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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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三十.貝なしと(13)

「ちなみにノエル、瞬間移動は可能か?」

「ええ、できるっすよ。みよりん先輩は?」


 ミヨは顎に手を当ててうなった。


「いいえ、こちらに来てから未来予知は全く機能しないわね」


 そうなのか。超能力は普通に使えるようだし、そんなはずはないと思ったけどな。俺はこのタイミングで大事なことを思い出した。


「そういや、ユリと連絡先を交換してたんだった。今は第三コロニーにいるって、伝えておかないと」


 ノエルは俺の腕を掴んで引き留めた。


「待ってください。ユリって、よくわからないですが〈良心〉とかいう別人格だけが協力してくれているんですよね。なら、居場所を伝えてはいけないのでは?」


「それがどうも、別窓口らしいぞ」

 確かに自分でそう言っていた。ミヨが何かに気付いたように言う。


「でも、ユリの体内コンピューターって一つじゃないの?」


 ……一つのコンピューターに、受信ボックスは一つなのか? ちょっと待て。この時代ってさ、〈形態変化〉ってのがあったよな。


「昨日の先輩が訊いた話によれば、タコちゃんの超能力と同じものですね。透明になったり、別人になりきったり、外見を自在に変化できる」


 ノエルがスラスラと語る。つまりさ、


「本物のユリじゃないってこと?」ミヨが言った。


 うーん、正直見分けはつかなかった。今まで見てきたユリじゃないことは確かだ。能天気っぽいというか、クールで冷酷なドS女王様ではない。そうこうしているうちに、俺たちは転移装置のあるスポットまで来てしまった。芝生の上にある、のどかな公園内だ。


「考えても始まりません。ユリにはどこか安全な地域で、面会に臨みましょう」

「そうよ、どっちにしたって公衆の面前で暴力は振るえないようだし」


 二人の言う通りだな。〈良心〉を名乗る「ユリ」は決して悪意は持ってなかった。移動したことだけ伝えて、様子を窺うことにする。まずはルリの元へ行く。



 転移先は、森閑とした噴水広場だった。人影がない。なるべく学校に近いポイントを選って来たから、そう遠くはないはずだが。広場の石畳が続いていく道は緑が深い丘に続いており、頂上には校舎らしいレンガ造りが見える。あれがルリの通っている学校か。


「へえ、いいじゃない。軽井沢みたいね。空気が美味だわ」


 空気に味覚を感じる不思議ちゃんのミヨはさておいて、地図係のノエルくん。ここが伊部の教えてくれたシルベーヌかね。ノエルはZ世代らしくデジタル画面を顔の前ですいすい操る。


「はい。この町です。アルシーヌです。あの坂道の上がルリの通う学校っすね」


「軽井沢みたいね。巨人の椅子」とミヨ。

「お前、軽井沢アピールするな」


 でも俺も連れて行ってもらったことあるよ。小さい子供の頃に。


「毎年行ってる」ミヨが自分を指差す。うざ。


「俺は熱海や伊豆ですねえ。去年は岐阜まで」とノエル。


 ――は? 黙れよ。お気に入りの避暑地が奥日光の俺は、二人を無視して坂の麓まで歩いて行った。見るからにしんどそうなダラダラ坂だが、本当にここで合っているんだろうな。


「エスカレーターとか無いんですかね?」

「無さそうよ。歩きましょ。私は元気」


 歩くの大好きだもんな、お前。どんどん行ってしまうミヨに続いて坂の上を目指す。なんでこんな、未来にまで来て、息を切らさなならないんじゃ。


「これくらいでぶつくさ言うな……」

 ミヨに憐れな視線を浴びせられる。ほんの少しの運動は、運動不足の俺には辛い。


「遅いっすよ、先輩」

 いつの間にかノエルが坂の上で待っていた。瞬間移動!


「ここが学校なのね」

 ミヨがふうんと周囲を見渡す。何棟も建物が屹立している。どこがどこだ。


「構内図があるでしょう。ほら」


 ノエルが、目の前に浮かぶデジタル画面を操作する。門の前にメニューが開いた。なるほど、ここで受付をしているのか。〈来校された方へ〉の項目を開く。確か、伊部がアポを取得してくれているんだったよな。用件を伝えれば――


「でも、なんて言うの? 授業中かもしれないのに、お友達に会いに来たって言っても……。シュータ?」

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