


「シュータ先輩だって、何勝手に出された茶菓子を端々から食べてるんですか!」


 後輩に怒られた。だって目新しいし、どれも面白い味だから。このお菓子、チョコレートを葉っぱみたいなので包んであるんだけどよ、生のチョコミントみたいで美味しいんだよな。最初に考えたやつ天才だろ。


「まったく先輩は」

「まあ、わかってるよ。こうしている間も美月は心細い思いをしているかもしれないんだ。美月は俺たちが来ていると知らないんだろうからな……」


 ノエルは頷く。迎賓館のような落ち着かない内装に戸惑いつつ、三人でルリが来てくれるのを待った。もしかしたら面会を拒絶されるかもしれないよな。学校側がノーと言うかもしれないし、ルリが嫌がるかもな。さっきもあの失態を見られたわけだから。


「あ、ユリから返信来てるぞ」


 いつの間にか、俺の体内コンピューターの連絡欄にメッセージが来ている。相手はもちろん〈良心〉のユリだ。あいつは連絡が取れる状態なのか?


「どれどれ?」

 ミヨが俺の背中にのしかかってくる。重すぎだろ。


「は? 『重い』は百歩譲ってわかるわよ。『重すぎ』って何? 何キロからが『重すぎ』る体重なの?」

 ミヨがさらに寄り掛かる。しっし。メッセージを開くと、


――『報告アリガトウ。ユリちゃんは活動中。再び寝るのは十時間以上後かな。しばらく会えないから待機で。さみしい想いさせてごめんネ♡♡』


 十時間後――というと、何時なんだ? おいノエル。時間が難しいぞ。伊部のいるコロニーは今何時だ。さっきの町が朝で、ここはなんか夕方っぽくないか?


「何でも俺に頼らないでくださいよ。ここはもうそろそろ日が沈みます。時差があるんですね。でも十時間後というのは、紛れもなく十時間後ですよ。メッセージを送信してから十時間経てば、自由に動けるということでしょう」


 そうですかい。都合よくユリが眠るとも思えないし、最悪合流できないことも想定しないといけない。俺たちとしては、ユリが敵に回るより味方に付いてくれた方がありがたいのは確かだがな……。む?


「ねえ、シュータ。このハートマークが気になる。女の子からハートが届いたからって勘違いしてない?」


 今はそれどころじゃないんだよ。しっし。妙に平成感を感じる文面だとは思うが。


「あのー」


 そのとき不意にドアが開けられた。ノックがあったかもしれないが、ミヨの声がうるさくてどちらにせよ聞こえなかった。一応、よそ者であるため人と会うとなると緊張が走る。ノエルが俺とミヨを庇う。


 しかし、ドアの向こうにいたのは、先ほど見た紫髪の三つ編みお下げ髪の眼鏡っ子少女だった。その子は猫背で恐る恐る、ドアの内側を確認した。そして俺たちと目が合うと、笑顔になった。


「やっぱり、ノエルくんたちですかぁ?」

「久しぶりっすね、ルリさん」

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