三十.貝なしと(13)
「ちなみにノエル、瞬間移動は可能か?」
「ええ、できるっすよ。みよりん先輩は?」
ミヨは顎に手を当ててうなった。
「いいえ、こちらに来てから未来予知は全く機能しないわね」
そうなのか。超能力は普通に使えるようだし、そんなはずはないと思ったけどな。俺はこのタイミングで大事なことを思い出した。
「そういや、ユリと連絡先を交換してたんだった。今は第三コロニーにいるって、伝えておかないと」
ノエルは俺の腕を掴んで引き留めた。
「待ってください。ユリって、よくわからないですが〈良心〉とかいう別人格だけが協力してくれているんですよね。なら、居場所を伝えてはいけないのでは?」
「それがどうも、別窓口らしいぞ」
確かに自分でそう言っていた。ミヨが何かに気付いたように言う。
「でも、ユリの体内コンピューターって一つじゃないの?」
……一つのコンピューターに、受信ボックスは一つなのか? ちょっと待て。この時代ってさ、〈形態変化〉ってのがあったよな。
「昨日の先輩が訊いた話によれば、タコちゃんの超能力と同じものですね。透明になったり、別人になりきったり、外見を自在に変化できる」
ノエルがスラスラと語る。つまりさ、
「本物のユリじゃないってこと?」ミヨが言った。
うーん、正直見分けはつかなかった。今まで見てきたユリじゃないことは確かだ。能天気っぽいというか、クールで冷酷なドS女王様ではない。そうこうしているうちに、俺たちは転移装置のあるスポットまで来てしまった。芝生の上にある、のどかな公園内だ。
「考えても始まりません。ユリにはどこか安全な地域で、面会に臨みましょう」
「そうよ、どっちにしたって公衆の面前で暴力は振るえないようだし」
二人の言う通りだな。〈良心〉を名乗る「ユリ」は決して悪意は持ってなかった。移動したことだけ伝えて、様子を窺うことにする。まずはルリの元へ行く。
転移先は、森閑とした噴水広場だった。人影がない。なるべく学校に近いポイントを選って来たから、そう遠くはないはずだが。広場の石畳が続いていく道は緑が深い丘に続いており、頂上には校舎らしいレンガ造りが見える。あれがルリの通っている学校か。
「へえ、いいじゃない。軽井沢みたいね。空気が美味だわ」
空気に味覚を感じる不思議ちゃんのミヨはさておいて、地図係のノエルくん。ここが伊部の教えてくれたシルベーヌかね。ノエルはZ世代らしくデジタル画面を顔の前ですいすい操る。
「はい。この町です。アルシーヌです。あの坂道の上がルリの通う学校っすね」
「軽井沢みたいね。巨人の椅子」とミヨ。
「お前、軽井沢アピールするな」
でも俺も連れて行ってもらったことあるよ。小さい子供の頃に。
「毎年行ってる」ミヨが自分を指差す。うざ。
「俺は熱海や伊豆ですねえ。去年は岐阜まで」とノエル。
――は? 黙れよ。お気に入りの避暑地が奥日光の俺は、二人を無視して坂の麓まで歩いて行った。見るからにしんどそうなダラダラ坂だが、本当にここで合っているんだろうな。
「エスカレーターとか無いんですかね?」
「無さそうよ。歩きましょ。私は元気」
歩くの大好きだもんな、お前。どんどん行ってしまうミヨに続いて坂の上を目指す。なんでこんな、未来にまで来て、息を切らさなならないんじゃ。
「これくらいでぶつくさ言うな……」
ミヨに憐れな視線を浴びせられる。ほんの少しの運動は、運動不足の俺には辛い。
「遅いっすよ、先輩」
いつの間にかノエルが坂の上で待っていた。瞬間移動!
「ここが学校なのね」
ミヨがふうんと周囲を見渡す。何棟も建物が屹立している。どこがどこだ。
「構内図があるでしょう。ほら」
ノエルが、目の前に浮かぶデジタル画面を操作する。門の前にメニューが開いた。なるほど、ここで受付をしているのか。〈来校された方へ〉の項目を開く。確か、伊部がアポを取得してくれているんだったよな。用件を伝えれば――
「でも、なんて言うの? 授業中かもしれないのに、お友達に会いに来たって言っても……。シュータ?」




