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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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三十.貝なしと(12)

「でさ、時間があるなら用事を済ませたいんだが」


 ノエルを呼び戻し、俺たちは川べりのベンチに横並びに座っていた。近未来に相応しくないようにも思える天然自然の風景を街に運んでくる運河は、石造りで護岸されていた。


「先輩は、こちらで何かしたいことでもあったんですか?」

 ノエルが首をかしげる。俺は実のところ、用事を思い出したのである。


「ええっと、大した用事ではないんだがな」

「煮え切らないわね」ミヨがストローをガジガジ噛みながら睨みつける。


「ルリに一目会えないかなって」


 二人とも怪訝に眉をひそめた。どうせそういう反応だと思った。


「ルリって、あの変態よね?」


 身も蓋もないが、その変態だ。


「あいつは黒幕とは何の関係もなく、学校に通うためにこの件から身を引いたって聞いていましたけど?」


 ノエルの言う通り。ルリは学校で寮生活をしながら勉強中らしい。


「別に、美月救出作戦のために会いたいわけじゃないよ。ただ……卒業旅行あったろ」

「あったわね」


「そのときお土産を買ったんだ。だから今度、お土産取りに来いって言おうと思ってだな」


「なんで、あの子にお土産を」

 ミヨはいろんな角度から睨みを利かせてくる。いや、だって世話になったし。


「それに、最近見てないしな」


「そう言えば、あのうるさいのは今年度に入ってから見かけませんね」

 ノエルは笑顔を浮かべた。俺は足を組む。


「せっかくこっちにいるんだ。連絡先は知らないわけだし、直に会いに行くチャンスじゃないか」


 そうは言ったものの、ルリの居場所が詳しくわからないんだよな。学校に通っているらしいし、この街なんじゃないかと想定していたのだが。


「なら伊部くんに訊きましょうよ。すぐ出てくれるわ」


 ミヨが体内コンピューターを駆使して伊部に連絡を取った。伊部は間髪入れずに応答する。アジトにいるいつもの伊部だ。


『おい、忙しいんだよ。どうせ有名なホットドッグ屋さんが――とか、美味しいスムージー屋さんが――とか、そんな連絡だろ。かけてくるんじゃねえ』


 ホログラムで上半身だけ登場した伊部は、早々に文句を言った。ミーハー心でスムージーを買い求めたミヨの痛い点を的確に突いている。


「そ、そんな用向きじゃないわよ! 質問があるの」

『なんだ』


「ルリっていたでしょ? あのアホっぽい変態」


 身も蓋もない言い方だが、事実そうだ。脳裏にルリのマヌケ顔が浮かぶ……。


「あの子って今、私たちの近くにいる? 私たちも会える?」


 伊部は予想外の質問に毒気を抜かれたようだった。頭を掻く。


『ルリかよ。暇だから挨拶回りでもしようって? まあ会えないことはないだろ』


 持って回った言い方をせずに、行き先を教えてくれないか。


『いや、行けば会えると思うぜ。でも、遠くにいる。ルリがラボのある市にいるわけないだろ。あいつはあそこから逃げ出して来たんだから』


 あ、なるほど確かに。


『ルリは同じ第三コロニーでも、ずっと北西の町にいる。『アルシーヌ』っていう山あいの町の全寮制アカデミーだ』


 ああ、シルベーヌね。高級感のあるお菓子だ。


「そこなら安全なの?」ミヨが尋ねる。


『いわば、そこは緩衝地帯のようなものでね。お前らのいる『ヴィンセント』が第三コロニー直轄で、公的な規制が強い学校が多いのに対して、辺鄙な場所にある学校は比較的多様性のある校風や教育方針が多い。『アルシーヌ』以西は、特に顕著だ。そういう意味で緩衝地帯として解釈されている。他のコロニーからの移住者も多い』


 この時代にもイデオロギーがあるのか? 瑕のない綺麗な未来かと思いきや、人々の間の溝は少なからずあるようだな。


「その学校に行けば、すんなりルリさんには会えるっすか?」


『たぶん。――向こうはまだ早朝だろうから、寮の受付で名乗って呼び出してもらえばいいんじゃないか? ユリみたいなラボの人間が出向いたら断るようになってるけど、お前らなら……』


 ミヨがバナナスムージーを飲み干した。


「ぷは。――ならさ、伊部くんが向こうに連絡入れておいて。さ、シュータ行きましょ」


『おい、俺は雑用か。便利屋の雑用係なのか』

 そういう役回りじゃないの? そうじゃなけりゃお前、主要キャストの位置を貰えてねえぞ。


『シビアだなー。一報は入れておくよ。あいつの部屋番号は30な』

 伊部が気難しい顔で作業を継続する。あ、そうだ。報告をしていなかった。


「さっき磯上に会ったぞ。あのヤロー、美月と話したらしい」

 伊部は血相を変えた。


『それを、早く、言え! いの一番に言え、ポンコツアクマ!』

 悪かったって。怒鳴るなよな。


『磯上が、お前らと接触したのか?』


「そうだ。美月はラボにいて、お父さんと話したらしいぞ。却下されて、今は寮部屋で大人しくしているって」


 伊部が心底恨めしそうな目で見つめてくる。


『答え合わせを向こうからしてくるんなら、俺がコソコソ調査する必要なかったじゃねえか! ああそうかい、ルナはラボにいるんかい。じゃあ侵入経路を確保すればいいだけの話じゃねえかよ!』


 一人で勝手にキレてやがる。ノエルは肩をすくめた。


「で、実行はいつにします?」

『作戦決行は、夕方にしよう。時刻が迫ったら改めて連絡する』


 あいあいさー。


『準備はしておけよ』

「わかってるよ。そっちも頼んだぞ」


 当然、ルリとじゃれ合って時間を食い潰されることは無いだろう。……多少、ロスするにしてもね。


 伊部との連絡を切って、三人で転移装置のある場所へ歩いて向かう。町中に移動用のスポットは点在している。最小だと、電話ボックスくらいの大きさのデジタル施設なのだ。置き場に困らないし、便利だからそこかしこにある。

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