三十.貝なしと(10)
俺たちは転移装置を使って、第三コロニーに移動してきた。転移先は堂々と移動ゲートから。
出た先は、市民体育館のような場所だった。テニスのような見覚えのあるスポーツもあれば、ヴァーチャル空間を用いた知らない競技もある。
ミヨが迷子にならないよう引きずりながら、外に出ると、外は明け方だった。午前10時らしい。こっちは一日三十六時間だから、二十四時間に換算すると――わからん。
「ねえシュータ。あっち見たい」
「うるさいやつだ。ひとまず三人で、ラボってやつを下見に行くぞ」
ミヨは「えー」とむくれる。本来の目的を忘れたわけじゃないだろうな。
「マップによると、七百メートルほど離れていますね」
ノエルが俺たちのいざこざなど、どこ吹く風で道案内してくれている。ちょっと遠いなと思ったら、ノエルは建物の軒先に向かって手招きした。
「レンタルのスクーターがあります。乗りません?」
どうも空中を移動できる、一人乗りスクーターらしい。空飛ぶ乗り物って、まさに未来のシロモノじゃないか。ミヨなぞは、好奇心をときめかせて早速またがった。
「これ、どうやって動かすの?」
「実は、空に見えないレーンがあるんです。ほら、あそこにも乗っている人がいるでしょう? 視界のデジタル画面を、乗り物用に切り替えてください。あれが落下防止レーンです。あの上を走れるわけです」
確かにデジタル画面で見ると、地上から五メートルくらいの場所に青いラインが血管のごとく引かれている。地上は完全に歩道で、空中に車道を作ったらしい。だが、いくら落下防止策が講じられているとはいえ、高所恐怖症には辛いぞ。
「滅多なことじゃ振り落とされませんよ。速くもないですし。球状のゴンドラ型タクシーもありますが、どうします?」
いいよ、観光だと思って乗ろう。はしゃぐミヨを追い掛けて飛び乗る。ナビもあるし、ほぼ自動運転だし、空中飛行でも何ら運転は難しくない。こういうとき必ず事故を起こすミヨも安全運転を強いられていた。
「ねえシュータ、見てよ。この町並み!」
前を走るミヨのせいで、眼下に視線を誘導されてしまった。大小さまざまの建築物が見える。真っ白なビルもあれば、ガラス張りの奇抜な形の建築もある。バカ高いタワーもあるし、それらの町並みは扇状に、幾何学的に整備されていた。家や道があって町が出来上がったというより、初めから都市として設計されていたのだろう。今は扇の円の外側に向かって移動していた。
まだ朝で人通りは多くないが、あちらこちらにある自然の多い敷地は学校のキャンパスなのかもしれない。学園都市って言っていたし。
「あっ、もう着いちゃうわ」
スクーターが下降を始める。やがて荘重な門の前に降り立った。ノエルが「リリースすれば、スクーター置き場に帰りますよ」というので、運転モードを解除してやると、スクーターは自動運転でどこかの置き場に戻って行った。便利なやつ。
「ここが、美月が訪れた研究所か」
「カプセル・コーポレーションみたいっすねえ」
ノエルが眩しそうに馬鹿デカい球体の建物を眺めていた。掲げられた案内板を見ると、ヴィンセント市立の先端技術研究所と書いてある。この中にタイムマシン実験の研究本部もあったのだろうか。門の内側は、緑もちらほら見えるが、人工的なドーム型の形をしている。
「ビッグエッグよ、シュータ」
「東京ドームをそう呼ぶ十代はいないぞ」
「でも、実際に東京ドーム一個分くらいの大きさじゃないでしょうか」
ノエルがマップを提示する。いや、まあ見ただけじゃわからんけど。
「ジェットコースターがないわよ」
「ドームシティは無いはずだぞ」
「け〇おん!は? ゆる〇ャン△は? ぼ〇ろは? きららは?」
「芳〇社もないと思うぞ」
ミヨのボケはさておいて。どうだ、ちょっくら侵入できそうか? ノエルは門の外周を見物して戻って来た。正面口はゲートが閉められているが。
「ここの研究生じゃないと入れないでしょうね。何らかの認証が必要かと」
やはりそうか。美月がここにいる可能性もゼロじゃない。ひょっこり顔を覗かせてくれたら良いのに。だが俺たちはもう一度ここに来る可能性もあるんだ。頑張っても侵入できないか。
「空中からでも難しいでしょう。防犯用の対策はネズミ一匹通さないはずです」
「ネズミなんていないでしょ。それとも未来ネズミがいるの⁉」
ミヨが目を輝かせる。未来ネズミって何だ。サイボーグか、喋るのか。それともミッ〇ーマウスかな(これも流石に伏字)。俺はミヨの肩を引っ張る。
「伊部はここの所属らしいから、正面から入れてくれるのかもな」
その後、どうなるかはまだわからないが。せめて内部設計書でも閲覧したいが。
「内部の地図なら、探せば見つかるでしょう。心配ありませんよ」
ノエルは腕組みして頷く。
「あのね、シュータ。お腹空いたんだけど」
ミヨが俺を見上げていた。捨て犬みたいな瞳だ。
「お腹空いたから何だ。早く起きて来ないからだ」
「あれ」
ミヨはキッチンカーのようなものを指差した。学生らしき若者たちが列をなしている。朝っぱらから活気のあることだ。歩道では私服で鞄を抱えた女子が並んでお喋りしたり、黙々とランニングする人もいたり、カフェのテラス席で読書したり……朝から学生や研究生たちでいっぱいだ。朝食も街に出て済ます人が多いのだろう。
「じゃあ寄ってみればいいだろ。別にそれくらい構わないよ」
「やった」




